51.そういえばそんなこと言ってたっけ

 貯蔵庫はテトンさんたちが作ってくれるというので甘えることにした。


「ドラゴンさん、港の場所ってわかる?」

『知ってるわけがなかろう』


 そうですよね。ドラゴンに聞いた俺がバカでした。


「ドラゴンさん、海沿いを飛んでもらうことって可能ですか?」


 中川さんが聞く。


『かまわぬ』

「ではそうしてください。よろしくお願いします」


 確かに港ってのは海沿いにあるものだ。どこかの砦とかだと見当もつかないが、港であればその方法でも大丈夫だろう。ドラゴンの機動力があれば。

 俺って情けないなと思った。

 ミコがまた頬をぺろぺろ舐めてくれた。ミコさんの察知能力が高くて脱帽です。かわいい。



 翌朝、朝食をいただいてから出立することにした。

 オオカミはこちらにいてくれるらしい。俺たちが戻り次第南の国へ向かってくれるそうだ。南の国にでっかいオオカミが現れるだけでもたいへんだろうけど、ドラゴンが現れたらパニックになっちゃうだろうしな。

 ドラゴンとオオカミにこれでもかとヤクの肉をあげて、準備をして出かける。

 港ってすぐに見つかるものかな? 見つかるといいな。


「一番近い港ですと、森の端から北西へ歩いて三日の位置にあります。そちらですとクベル侯爵の領地ですので、これを見せていただければ私の知り合いということがわかるかと」


 テトンさんは紋章のようなものが刺繍されている布を俺に渡した。

 そういえばテトンさんはクベル侯爵の第四子だったっけ。


「わかりました。見せればいいんですね?」

「はい、その布はあと何枚かありますので取り上げられても大丈夫です。もし横暴な者がいるようでしたら腕力に訴えていただいてもかまいません。責任は私が取ります」


 テトンさんは毅然として言った。

 中川さんがそれに首を傾げる。


「……そういうことでしたら、テトンさんも一緒に行ってくれればいいんじゃないですか?」

「あ、そうだよね!」


 遣い、なんて真似をしなくてもテトンさんがいれば済むんじゃないか。


「ほら、だから言ったじゃない」


 ケイナさんが拗ねたように言う。ケイナさんにも言われていたらしい。テトンさんは頭を掻いた。


「……その……私が顔を出してもわからない可能性もありますので……」


 確かに最近勤め始めた人とかだとテトンさんの顔を見てもわからないかもしれない。でもテトンさん本人がいるといないではえらい違いなのではないかと思った。


「中川さん、テトンさんとケイナさんの服ってあったよね」

「そうね。ヤン伯爵のところからいただいてきたわ」


 それらも俺のリュックの中に収まっている。だから俺のリュックの四次元ポ〇ット感ってば……。(以下略)


「港ではそのままでいいかもしれないけど、もし実家とかに呼ばれた時は服があるといいですよね」


 中川さんがにこにこしながら言う。


「その……実家は港からかなり離れていまして……」


 テトンさんの声がどんどん小さくなる。


「テトンってば実は実家が苦手なんです。四男坊ということで勝手に家を飛び出してきたみたいで」


 ケイナさんがころころ笑って教えてくれた。


「ケイナ!」


 テトンさんが慌てたように声を発した。中川さんは首に巻きついているカイを撫でながら、軽く首を傾げた。


「もしかして、家出してきたんですか?」

「……両親の言う通りにしなかっただけです」


 テトンさんは珍しく苦虫をかみつぶしたような顔をした。領地が国の外れにあるので、王都へ行ってもせいぜい伯父に挨拶をするぐらいで済む。だから王都には一緒に行ったが、港に向かうのは忌避観があるみたいだ。

 無理に連れて行くものでもないしな。


『まだか』


 ドラゴンがいらいらしたようにその場で足踏みした。


「ねえ、テトン。行ってみましょうよ。侯爵様が港にいらっしゃることはないはずよ」

「そ、それはそうだが……」


 ケイナさんに言われて、テトンさんは目を逸らしている。


『男ならはっきりせぬか!』


 とうとうドラゴンに一喝されてしまった。


「はい! 行きます!」

『ならばさっさと乗れ!』

「……えええええ」


 さすがに無理矢理連れてくのはやだなぁ。


「テトンさん、無理はしなくていいですよ?」

「いえ、こうなったら行きます。その方がヤマダ様とナカガワ様のお仕事の手伝いになるやもしれません」


 ケイナさんはにこにこしている。テトンさんは腹をくくったらしい。本当にいいのかなと思ったら、首に巻きついていたミコが伸び上がって俺の鼻を甘噛みした。


「おわぁああ!?」


 痛くはないけどびっくりするので止めてほしい。

 ミコはフン、と鼻を鳴らした。いちいち気にしてもしかたないと言われているみたいだった。確かに俺が考えてもしょうがないよな。苦笑する。

 ミコは再び俺の首に巻きついた。


「山田君、準備しましょう」


 中川さんがにこにこしながらそう言うので、俺たちは気を取り直して準備をし、ムコウさん家族をオオカミに頼んでドラゴンの背に乗ったのだった。(ミコは俺の上着の内ポケットに入る。他のイタチたちはそれぞれの首に巻きついた。ケイナさんがちょっと苦しいと笑いながら言っていた)


次の更新は、28日(水)です。よろしくー

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