42.山の上の家での朝
移動してきただけなのに疲れた気がする。
オオカミに掴まって乗ってるだけで緊張はするわな。振り落とされないってわかってても気を抜いたら落ちそうだし。
何より、自分で掴まってないといけないってのがたいへんだ。
朝起きた時身体がバキバキだった。
「うう~……」
大きく伸びをする。すでに中川さんは布団の中にはいなかった。
出かけてきた翌日ぐらいのんびりしてもいいんじゃないかと思うけど、女性陣からしたら違うのかな。
ミコが同じ布団から顔を出して、キュウと鳴いた。かわいい。
「おはよう、ミコ」
大きめの布の向こうから煮炊きの匂いがする。おいしそうだ。ミコを撫でて、クイドリを出さないといけないなと思い出した。
すでにカイもいない。中川さんの首に巻きついて作業を見守っているんだろう。くそう。
布をめくる。
「おはようございます」
「山田君、おはよう~」
「おはようございます、ヤマダ様」
中川さん、ケイナさん、ユリンさんに挨拶を返された。三人とも俺が思った通り調理をしていた。
「えっと、クイドリは朝食後に出せばいいですかね?」
「それでいいと思うよー」
「ありがとうございます。朝食後にお願いします!」
中川さんがにこにこして答えてくれた。ケイナさんとユリンさんの声が揃っている。ケイナさんたちの目はキラキラしていた。
うん、確かにゴートよりクイドリの肉はうまいよな。
「ちょっと表見てきますね」
「はーい」
ここに来た時は簡易的にしかできていなかった建物だけど、あれからいろいろ手を加えてくれたらしく立派な長屋になっていた。ここより少し降りたところに一部竹が植わっているらしい。そこには魔獣が近寄らないみたいだ。やっぱり竹にはなんかあんのかなと思った。
その竹を切って屋根にしたらしく、もう雨漏りなどはしないだろうという話だった。
山の中にもところどころ竹が生えている箇所はある。森に比べたら少ないけど。
やっぱ竹がないとどうしても雨漏りしたりするんだよな。俺の作り方が甘いのかもしれないんだけどさ。
って、普通男子高校生が家作りとかしないから!
俺ってぱこっちに来て何回屋根作ってるんだろう。
テトンさん、ムコウさん、チェインが表で薪割りをしていた。薪割りは重要な仕事である。俺たちだけしかこの辺りには住んでないからいいけど、たくさんの人が山に住んでたらすぐにハゲ山になってしまうんじゃないだろうか。
そう考えてしまうぐらい薪を使っていると思う。
「おはようございます」
「おはようございます、ヤマダ様」
「にーちゃん、おそーい!」
でもなぁ。
家から少し離して植えた木々を見やった。
……成長ハンパないんだよなぁ。
調子に乗って植えた香辛料の木々は、すっかり林になっている。このスピードで育つならまぁいいかと思ってしまうのだ。
でもこっちの木とかってどうやってこんなに早く成長するんだろうな? 土に種植えればこのスピードで育つのが当たり前みたいなことヘビが言ってたけど。
いったい何がエネルギー源なんだ?
って、そんなこと言ったら魔法の原理とかもわからないから考えるだけ無駄か。
首に巻きついているミコのおなかがグルルと鳴った。腹が減ったみたいだ。
「あ、そうだよな。おーい、イタチたち、メシだぞー」
薪割りをしているところから少し離れて、リュックからある程度の大きさのヤクの肉とクイドリの肉を出した。朝昼晩と必ず食べるわけではないが、朝はしっかり食べさせた方がいい。
イタチたちが俺の声を聞いて集まってきた。
『我にはないのか』
オオカミも起きてきたらしい。それから、洞窟の中からもドラゴンが出てきた。
やっぱり俺の声はよく届くんだなぁと苦笑した。
「もちろんありますよ。クイドリの肉は解体してあるのをどうぞ。また後で解体しますから」
『うむ』
ドラゴンにもクイドリの肉の塊を出した。
『そなたは本当にできた
ドラゴンに珍しく褒められてしまった。
イタチたちがみんな集まってから、すでに俺の身体から降りていたミコが俺を見る。
「食べていいよ」
頷いて言えば、ガツガツと食べ始めた。別に俺に許可を取る必要なんてないのに、ミコは律儀だよなぁ。そんなところがかわいいなと思う。
ちなみに、オオカミとドラゴンは肉を渡した瞬間にバクリと食った。いや、いいんだ。別に彼らにかわいさは求めていない。
「山田くーん、みなさーん、ごはんできましたよー!」
明るい中川さんの声に笑顔になる。
「はーい」
今朝のごはんはなんだろうな?
男性陣は薪割りの手を止めて集まる。
今朝のごはんは、飯盒で炊いたごはん、野草と里芋のスープ、ゴートとタケノコの炒めだった。ごちそうである。
「えー、草ー?」
でもチェインは不満そうだった。
「肉だけじゃ身体は作れないぞ~」
「にーちゃん、何言ってんのかわかんない」
反抗的だ。ちなみに、俺と中川さんのごはんは俺の弁当のおにぎりと卵も一緒である。飯盒いっぱいに米が炊けるとはいえ、全員分を賄うには些か少ないのだ。何せ基本が肉体労働だし。
それでも米はリュックを開ければ出てくるんだからそこがいい。昨夜のうちに出しておいたのだ。
「最初は慣れませんでしたが、この米というのを食べるとヤマダ様とナカガワ様が戻っていらしたことを実感します……」
テトンさんが感動している。
森の側に住んでいた時の主食は、王都や付近の村から買ってきた小麦や粟、稗、そして森に生えていた芋類が主だったそうな。確かに稲を植えるのは手間がかかると思う。しかもこっちの国って思ったより雨降らないしな。
ここなんか山の上だから更に降らない。冬の寒波はとんでもないが。
そんなことを話しながら、やっと帰ってきたなと思ったのだった。
次の更新は、27日(土)です。
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