Ⅳ
諏訪さんに、相談してみようか。私は諏訪さんの人生経験から答えを貰えるのではないかと期待した。
「実は、毎日の仕事に忙殺されて、私は一体何のために生きているのだろうか、とふと思うことがあるのです。生き甲斐とは? 働き甲斐とは? 等と思うことが多くなったのです」
「成る程、貴方くらいの、仕事にも重責がかかってくる人が陥りそうな悩みですな。誰もが通過する疑問ですよ」 諏訪さんは、頷きながら話した。
「しかし設楽さん、あなたの場合は変ですね、貴方は結婚しているのでしょう。しかもこんなに可愛い子宝にも恵まれている。そんな生活環境にある人が生き甲斐や働き甲斐に悩むとは、おかしくはないですか? 貴方は奥さんを、息子さんを愛してはいないのです か?」 私は、諏訪さんの顔をじっと見詰めた。
「勿論、二人とも愛していますよ!」「でしたら、何も悩むことはないと思いますがね。二人のために愛する人のために、生きていかねばならないのではないですか。その為に一生懸命に働いている のでしょう。生き甲斐とか働き甲斐等を、考える必要はないと思いますがね。ほーっほっほっ」 諏訪さんは川に目を向けた。渡り鳥だろうか、数羽の鳥が川で羽を休めていた。
「そうですね、何も悩むことはありませんですよね! 私には守るべき愛する人達がいますから」
ーーほーっほっほ、ほーっほっほーー
諏訪さんは笑った。
「何だか、一寸変ですね! 悩みはもっと違うものなのではないのかな?」 私は、心のなかを見抜かれた様に感じた。私が抱えている病気 の事を言っているのだろうか。そこで私も諏訪さんに尋ねた。
「諏訪さんの生き甲斐は、仕事にあったのですか? 悪いやつを捕まえるという遣り甲斐ですか?」
「いえ、いえ、そんな高尚な事など考えていませんじゃったよ、貴方と一緒ですよ、妻 と子供を愛していたからじゃよ。まぁ、婆さんは二年前に先に逝ってしまったけどな! 仕事は苦しかったよ、婆さんや息子に随分苦労を掛けた、生き甲斐なんて、考えてる余裕等有りませんでしたな。仕事を辞めてからは 、孫が生き甲斐になりましたよ」諏訪さんは、遠くを見詰めていた。昔を思い出したのだろう。
「一つ、私も隠していたことを話しましょう。 実は、儂がここによく来るのは、訳があるんじゃ、十年ほど前にここで殺人事件が有りましてね 。丁度息子が所轄警察署の殺人係に居たときで、手掛かりがなく、未だに犯人が挙がっていません。息子は悔しくて、犯人探しを続けていたのですが二年前にD県警本部に転勤しましてね、代わりに私が捜査を続けているの ですのじゃ。何か手掛かりが得られないかとね! 被害者はまだ二十二歳の女性でした。そんな若い女性の将来を絶つなんて儂も許せんじゃった。」
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