No.006:新学期
いままで寮からの徒歩通学だった俺にとって、電車での通学は朝から新鮮かつ面倒なイベントだ。それでも通学時間はおよそ30分。贅沢を言ったらバチがあたる。
正門を抜けると大勢の生徒が集まっているのが見える。今日から新しい学年なので、クラス分けを書いた紙が掲示板に張られているのだ。その前で新2年生と3年生はもみくちゃとなり、ワイワイと騒がしい。
俺は人込みをかき分け、なんとか掲示板の前にたどり着いた。俺の名前を探すと「2年A組」の中に発見することができた。
同じ組の名簿でざっと目で追う。何人かは去年も同じメンバーだが、その中で「
「お、雄介と今年も同じ組か」
雄介は去年も同じ組で、比較的よく話す間柄だった。俺は寮生だったからあまりプライベートでは付き合いはなかったが、ちょっと大人びておとなしい感じがして俺は自然に接することができて楽だった。
雄介は180センチ弱の長身で細身、柔らかいマスクに装着されたメガネはとてもインテリに見える。当然女子からはモテるのだが「高校生とかは子供っぽくてダメ」というのが彼の口癖だ。どうやら女子大生のお姉さまとか、年上女子とお付き合いをしているとかいないとか噂はあるが、あまり詳しくは本人からも教えてもらったことがない。
雄介の父親は地元の大手不動産会社、久山不動産の社長。雄介にはお兄さんがいるのだが、小さい頃から白血病を患っていて入退院を繰り返しているような状況で、学校にもほとんど通えていない状態らしい。そんなわけで雄介は次男だが、父親の会社の跡継ぎ候補と目されている。
俺は掲示板の名簿を見ながら、さらに名前を追うと……
「おっと……学園のアイドル様とも同じ組じゃん」
俺は「
花宮琴葉……身長は155cmくらい。サラリとしたロングの黒髪、切れ長だが二重でややタレ目の目元は愛嬌がある。シュッとした鼻筋に形の良い唇、細身だが噂では隠れ巨乳で推定Fカップとの情報。「栄花の
彼女はこのあたりで一番大きな寺院、
その凛々しい巫女装束姿が評判を呼び、週末にうちの高校から完永寺を訪れる男子生徒もかなり多いらしい。またその姿の生写真を、いい値段で売り捌く不届きな輩もいたりするぐらいだ。
そしてなんの因果か……花宮の母親と雄介の母親が実の姉妹らしい。つまり花宮と雄介は「いとこ同士」ということだ。
実際二人は昔からお互いの家を行き来するような「幼なじみ」らしい。雄介はそのルックスのみならず、いろんな意味で男子生徒から羨ましがられている存在なのだ。
以前その辺のことを雄介と話したことがある。雄介に「花宮と遊びに行ったりとかしないのか?」と訊いたところ、「アイツはダメ。
その理由はどうなんだ……とは思ったが、実際のところは「距離が近すぎて恋愛感情にならない」とのことらしい。まあそういうこともあるのかもしれない。
俺はその巫女様と一度話をしたことがあるのだが……まああまり印象に残るようなイベントでもなかったので、きっと本人は覚えていないだろう。
俺は2年A組の教室に向かって歩きだした。去年同じクラスだった連中の中には「おっ、城之内はA組なのか? じゃあ巫女様の写真頼むわ」と声をかけてくるヤツもいたりした。
教室に入ると既にたくさんの生徒が集まっていた。席がまだ決まっていないので、皆適当に散らばって喋っていたりしていたのだが……
「ナオ、また同じクラスだな」
おそらくは2年A組イケメン代表の雄介が声をかけてきた。
「ああ、そうだな。よろしくな」
「そういえばナオ、もう寮は出たのか?」
「ああ、昨日新しいアパートに引っ越したばかりだ。いろいろと大変だよ」
「そうだったんだな。言ってくれれば父親に頼んでいい物件が紹介できたかもしれなかったのにな」
「そうか、そういえば雄介のところは不動産会社だったな。いやーマジでそうすればよかったわ」
少なくとも「事故物件」を紹介されることはなかっただろう。
「なんだ? 今のアパート、なにかあるのか?」
「まあ大したことじゃない。ちょっとした人助けが必要なだけだ。いや『人』ではないか……」
「?」
雄介は少し首をかしげたが、俺はそれ以上の説明は当然避けた。地縛霊と同居なんて言ったって、信じてもらえないだろうからな。
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