8月(その2)

   

 暑くなっても、子犬は散歩が大好き。

 ただし、日光に照らされ続けたアスファルトは熱くなり、犬は靴をはかないのでそれが足の裏にダイレクトに伝わるのだろう。日向では「早く日陰に入りたい!」と言わんばかりに走り出す、という光景も度々見られた。

 走る時は左右の足を揃えて、歩く時は左右の足を交互に。ちょうど日向と日陰で、その違いも顕著に現れていた。


 七月の散歩のところで「近所の住宅街をぐるっと回って、だいたい三十分程度」と書いたが、八月に入ったあたりで、移動距離や時間が少しずつ増えてきたようだ。

 住宅街だけを散歩していた頃は、大通りに出たら、すぐに引き返すようにしていた。大通りといっても車道は片側一車線、歩道も狭いため、通行人や自転車とすれ違うのは危ないと考えたからだ。

 しかしその大通りを歩いている写真が、スマホの八月の画像フォルダに残っている。しかも住宅街から出たあたりではなく、少し離れた地点だ。大通りもかなり歩くようになっていた、というあかしだろう。

 山道みたいな写真もあったが、それも近所の様子だ。先ほどの大通りと別の大通りとを繋ぐ抜け道で、後者は片側二車線で歩道も広い。本当の大通りだ。

 そちらまで歩くとなれば、一時間くらいはかかる散歩コースとなる。毎回ではないにしても、少しずつ時間も長くなり、いつもと違う場所を歩くようになっていたわけだ。

 そういう犬種だからなのか、あるいはうちの子犬の個性なのか。とても好奇心は旺盛らしく、散歩でも新しいところを歩くと、いつも以上に嬉しそうだった。


 大通りを歩く際に心配だったことの一つに、横断歩道の存在がある。

 しつけも何も出来ていない犬だから、青信号と赤信号の違いが理解できないのではないか。自動車も大好きのようだから、赤でも自動車に向かって飛び出してしまうのではないか。そんな不安を感じていたのだが……。

 完全に杞憂だった。信号の色の意味まではわからないとしても、目の前を自動車が走っていたら「今は渡ってはいけない」という程度は理解できたらしい。信号が赤の時は、渡ろうとはしないでくれた。

 それどころか、青になって横断歩道を渡り始めると、急いで走ろうとするのだ。渡り終わったところで歩き出すので、先ほどの日向と日陰みたいな「足の裏が熱い!」という理由ではなさそうだ。ならば「自動車が待ってくれているから、急いで渡らないと!」と考えているに違いない。

 私が思っていた以上に、犬は賢い生き物だった。

   

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