【書籍発売中】準備万端異世界トリップ～森にいたイタチと一緒に旅しよう！～

６９．海の幸（魔獣）に惹かれるのはしょうがない

　大蛸のゲソである。吸盤の部分はこそげ取ってイタチたちに進呈した。

　イタチたちはおいしそうに吸盤にかじりついていた。

　俺はゲソを塩で揉んで洗った物を焼いてみた。ぶつ切りにしたものを食べたらとんでもなくうまかったが、テトンさんたちは未知の食材に引いていた。気持ちはわかる。

　チェインが近づいてきた。

「兄ちゃん、姉ちゃん、それおいしいの？」

「おいしいわよ！　ちょっと食べてみる？　口に合わなかったら止めればいいわ」

「わかった」

「チェ、チェイン……」

　ユリンさんが声をかける。そんなものを食べて大丈夫なのかと心配そうに。

　うん、気持ちはわかる。（大事なことなので何度でも言う）

　チェインはぶつ切りのゲソを更に薄切りにしたものをまじまじと見、えいやっとかじりついた。醤油はかけてある。

「う……」

「う？」

　ムコウさんが首を伸ばして聞き返した。

　チェインはもぐもぐとゲソを噛み、ごっくんと飲み込んだ。そして、

「うまいっ！　何これ超うまいよっ！」

　と叫んだ。

「兄ちゃん、姉ちゃん、もっとちょうだい！」

「お、気に入ったのか。じゃあもう少し焼くか」

　おいしかったならよかった。中川さんが食べやすい大きさにゲソを切り分けてくれたのを焼いていく。

「ヤマダ様、ナカガワ様、そのぅ……」

　テトンさんたちも醤油の香ばしい匂いにやられたのか近づいてきた。

「テトンさんたちも試しに食べてみますか？」

「あ、はい……」

　焼けたものを中川さんに薄くスライスしてもらい、それを醤油に付けて食べてくださいと伝える。テトンさん夫妻、ムコウさん夫妻もおそるおそるというかんじでゲソを口にした。

「こ、これは随分と噛み応えが……」

「なにかしら、この食感……」

「なんだ、これは……」

「え？　おいしい……？」

　彼らもおいしいと思ってくれたらしい。それからゲソの半分ぐらいをみんなで食べてしまった。ゲソは全部ドラゴンからもらったのでしばらく楽しめそうである。

「……取ってくる時はたいへんだったけど、他の獲物も楽しみね」

　中川さんはもう目的が変わってしまっているような気がする。でも楽しむことも大事だろう。

「偵察しながら獲物が獲れるといいかもね」

「そ、そうね……」

　中川さんははっとしたらしく、頬を染めた。そんな彼女のことがたまらなく好きだと思う。ミコたちも食べ終えたらしく近づいてきた。洗浄魔法をかけさせてもらってから身体に上ってもらう。

「ミコ、いっぱい食べたか？」

　キュウウッ！　と不機嫌も混じったような声音で鳴かれた。洗浄魔法を使うのはもうどうしようもないと思いませんか？（なんで丁寧語）

　肩に乗ったミコを改めてだっこした。

「しょうがないだろ？　汚れたままで乗られるのは困るからさ。ごめんな」

　キュウ……とミコが鳴く。しょうがないなぁと言われているようでかわいいなと思った。なでなでさせてもらう。ミコの毛はいつだって手触りがよくて最高だ。

「兄ちゃん、姉ちゃん見て見てー！」

「え？」

　チェインがイタチたちと一緒に跳び跳ねているのが見えた。その跳んだ高さが問題だった。

「え？　そんなに高く跳べたっけ……？　え？」

　なんか、1mぐらい跳んでいるように見える。

　俺、一応チェインには食べさせる肉を調整してきたはず……。

　あ、と思った。

　ドラゴンは氷漬けの大蛸の胴体を洞窟にしまった後は、こちらに出てきて寝そべっている。

「ドラゴンさん、もしかしなくてもさっき海で獲ってきたやつってかなり強い……？」

「うん？　ああ、間違いなく向こうの山の獲物より強いじゃろうて。海の中ではな。それがどうかしたのか？」

「うわー……」

　やっちまったと思った。

「あのー、すみません。みなさん一気に力が強くなってると思うので、気を付けてください……」

　中川さんと共にそう注意喚起をするのが精いっぱいだった。

「……もしかして、またすごいものを食べさせていただいたのでしょうか……？」

　テトンさんにおそるおそる聞かれて、「そうみたいです」と白状した。で、地面にこういう海の魔獣を捕まえまして、と蛸の絵を描いて説明した。

「はあー……こんな魔獣がいるんですね」

「まぁ……」

　とみな目を丸くした。俺たちからするとでっかい蛸ってわかるんだけど、この世界では海沿いにいる人ぐらいしか見たことはないんだろう。そもそも普通の蛸が獲れるかどうかも知らない。TVとかあるわけじゃないから、普通は生活している圏内の物しかわからないのは当たり前だと再認識した。

　で、海へは明日も行くことになった。

　大型船が動いているのを見たいというのもあるが、海の獲物にも興味がある。あんな大蛸とか、ドラゴンさんと一緒でないととても獲れないだろうし。大蛸がいたってことは、クラーケンとかもいるんだろうか。イカもおいしいといいなとか今からわくわくしてしまう。

　思わずドラゴンに、

「さっきの獲物の他に、白っぽくて足が十本あるのもいますか？」

　と聞いてしまった。

『白いの、じゃと……？　ああ、以前食ったことがあるような気がするのぅ」

　と言われて期待は弥が上にも高まった。食べるものがおいしいって重要だと思う。

　どうしても食欲が勝るなーと我ながら苦笑したのだった。

次の更新は、30日（水）です。よろしくー