52.今度は港へ向かうことにした

 山の上の家の、貯蔵庫の作成は俺たちが戻ってから始めることになった。

 ムコウさん家族だけでも作れないことはないけど、すぐに帰る予定だからみんなでやった方がいいと思ったのだ。

 オオカミも、出発が数日延びたからといってどうということもないと言っていたので。待たせてばかりですまないとは思ったけど、オオカミもチェインと遊ぶのは嫌ではないみたいだった。

 みんなに甘えてるなと反省しきりだけど、少しでも誰かの役に立てるなら、とも思う。

 自分を犠牲にしてまでなんて、崇高な精神とかはないけどさ。

 ドラゴンは俺と中川さん、テトンさん夫妻を乗せて西に向かって飛んだ。西の山の方までまっすぐ飛んで、海沿いへコースを変えるみたいだ。

 俺たちも特に急いではいないからそんなにスピードは上げなくていい。まっすぐ西へ向かったので、森の端を飛ぶような形になった。途中で二回ぐらい休憩を取ったら、港へ着く前に夕方になった。ちょっとのんびりしすぎたかもしれない。

 軽くドラゴンの背を叩く。

 ドラゴンは気づいて森と西の山の境で降りてくれた。


『どうした?』

「この辺りで野営をした方がいいと思いまして」

『港を探すのではなかったか?』

「もう暗くなるので明日がいいかなと」

「そうね」

「そうですね」

「そうしましょう」

『そうか』


 ということで少し森の中に入ってスペースを確保し、煮炊きをすることにした。その辺りも香辛料の生る木が豊富らしく、テトンさんとケイナさんが目を輝かせて採っていた。その間に中川さんと俺で夕飯を作る。

 ドラゴンも森の中だ。ドラゴンとイタチたちには先に肉を出した。

 ドラゴンはその図体のわりに、食べる時はすごい量を食べるが何日も食べなくても大丈夫らしい。イタチはやっぱり毎日食べないといけないみたいで、毎回大量に食べる。

 ミコたちの様子を見ながら飯盒でごはんを炊き、ヤクとゴートの肉と山で採れた山菜を焼く。スープの具はゴートとシーホンシー(トマト)だ。それなりに豪華な夕飯になって満足である。


「ヤマダ様、ナカガワ様、ありがとうございます。たくさん採れました」

「見てください! こんなにいっぱいです!」


 テトンさんとケイナさんが籠いっぱいに植物の葉や実を採ってきた。何がどれなのかわからないけど、楽しかったならよかったと思う。


「ラージャオだけじゃなくてチンジャオもあったんです。明日の朝食にはチンジャオを使いますね!」


 チンジャオってなんだろうと見せてもらったら、ピーマンみたいなものだった。チンジャオロースーのチンジャオか? こっちの世界って食べ物の名前がごちゃごちゃだよな。


「これって辛いですか?」

「多分辛くないと思いますが……近くにラージャオが生えていたので、もしかしたら辛いかもしれません」


 ラージャオというのは唐辛子のことらしい。


「へー、そういうことってあるんですね」


 ミコは肉を食べ終えたらしく俺のところに戻ってきた。洗浄魔法をかける。だって思ったより汚れてたから。

 ミコはふんふんとチンジャオを嗅ぎ、物によっては顔を背けたりした。


「ん?」


 もしかして、と思った。


「ミコって辛いの苦手だっけ」


 チンジャオはたくさん採ってきてもらったので、試しにミコがなんともなかったのと、顔を背けたのをそれぞれ齧ってみた。


「うっ、からっ!」


 ミコが顔を背けたチンジャオは果たして辛かった。ってことは、イタチに嗅いでもらえばいいのか? と思ったけど、嫌がられる可能性も高いので考えるだけにした。


「……ヤマダ君、もしかしたら鑑定魔法でわかるんじゃないかしら?」


 中川さんに言われてはっとした。

 中川さんがチンジャオを手に取って鑑定していく。


「うーん……まぁ辛味があるかないかはわかるわね」

「そんなことに鑑定魔法を使うなんて……」


 テトンさんとケイナさんはそのことに慄いていた。普通、鑑定魔法を使う際魔力の消費が多いのでそれほどは使わないらしい。そういえば初めて王都へ向かう途中でケイナさんが具合を悪くしたこともあったな。あの時は鑑定魔法を使ったから魔力が枯渇したんだっけ?

 中川さんはきょとんとした。

 テトンさんたちが持ち帰ってきたチンジャオはニ十個ぐらいあって、その全てに鑑定魔法をかけたが中川さんはぴんぴんしている。


「ナカガワ様、どこか具合の悪いところはございませんか?」


 ケイナさんが心配そうに聞いた。


「え? なんともないですよー?」


 やっぱ俺たちって魔力量多いんだな。

 とりあえずみなで夕飯を食べ、寝床を簡単に作って寝ることにした。今回テトンさんたちは急遽参加したので、俺の簡易寝台はケイナさんに貸した。すごく恐縮されてしまったけど女性の身体は特に大事にしなければならないと俺は思っているので、全然問題ない。

 地面に洗浄魔法をかけてダンボールを敷き、そこにビニールシートを被せて俺とテトンさんは寝た。

 ダンボールってホント万能だよな。

 ちなみに、寝る前にミコに水筒をカリカリされてまだ開けてなかったことに気づいた。

 中に入っていたのは醤油だったせいか、ミコになーんだというような顔をされた。醤油は調味料としても魔獣を倒すのにも使えて万能なんだぞ? って、なんで醤油で魔獣が死ぬのかやっぱり意味がわからないと思ったのだった。


次の更新は、31日(土)です。よろしくー

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