59.聞けば聞くほど難しかった

 港町の町長館に来た。

 応接間に通されて、俺たちはお茶とお茶菓子を振舞われた。お茶菓子は甘味が少ないなと思ったけど、俺にはそれぐらいがちょうどよかった。

 ミコたちは出された魚の切り身を見て首を傾げた。

 ミコがまず近づいてフンフンと匂いを嗅ぐ。そうしてから、ぱくりと食べた。


「どう?」


 俺が聞いたら、ミコはそのままガツガツと食べ始めた。気に入ったらしい。それを見た他のイタチたちも同じようにガツガツと皿の中の魚の身を食べ始めた。これは……ミコが毒見役をした形になるのか?

 中川さんは少し心配そうにカイが食べているのを見守っていたが、何かを思いついたような顔をした。そしてすぐに笑顔になった。

 もしかしたら鑑定魔法を使って魚の状態を確認したのかもしれなかった。

 失礼かもしれないが、こちらの世界ではいろんな人に会いすぎている。なんつーか、性善説でいたらすぐに死んでしまうと思うのだ。(非常に失礼)

 そんな俺たちの様子を見て、この港町の町長であるテトンさんのお兄さんは軽く頷いた。


「警戒心があるのはいいことだ。たいへん失礼した。私はクベル侯爵が第三子、リントンという。現在はこのノース町の町長を務めている。テトン、そちらのお二人が勇者様で間違いないか?」

「はい、こちらはヤマダ様、こちらはナカガワ様です。お二人とも非常に高い能力を持たれ、イイズナ様方からも信頼されています」


 テトンさんは頬を上気させてお兄さん――リントンさんに俺たちのことを紹介した。

 勇者様って、なんか恥ずかしい。

 ミコたちは食べ終えると機嫌よさそうに戻ってきた。洗浄魔法をかけてから俺に登ってもらう。ミコはやはり洗浄魔法が嫌いなようで、俺の鼻を甘噛みしてから俺の首にくるりと巻きついた。ちょっと生臭いし怖い。ミコさん勘弁してください。

 でも今日は叫ばないで済んだ。

 内心はひえええええってかんじだったけど。(びびりなんですごめんなさい)


「そうか。ヤマダ様、ナカガワ様、たいへん失礼いたしました。弟を保護していただき本当にありがとうございます」


 リントンさんにお礼を言われてしまい慌てた。


「え? いえ、保護だなんて……」

「弟は森の側で暮らしていたはずです。ですが、ある時を境に消息が途絶えました。ジャン伯父のところへ勇者様方と共に行ったと聞き、安堵しました」

「……兄さん、伯父さんに会ったのですか……?」


 テトンさんは愕然とした顔になった。


「いや? 母が伯父から手紙を受け取ったととても喜んでいた。手紙の詳細も教えてもらっている」

「そんな……」


 テトンさんは頭を抱えた。


「恥ずかしながらこの国はもう長いこと腐敗している。まさか勇者様を探す為とはいえ、国民から家を取り上げるなど……嘆かわしいことだ」


 リントンさんはいたましそうな表情をした。


「腐敗といえば、勇者様が王に約束させたことはご存知ですか? 南の国から誘拐してきた者たちは国に返すように触れが出ているはずですが……」


 テトンさんが気を取り直してリントンさんに本題を切り出した。


「ああ……この港に正規で入ってきた船に関しては全て中を検査している。南の国から連れてこられた者も再び船に乗せて送ったが……だが船が着くのはこの港だけではないからな」

「そうですね……」


 この国の西側は海と接している。その為港はここだけではないし、港でないところに船を付けられたらやりようがない。けっこうこの国は広いのだ。


「すみません。この国の港は全部でいくつあるのですか?」

「大型船が発着できるような港は西側に五か所ある。それから北側に一か所だな。だが南からきた船はわざわざ北へ回ることはしないだろう。ここからでも北の港へは船で一月以上かかるからな」


 確かに南の国から七か月以上船に乗って北の港へ向かうとは考えづらい。


「ありがとうございます。小型船が着く港はどれぐらいあるんでしょうか?」

「……小型であれば少なくとも十か所以上はある。西側は全て海に面しているから。小さい入江はここかしこにある」

「……ありがとうございます」


 ちょっと考えなければいけなくなったかもしれない。


「それは……なかなか難しいですね」


 テトンさんも気づいたみたいだ。国が広いから、まだ南の国の人々が秘密裡に連れて来られているかもしれない。


「すまないな」


 リントンさんは申し訳なさそうにいった。リントンさんが謝ることではないと思う。

 中川さんも少し考えているみたいだった。


「よかったら今日はここに泊まっていってくれないか。妻を紹介したい」

「兄さん、一応宿は取ってあります」

「引き上げてしまえばいいだろう。金は私が出す」

「ですが……」

「テトン、お言葉に甘えましょう」


 それまで黙っていたケイナさんがテトンさんの腕をつついた。


「わかりました。兄さん、彼女は妻のケイナです。よろしくお願いします」

「よろしく。のちほど妻と会っていただきたい」

「はい、ありがとうございます」


 そうして急遽俺たちは宿を引き払うことにしたのだった。


次の更新は、25日(水)です。よろしくー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る