54.港町に着きまして

 港は、俺が想像していたものよりもはるかに立派だった。

 港、というか港町というかんじである。

 町には城壁があったので門を探すのに少し手間取った。テトンさんが来たのは小さい頃だったようで、みんなで城壁の周りをうろうろしてしまった。

 そうしてやっと門に着く。丘の方から人が来ることはないらしく、門は南側と北側にあった。(丘は東にある)

 俺たちは南側の門の列に並んだ。上を眺めて、ヤチョウなどが襲ってこないことを確認する。空は晴れていて、雲がところどころぽっかりと浮かんでいた。

 のどかだなと思った。

 あまり並んでいる人はいなかったので、ほどなくして俺たちの番になった。


「どこから来た?」


 門番の兵士がやる気なさそうに聞く。テトンさんが答えた。


「森の方から来ました」

「ん? ってことは森の周辺で植物の採取をしているのか?」

「そういうこともあります」

「……香辛料があればそれで入町料を払ってもいいぞ」

「……どれぐらいですか?」


 一応テトンさんは聞いてみることにしたらしい。ぼったくられたりしないといいんだけど。

 どうもこの国の兵士とかにはいい感情がない。しかし偏見はよくないので黙って見守ることにした。


「そうだな、胡椒の実をこのぐらいの量でどうだ」


 兵士が両手を出してアバウトに量を提示する。ちょっと多くないか? と思ったら案の定テトンさんは首を振った。


「入町料はおいくらですか? お金で支払います」

「……こっちが下手したでに出ていれば……」


 兵士が低く、唸るように声を発した。どうやらこの兵士もよろしくないらしい。ため息をつきそうになった。


「おい、やめろ」


 もう一人の兵士が窘めた。


「すまない。入町料は一人銅貨五枚だ。香辛料が手に入りづらくなっていて気が立っているのだ。もしよかったら有料で少し譲ってもらえないだろうか。今ではないが……」


 テトンさんは言われた金額を人数分払った。そうして真摯に対応した兵士に聞く。


「……いつ頃こちらへ伺えばよろしいでしょうか?」

「昼頃でもいいかな? うまい店に案内しよう」


 兵士はほっとしたようにそう言った。


「おごりですよね?」

「もちろんだ」


 兵士はお金を数えると俺たちを通してくれた。


「ちょっと待て、その首に巻きついているのはなんだ?」


 先ほどの兵士が俺たちの首元を見とがめた。まぁ不自然っちゃ不自然だよな。ミコが何事かと顔を上げる。


「ひっ……イイズナ……い、行っていいぞ!」

「はーい」


 うちのイタチたちって、いったいどんだけ恐れられているんだろう。

 この国にとって大切な動物みたいなことを以前聞いたのだが。


「昼まで……それほど時間もないですね。港へ向かってもいいですが、すぐに戻ってくることになってしまうかもしれません」


 テトンさんが困ったように言う。中川さんがそれに提案した。


「冒険者ギルドに行くか、香辛料の買い取りをしてくれるところに行ってみてもいいんじゃないですか?」

「そうですね。商業ギルドへも顔を出してみましょう」


 テトンさんとケイナさんは道行く人に商業ギルドと冒険者ギルドの場所を聞いた。一応みんなで行った方がいいだろうと、まずは冒険者ギルドへ。

 早い時間ではないせいか、ギルドは閑散としていた。掲示板にも申し訳程度に何か貼られている程度だ。受付のおじさんがやる気なさそうにこちらを見た。


「なんだい?」

「薬草の買い取りをお願いします」


 テトンさんが声をかけた。


「ああ、どの薬草だい?」


 森にはいろいろな植物が生えているらしく、テトンさんは腹痛に効くという薬草を出した。


「これなら葉っぱ五枚で銅貨一枚てとこだな」

「薬草の値段は変わらないのですね」

「大量に使うような機会もねえしな」


 俺たちはパーティーだということで、全員の冒険者証を出して依頼達成の丸印を付けてもらった。この丸印が二十個貯まるとランクが上がることになっている。


「では、ゴートの値段とかはどうですか?」

「え? ゴートだって?」


 それまでやる気のなさそうだったおじさんの目の色が変わった。


「一応肉と毛皮、それから角があるのですが……」

「是非買い取りさせてくれ!」


 ってことでそれも一頭分提供した。今回は合わせて金貨三枚分になった。ほくほくである。


「……自分たちの分以外は売りに来れたら来たいぐらいですね」


 テトンさんが苦笑した。

 しかし山からここまで売りにくるのにはちょっと時間がかかる。いや、ちょっとどころじゃないよな。まずドラゴンの背に乗せてもらっても丸一日はかかるし。(かなりゆっくり飛んではもらったけど)

 ゴートと聞いてかミコが顔を出した。慌ててギルドを出て、リュックからゴートの肉を細切れに切ったものを入れている袋を出した。ミコの姿が見つかって騒ぎになっても困る。それぐらい最近はイイズナが国内では見られていないみたいだ。

 そうして建物の隅で、イタチたちに肉をおやつとしてあげた。みなおいしそうに食べると建物の裏手へ向かい、少ししたら戻ってきた。そのまま首に巻きつこうとするので、「洗浄魔法をかけるよ」と断ってから魔法をかけた。先に言っておかないと鼻を甘噛みされたりして困る。痛くはないけど、歯が鋭いからけっこう怖いのだ。

 次は商業ギルドである。


次の更新は、7日(土)です。よろしくー

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