53.途中妨害があるのはお約束だけど

 翌朝は身体が痛かった。

 テトンさんと、腰があいたたたとやっていた。

 腰を摩る。そうしたところで治るわけではないが、これはもう気分の問題だ。

 こういうのって、魔獣の肉とか食って身体能力が上がっても関係ないんだなと実感した。


「私が治癒魔法を使えればよかったのですが……」


 ケイナさんが申し訳なさそうに言う。俺は手を振った。


「いえ、寝方の問題なんで気にしないでください……って、治癒魔法? そんな魔法もあるんですか?」


 初めて聞いたが、確かにあってもおかしくはない。


「はい。使える者は少ないのですが、ございます。ただ、痛みを緩和したりする程度なので使えると楽になるぐらいですが……」

「それでも治癒魔法っていうんですね」


 テトンさんの説明に、中川さんが素直な感想を述べた。


「治癒魔法は使う者の能力に左右されることが多いので、効果に幅が広いのです。かつてナオミ様は不治の病も治したとは伝えられていますが……」

「病気とか怪我に対する理解とかイメージが必要ってことなのかしら? 治癒魔法が使える人がいるなら是非話を聞いてみたいわ」


 ケイナさんが補足する。中川さんは興味津々のようだ。

 ミコが俺の上着の内ポケットから出てきて俺の頬をぺろりと舐めた。


「あ、朝飯用意しないとな」


 というわけで、まずは朝飯だ。朝は軽め、である。俺と中川さんは俺の弁当を二人で分けるが、テトンさんたちは作ったものだけを食べる。チンジャオをヤクの肉と炒めてチンジャオロウになった。スーがなんで付かないのかって? スーの意味は細切りらしい。そんな知識をオヤジから聞いたなと思い出した。つまりは細切りにしなかったってことだ。

 今日の水筒の中身はどろっとしたタレのようなものだった。焼肉のタレとも違うなと味見したけど俺にはよくわからなかった。

 中川さんが味見して、


「これ、オイスターソースじゃない!?」


 と喜んでいた。


「中華料理に使うとすんごくおいしいの!」


 今度中華っぽい料理をする時は使ってみようという話になった。

 イタチたちとドラゴンにもヤクの肉をあげ、慌しく片づけをしてドラゴンの背に乗る。


「海沿いを北に向かって進んでください」


 テトンさんがドラゴンにそう伝えたので、ドラゴンは頷いてそのように飛んでもらった。港っぽいものが海岸沿いに見えたら降りてもらうことになった。

 ドラゴンは昨日よりもゆっくりと空を飛ぶ。

 赤い鱗が光を浴びてきらきらと光った。

 そうしてしばらく飛んでいくと、やがてドラゴンが旋回してゆっくりと下りた。


『あれがそうではないか?』


 少し離れたところに、ドラゴンは降り立った。あんまり近いと騒ぎになってしまうしということだったが、ドラゴンの姿はあちらにも気づかれていたかもしれない。


「ドラゴンさん、ありがとうございます。行ってきます」

『うむ、何かあれば呼ぶがいい。カナタの声であれば我に届く故な』

「はい」


 俺の声が届くってのが便利だよな。上着の内ポケットに入っていたミコが俺の首にくるんと巻きついた。中川さんたちのイタチたちはずっと首に巻きついて襟巻のようになっている。それで不便はないみたいだ。


「なぁ、ミコ。他のイタチたちって、空飛んでる時怖くないのかな?」


 気になって聞いてみた。

 キュウ? とミコが不思議そうな声を上げる。どうやらミコも怖いから俺の上着の内ポケットに入っているわけではないらしい。ようは内ポケットの中の居心地がいいんだな。


「ここからどれぐらいなんですかね?」

「駆けていけばすぐでしょう」


 テトンさんが答えてくれた。

 ここは小高い丘である。海岸沿いに建物がよく見えた。それなりに小さく見えるから、もしかしたら10kmぐらいは離れているかもしれない。でも俺たちが駆ければすぐだというのはわかる。


「テトンさんたちの速度に付いていきますので、すみませんがよろしくお願いします」

「はい」

「無理はしないでくださいね」

「承知しました」


 10kmだとマラソン選手で30分ぐらいだろうか。確か42.195kmを2時間ちょっとで走るんだもんな。考えただけでハンパねえとは思っていたけど、どうやらテトンさんたちの足もそれ以上に速くなっているみたいだった。

 丘を下り、木々が生えているところを突っ切っていく。どうやら林だったみたいで、クイドリが襲ってきたからラリアットをかましたら首の骨が折れたらしい。テトンさんとケイナさんが弓を引く。中川さんは跳び上がってクイドリに蹴りをお見舞いした。

 ……なんつーか、俺たちの身体能力が上がりすぎてて怖い。

 イタチたちは心得ているようで、クイドリの襲撃中は顔を上げもしなかった。

 倒した後、ミコが顔を上げたが「後でね」と頭を撫でたら首を引っ込めた。本当によくできたイタチである。中川さんのところのカイはしばらく顔を上げていた。クイドリの肉が食えると思ったのかもしれない。

 解体する間も惜しいので全部リュックにしまってそのまま駆けた。

 クイドリか。

 もしテトンさんの身内がいたらいい土産になるなと思ったのだった。


次の更新は、9/4(水)です。よろしくー

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