68.まさかそんなのを獲るとは思わなかった

 それから何隻か船を見つけた。

 どれも大型船ではなかった。

 南に向かって飛んでもらったら、でかめの赤い点が現れた。それもいきなり。

 頭上か? と空を見上げたがそんな影は見えない。

 ってことは……。


『おお、うまそうなのが見えるのぅ』


 ドラゴンが嬉しそうに唸った。光の加減なのか、俺には水中が見えなかった。


「……海中ですか?」

『うむ。そなたも気づいたか』


 機嫌よさそうにドラゴンが答える。


「うまそうってことは……」

『しっかり掴まっておれよ』

「……えええええ!?」


 俺は慌てて口を噤んだ。ドラゴンがいきなり海に向かって急降下したからだった。ドラゴンの姿をとらえてか、赤い点が更にでかくなる。これって、海の底辺りから浮上してきたのか?

 海中から現れたのは……大蛸だった。

 待って、と思った。

 その大蛸の頭にドラゴンがかじりつき、そのまま飛び上がった。大蛸は触腕を伸ばしてドラゴンから離れようとする。しかもその触腕は俺たちにも絡みついてこようとしていた。

 いくらなんでもドラゴンさんの背の上じゃ俺たち動けないんだけど! と思ったら、俺の上着の内ポケットに入っていたミコがバッと出てきて触腕に噛みついた。

 えええええ、と思った。

 ドラゴンが飛んでいるのにミコは大丈夫なのだろうかと心配になった。とりあえず絡みついて来ようとする触腕はサバイバルナイフで何度も切りつけて、どうにか絡みつかれずに済んだ。

 つーかなんなんだよこれえええええ!

 ドラゴンはそのまま南東に飛び、森の西側にある高い山の少し広いところに降りた。

 そうして頭をガブガブと食べた。

 うわあ、と思った。

 確か蛸って脳が九つあって心臓が三つあるんだっけ? 触腕の暴れっぷりがとんでもないので俺と中川さんはどうにかドラゴンの背から降り、しばらくドラゴンと大蛸の格闘を見守った。その前に触腕の一部を切り取ってきたので、それをミコとカイにあげたらおいしそうにガブガブと食べ始めた。


「……怪獣大決戦ってかんじね……」

「中川さん、大丈夫だった?」

「ドラゴンさんの背に密着してたからどうにかなったわ。一緒にいる時に蛸とかイカはもう獲ってほしくないかな……」

「そうだね。危ないしね……」


 蛸ってけっこう陸でも生きられると聞いたことがあった。でも大蛸はかなりでかいから、自分の重さで潰れたらしくやがて動かなくなった。

 ほっとした。

 ドラゴンはおいしそうに頭と胴体の部分を食べている。


「ドラゴンさん、腕の部分ってもらってもいい?」

『よいぞ。我はこの部分が好きじゃからのぅ』

「ありがとうございます」


 礼を言って、どうにか胴体部分から触腕を切り離した。吸盤の部分はけっこう固いのでここは切り取らないと食べられないだろう。でもミコたちは吸盤の部分もものともせずバリバリと食べていた。


「……ミコたちって顎強いんだよな……」

「あんなにちっちゃい身体なのにすごいわよね」


 感心してしまう。

 触腕は全部持って帰るとして、どうやって食べたらおいしいだろうかと考えてしまう。


「そういえば……このぬめりを取らないとあんまりおいしくないんじゃなかったかしら?」


 中川さんに言われて触腕を眺める。確かにぬめぬめしているように見えた。


「塩で揉んで洗い流せばいいかしらね。だったらドラゴンさんのところの潰された岩塩が使えるかも!」

「あ、そうだね」


 ドラゴンが飛び立つ際にいちいち岩塩を踏みつぶしていくから、なんかもったいないと思っていたのだ。あれらを使うというのはいい方法だと思った。


『さすがにこれ以上は食えぬな……』


 ドラゴンもさすがに頭と胴体を全部食べ切ることはできなかったらしい。かなりでかいし。


「持って帰りましょうか?」

『……よいのか?』

「お世話になってますし」


 俺のリュックなら全部運べるしな。さすがにうねうね動いていた触腕がその動きを止めるまで待ち、リュックに全部入れて山の上に戻ったのだった。

 ドラゴンの洞窟は涼しいということもあり、洞窟の中に残りの胴体は置かせてもらった。一応氷魔法で凍らせておいたから二、三日は持つだろう。

 そして大蛸の触腕をテトンさんたちに見せたら、


「な、ななななんですかそれはぁ!?」


 とひどく驚かれてしまった。

 まぁ普通は見たことないだろうしな。

 触腕の吸盤部分を切り落としていたら、それらはミコたちイタチが全部咥えて持っていった。だからなんでそんなに顎が強いんだよ? おいしくいただいてくれるならいいけれども。


「そ、それを食べるのですか……?」


 テトンさんたちはずっと引いていた。


「ええ、おいしかったらいいなーと」


 中川さんは平然としている。吸盤をこそげ取った触腕に潰されまくった岩塩をかけて揉んでいく。かなりでかいからたいへんだ。


「うわー、気持ち悪いよー」


 そう言いながらチェインは手伝ってくれた。

 とりあえず触腕を一本洗い、ぶつ切りにして焼いてみた。ぶつ切りの一個がかなりでかい。


「不思議な香りがしますね……」

「なんでしょう、この匂いは……」


 別にアンモニア臭くもないし、なかなかおいしそうだと俺は思った。

 そして焼けた蛸の触腕のぶつ切りに醤油をかけて食べてみた。


「うっまあああああああ!」

「おいしいいいいいいいい!!」


 筋肉の弾力がすごいけど、とんでもなくうまくて俺と中川さんは思わず声を上げたのだった。


次の更新は、26日(土)です。よろしくー

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