55.商業ギルドに行ってみた
商業ギルドの場所は改めて冒険者ギルドで聞いた。
商業ギルドは道を一本隔てた場所にあった。冒険者ギルドよりもなかなか立派な佇まいである。
テトンさんがはっとしたような顔をした。
「……どこかで着替えをした方がいいかもしれません」
「え?」
「……そうね」
ケイナさんも同意した。今の身なりのままだと香辛料などが買い叩かれてしまう可能性があるという。見た目も大事って話のようだった。
それはきっとそうなんだけど……ちょっともやもやした。
とはいえ着替えをできそうな場所なんて……と、泊まる泊まらないはともかくとして宿を取ることにした。町には宿屋がいくつもあった。王都近くの村とはえらい違いである。港町の方があそこより栄えているのかもしれない。
つっても、貿易は南の国とだけ? いや、そんなことはないか。陸路より海路の方が物資が運びやすいとかもあんのかな? わからん。
テトンさんはケイナさんと相談して、宿屋街の真ん中にある宿に決めたみたいだった。一泊前払いで人数分払い、部屋に移動して着替えをしてから表へ出る。当然ながら荷物は全部持って出てきた。
いくら部屋に鍵がかかるといっても基本荷物に関しては自己責任だし。
部屋割りはテトンさん夫妻、俺と中川さんで二部屋である。気持ち的には男女で分かれた方がいいと思うんだが、山の上の家でもこうだからもう諦めた。ミコたちが俺たちの間で寝てくれるから、それでもう考えないことにする。ヘタレだって? ほっとけ。
ジャンさんが買ってくれた服を着ると、気が引き締まるかんじがする。中川さんも黄色のワンピース姿で爽やかだ。
元が美人だけど、こういう恰好をするとより綺麗に見える。
つい中川さんをじっと見てしまった。
「山田君、もしかして見とれちゃった?」
中川さんが茶化すように聞いた。
「うん……そういう恰好もいいね」
素直に言うと、中川さんは頬を染めた。くー、たまらん。
「テトン、私はどう?」
そんな俺たちの様子ににこにこしながらケイナさんがテトンさんに聞く。
「ケイナはいつもキレイだよ」
「もう、テトンったら」
ケイナさんはテトンさんの腕を捕まえた。いつまでもラブラブでいいかんじである。
「な、中川さん……」
「なぁに?」
おそるおそるそっと手を差し出したら、中川さんが俺の手を握ってくれた。もうそれだけで天にも昇る心地である。毎晩一緒の部屋で寝てるクセにとか言われそうだが、俺はいつだって彼女にドキドキしているぞ。(えばれない)
そうしてやっと俺たちは商業ギルドへ向かった。
ケイナさんを腕にくっつけたまま、テトンさんが商業ギルドの入口で声をかける。
「香辛料を売りにきた」
「失礼ですがギルド証を拝見させてください」
門番に言われてテトンさんが見せる。それで俺たちはすんなり通してもらえた。商業ギルドにもギルド証みたいなものがあるらしい。
商業ギルドに来たのは初めてだった。
建物の中に入ると受付があった。その部屋には受付しかないらしい。
「香辛料を売りにきました」
テトンさんが受付の女性に声をかけると、女性の眉が一瞬ピクリと動いた。テトンさんがギルド証を渡すと、女性は「少々お待ちください」と言ってベルを鳴らした。
冒険者ギルドとは全然違う。
青年が出てきて、俺たちをうやうやしく奥の部屋に案内した。これから商談をするんだろう。なんだか、映画でも見ているような気分だった。
「今お茶をお持ちします」
「すみませんが、こちらの器に水をいただけませんか?」
ミコたち用の大きめの器を二つ出して青年に渡した。
「? かしこまりました」
青年は一瞬不思議そうな顔をしたが、特に何を聞くこともなく受け取った。
応接間というのだろうか。ソファにみなで腰かける。ミコたちは俺たちの首から降りて部屋の中を物色し始めた。
「ミコ、物は落とさないでくれよ」
高そうな調度品はないが、落として壊されたりしたらことだ。ミコはキュウと返事をし、イタチたちを自分のところに集めて何やら話していた。ホント、ミコってすごいよな。
「なんだかまるで、映画みたいね」
中川さんがポツリと呟く。
「うん、俺もそう思った」
お互いに見合って、ふふふと笑む。こういうところには元の世界でも来たことがないからどうも落ち着かない。中川さんもそうみたいだった。
「映画とはなんですか?」
ケイナさんに聞かれて、中川さんは困ったような顔をしながらこれこれこういうものだと説明をした。わかってもらえたかどうかはわからない。
そうしているうちに青年がお茶とお茶菓子、そして先ほど預けた器を乗せたワゴンを運んできた。
青年はイタチたちの姿を見ると、一瞬足を止めた。
「……水はどちらに置けばよろしいでしょうか?」
「ここにお願いします」
ダンボールを床に敷き、その上に水の入った器を置いてもらった。
俺たちの前にあるローテーブルにはお茶とお茶菓子が並べられた。
「今しばらくお待ちください」
そう言って、青年は奥の扉から出て行った。
すぐに中川さんが水や飲み物、食べ物全てに対して鑑定魔法を使う。
「……大丈夫よ」
そう言うと、イタチたちは水を飲み始めた。ここでよくない物を入れるような人はいないだろうが念には念を入れて、である。
いちいち人を疑わなくてはいけないことに、嫌だなぁと思ったのだった。
次の更新は、11日(水)です。よろしくー
誤字脱字に関しては、近況ノートをご確認ください(後日読み返して修正はしています)。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます