5月(その2)

   

 子犬が我が家に来て最初の夜。

 私自身が夜中にトイレに行くたびに二階から玄関の辺りの様子を見てみたが、おとなしくケージの中で寝ているというより、玄関中を動き回っている感じだった。

 環境の変化に戸惑ってよく眠れなかったり、最初なので行動可能な範囲を確かめたりしていたのだろうか。

 また、最初の一日、二日くらいは全く声を出さず、密かに「もしかして声帯に支障があるのでは?」と心配になるほどだったが……。三日目くらいから普通に鳴いたり吠えたりするようになった。これも「最初なので」という理由で、どうやら猫を被っていたらしい。


 飼育ケージは犬用ベッドとトイレ用トレーの両方が入るサイズだが、常時開放にしていたので、当初はトイレ用トレーをケージの外に出していた。

 しかし、なかなかトレーの上で排泄してくれず、玄関中をウンチとオシッコだらけにしてしまう。

 自分が出したウンチを踏むことはないようで、その点は助かる。しかしティッシュやトイレットペーパーでオシッコを拭こうとすると、ヒラヒラした紙がおもちゃみたいで面白いらしく、そこに子犬がじゃれついてくるのだ。仕方がないので「あっち行って」と長い棒で突っついたり、一人が犬と遊んでいる間にもう一人が掃除したり。それは大変な点だった。

 玄関マットはあまりに汚れたので処分してしまった。「フローリングだと足が滑るから」という意味で、子犬のためにこそ必要な玄関マットだったのに。


 また、この飼い方で大変なのは、犬の世話とは別に、私や父が外出する際だった。

 玄関とその近辺が子犬のスペースなので、いちいち外出のたびに子犬のテリトリーに入り込むことになるからだ。

 足にまとわりついてくるので、蹴ったり踏んだりしないよう、いつも気を使う形になった。人間の足も靴もスリッパも、子犬にとっては絶好のおもちゃだったらしい。

   

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