67.海へ行こう
翌朝、オオカミは森へ戻っていった。
十日後、森のイタチたちの縄張りで会うことを約束して。
実際にその時向かえるかどうかはわからないけど、自由なオオカミをここにいつまでも留めておくのはいけないと思う。オオカミは森のパトロールもしてるみたいだし。森の中で安全地帯というか縄張りに住んでいる魔獣と情報交換とかもしているんじゃないかな。(これは俺の想像である)
さて、今日俺たちはドラゴンに海まで飛んでもらうことにした。
広い大海原からどうやって怪しい船を見つけたらいいのかと、昨夜思ったより早く洞窟風呂から戻ってきた中川さんと悩んだ。
「調べる魔法は鑑定魔法だけなのよ。でも鑑定魔法って複数の対象に同時に調べることってできないみたいなのよね」
「まぁ、鑑定だしね。きっと複数の対象のが見れたら頭がパンクしちゃいそうだよな」
「そうなのかも」
中川さんは残念そうに肩を落とした。
鑑定魔法、複数の対象に、と聞いて俺は自分のマップ機能を思い出した。ここ数日使う必要がなかったから忘れていた。
だってクイドリだったら遭遇してもすぐに倒せるし、港町の中で使ってもしょうがないしさ……。
ハイ、単なる言い訳です。(俺はいったい誰に言い訳をしているのか)
マップ機能を使えば、近くにいる船の存在とかもわかるかもしれない。確か、視認範囲だけではなかったはずだし。
明日はとりあえず海に行ってみようということで話は落ち着いた。
で、今日である。
俺たちは今ドラゴンの背に乗っている。
ミコとカイには絶対に動かないように言い聞かせた。海に落ちたら探せないからな。
ミコは例によって俺の上着の内ポケットに入った。カイは中川さんのリュックの中に入った。さすがに首に巻きついているだけでは不安だったので。でもそう言ってもミコもカイも俺たちから離れないんだからかわいいと思う。……カイについては複雑な心境なんだけどな、本当のところは。でも中川さんがかわいがってるから何も言わない。言っちゃいけない。耐えろ、耐えるんだ俺。
そんなことを考えている間に、ドラゴンはけっこうなスピードで森を横断し高い山を避けて海へと出た。
すげえ、と思った。
本気を出して飛べばこんなものではないらしいが、そんなことをされたら俺も中川さんも死んでしまいそうなので止めてもらった。
それにしたってかなり速いけどな?
ドラゴンも一応自分の身体の周りは風魔法で防御っぽいのをしてるみたいなんだけど、それでもかかるGがすごい。ジェット機かよって思うぐらいだ。(ジェット機に乗ったことはないので俺のイメージだ)
そんなわけで、
『海じゃぞ』
とドラゴンに声をかけられた時はもうへろへろだった。やっぱもう少しゆっくり飛んでもらえばよかったかもしれない。
海の上はかなりゆっくり飛んでくれているので、しゃべることもできそうだった。
「山田君、大丈夫?」
「……どうにか」
ドラゴンの背にへばりついている状態だけど、それでもダメージはけっこうでかかった。中川さんは元気そうだ。よかった。
『情けないのぉ』
「……ごもっとも、です……」
ドラゴンに言われて同意しかないんだけど、普通に生きてたらこんなスピードに晒されるなんてことはないはずだ。
ドラゴンは魔法で飛んでいるから、そんなにスピードを上げなくても普通に飛べる。ふと、ドラゴンの背の上から下を見ると大海原が広がっていた。
「うわぁ……」
海を見たことはある。
でも船に乗ったことはないから、こんな周りが全部海なんて光景は見たことがなかった。
「すごい……」
海の色はコバルトブルーだった。港町で見た海の色よりも濃く見える。空は晴れていて、太陽の光が水に反射してキラキラ光っていた。
『なんじゃ、海を見るのが初めてではあるまいに』
「そうですけど、こんなに広いんだなと実感したのは初めてなんで」
しばらく見ていれば飽きるかもしれないんだけどさ。
海の上は、とても静かだった。
だいぶ陸地を離れたのだろうか。
やっと落ち着いてきたので、小声で「マップオープン」と呟いた。いつも通り視界の右端にマップが表示された。真ん中が俺たちらしい。俺を中心として、青い点が二つ、緑のでかい点が一つ、そして黄色い点が一つ見えた。
青い点は中川さんとミコで、緑がドラゴン、黄色がカイなんだろうなと思った。
黄色ってだけで十分だ。これでオレンジとかだったら泣きそうだしな。
「……ん?」
点は俺たちの物だけしか見えなかったのだが、ドラゴンがゆっくりと飛んでいるせいか別の点が右上に見えた。右上だから、北西方向だな。
「ドラゴンさん、ちょっと北西に向かって飛んでもらっていいですか?」
『うむ』
黄色の点がたくさん集まっている。
ドラゴンがそちらの方向へ飛んで行くと、船が見えた。そこまで大きくはない。黄色の点が主なことから、俺に対して敵対する人々が乗っているわけではなさそうだった。
「ええー? 山田君、よくわかったねー?」
船の姿を確認して、中川さんが声を上げた。船はそんなに大きくはなかった。北の方へ向かっている。甲板に人がいるのが見えたが、俺たちの方は見ていないようだった。
「なんか、そっちに飛んだ方がいいような気がしたんだ」
「ふーん?」
苦し紛れの言い訳は信用してもらえなかったと思う。これは後で説明が必要だなと思ったのだった。
次の更新は23日(水)です。よろしくー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます