60.俺の水筒はいったいどうなっているんだろう?(定期)

 その日の夕飯は町長館でいただいた。

 ジャンさんのところで買ってもらった服を持ってきておいてよかったと思った。


「ないようならばこちらで用意しようかと思ったが」


 そう夕飯の席で、服についてリントンさんに言われてしまった。


「ヤマダ様やナカガワ様に出会う前は持っていませんでしたね。全て勇者様方のおかげです」


 テトンさんがしれっと答える。


「違いますよ。ヤン伯爵に買っていただいたんですから」

「ヤマダ様たちに出会わなければ王都へ向かうことはできませんでしたよ?」


 リントンさんとその奥さんがコロコロ笑う。リントンさんの奥さんはこの町の人だそうだ。リントンさん自身は侯爵家の三男だが、家を継げるわけではない。その為在学中によほど功績を上げたりしない限り婚約者が用意されるのは稀だという。そこらへん厳しいなと感じた。


「テトンも結婚したと風の噂では聞いていたが、実際に会えて安心したよ」


 リントンさんはそうしみじみ呟いた。

 イタチたちもテーブルに上がって食事をしている。テーブルの下でいいのではないかと思ったが、イイズナ様の食事をテーブルの下でさせるなんてとんでもないと言われてしまった。そこらへん貴族家の方がイタチたちを大事にしているように思える。

 神の遣いだの、魔神の花嫁だの言われていたが、イタチたちは本当にこの国の守護神のような存在なのだなと感じた。

 そんなわけでテーブルの端にはなるが大皿にヤクの肉を出してイタチたちに提供した。こちらの館で出された魚の切り身も一緒に。イタチたちは魚もおいしくいただいている。

 この館に来た時、夕飯は魚か肉かどちらがいいかと聞かれて、中川さんと「魚がいいです!」と答えた。

 元の世界ではあんまり魚は好きではなかったけど、食べられなくなると食べたくなるものだ。森の地底湖で食べた味が忘れられなかったともいう。

 実際魚料理はおいしかった。

 能力は全く上がった気はしなかったけれども。

 ちなみに、この館に来た時テトンさんに言われてスパイス一式はリントンさんにお渡しした。テトンさんに「あげすぎです!」と言われたけど、スパイスのほとんどはテトンさんとケイナさんが摘んだものだから問題はないと思った。なんだったら帰りにまた森の側に寄ればいいし、山の上で種を植えて林を広げてもいい。俺の水筒からは調味料は出るけど、スパイスが出るってかんじじゃないからなぁ。

 ミコが食べ途中でこちらに来たので洗浄魔法をかけた。


「ミコ、どうした?」


 キュウ……と俺の手を前足でつつく。なんだこれかわいいぞ。

 そうして俺の肩に上り、背を前足で撫でた。何かを求めているようなんだがわからなくて首を傾げた。


「ん? もしかしてミコちゃん、リュックを探してるの?」


 中川さんが呟くと、ミコはキュウウッと鳴いた。

 リュックならテーブルの下に置かせてもらった。恰好はそれなりに整えたのだが、リュックを部屋に置いてくるという選択肢はなかったので。


「リュック?」


 リントンさんに失礼してリュックを出した。ミコがかりかりとリュックをひっかく。なんか猫みたいだなとか失礼なことを思った。


「開けろって?」


 チャックを開ける。ミコが中に前足を入れようとしたがさすがにだめだった。


「ヤマダ君、もしかしてミコちゃん、調味料がほしいんじゃないかしら?」

「ってことは水筒か!」


 そういえば今日はまだ水筒の中身を確認していなかった。しょうがないなと水筒を出すと、ミコはピンと直立した。かわいくて笑ってしまう。

 先に移す為の竹筒を出す。空の竹筒もたくさんリュックの中に収納しているのだ。だからなんなんだこの四〇元ポケットっぷりは。


「すみません、ちょっと確認しないといけないものがありまして……」

「イイズナ様のご要望だ。かまわないよ」

「ありがとうございます」


 一応リントンさんに確認を取ってから水筒を開けた。

 テトンさんとケイナさんは席を立たないもののじっとこちらを注目している。リントンさんとその奥さんも興味津々だ。

 非常にやりづらいがミコの圧が強いからしかたない。

 水筒のコップに水筒を傾ける。

 ……出てこない。

 出てこないということは粉系ではなく液体または固体だろう。


「ちょっと開けてみる」


 水筒の中蓋を外して見えたのは、白っぽいクリーム状のものだった。

 俺は思わずミコを見てしまった。

 なんなんだ? 今回も水筒はミコ推しなのか?

 スプーンでクリーム状のものを掬って少し味見をした。


「……マヨネーズだ」


 ミコの目がキラーンと輝いた。


「わかった。出すから待ってくれ」


 水筒からマヨネーズを出すのってけっこうたいへんなんだぞ。1リットルは入る水筒から三分の一ほど出してイタチたちに提供した。塩分油分過多だって? 俺だってそう思うけどそれぐらい出さないと俺が食われそうになるんだ。残りは竹筒にしまい、味見ということでみなさんに少しずつ提供させてもらった。

 リントンさんと奥さんはマヨネーズを味わって、びっくりしたような顔をしていた。

 作り方は聞かれたが、以前テトンさんに説明した要領で、この国ではあまり現実的ではないということは伝えておいたのだった。


次の更新は、28日(土)です。よろしくー


誤字脱字に関しては、近況ノートをご確認ください(後日読み返して修正はしています)。

https://kakuyomu.jp/users/asagi/news/16818093081582887529

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