43.魔法を使うにも練習が必要だ

 そういえば昨日戻ってきてから確認した調味料はマヨネーズだった。すでに竹筒には移してあるから、今日の調味料も楽しみだ。

 寝る前に忘れずに確認しないとな。

 その前にクイドリの解体である。

 ドラゴンが住んでいる洞窟の中へ水を汲みに行こうと桶を出したテトンさんとムコウさんに、試させてほしいとお願いした。


「ヤマダ様……もしかして?」

「?」


 テトンさんはすぐに気づいてくれたみたいだった。ムコウさんは不思議そうな顔をしている。

 ふっふっふっ。

 昨日までの俺とは違うんだぜっ。

 桶に向かって水よ出よ! とか念じたら、


 だばあああ~~~


「あっ……」


 気合を入れすぎたせいだかなんだか、水が大量に溢れ出してしまった。しかも止まらない。桶からどんどん出てくる。

 どうしよう。わたわたしていたら、


「ヤマダ様! 水よ、止まれ! と念じてくださいませ!」

「水よ、止め!」


 テトンさんに言われて咄嗟に叫んだ。それで水は止まった。


「よ、よかった……すみません」

「いえ……ヤマダ様、水魔法を覚えられたのですね。おめでとうございます。水魔法はおそらく魔力量に比例するかと思われますので、ヤマダ様ですとほんの少し出すつもりでイメージされるとちょうどいいのではないでしょうか」

「あ、そ、そうですね!」


 テトンさんにしっかりフォローされてしまった。

 俺、情けないなぁ。

 俺の上着の内ポケットに入っていたミコが出てきて、俺の頬を慰めるように舐めた。


「ミコ、ありがと」


 しかしさっき肉食ってたから口元を拭いたは拭いたけどちょっと生臭い。ミコはそのまま俺の身体を伝って降り、桶から溢れた水をピチャピチャと飲み始めた。


「……そういえば、ナカガワ様も水魔法を覚えられたとうちのが言っていましたな」


 それまで固まっていたムコウさんがやっと起動した。すみません、イキッてしまってすみません。


「そうなんです……」


 これは氷魔法は危ないからいきなり使ったりしない方がいいだろうな。どっかで少し練習しようと思った。

 さて、そんな俺によるアクシデントはあったがクイドリの解体である。

 水は中川さんがにこにこしながら補充してくれた。


「もー、山田君ってば」


 いいんだ。中川さんが楽しそうなら俺はそれで。(いいから水魔法もちゃんと練習しろ、俺)

 火魔法はそれなりに使えるようになったんだけどなぁ。やっぱ火は危ないって意識があるから、小さめに出すってことを無意識でやってるんだろうな。

 お湯を沸かして羽を毟り、内臓を取り出しと一連の流れをみなで黙々と行う。

 クイドリは都合八羽分持ち帰ってきた。けっこうな量である。昨日の朝狩った分をそのままリュックに押し込んできたので、解体するのは四羽分だった。半分はオオカミとミコたちの分だ。狩った者の取り分である。


「オオカミさん、クイドリはあと一羽分ありますんで食べたければ言ってくださいね」

『よい。クイドリはくれてやる。それよりもヤクの肉をよこせ』

「また昼に出しますよー」


 アンタさっき食ったばっかだろーが。

 クイドリよりヤクの肉の方が能力が上がるってことなんだろうな。ドラゴンはゴートの肉でも文句は言わないけど、自分が飛べるからどこまででも狩りに行けるだろうし。

 解体を終えるとびしょびしょのミコが戻ってきたので浄化をかけてからタオルで拭いた。

 俺が出しすぎた水で、イタチたちは遊んでいたらしい。チェインは一緒になって泥だらけになっていた。うんうん、無邪気で何より。

 オオカミが家の横の香辛料の林にのっそりと入っていった。


「オオカミさん?」


 そういえばここを離れる時に気になることを言っていたなと思い出した。

 林と言えばクイドリなんだが、そのクイドリが餌とするような生き物がまず林に住み着くとかなんとか。

 オオカミはすぐに出てきた。口に何かを咥えて。


「オオカミさん?」

『むっ』


 オオカミはちょっとまずい、と言いたげな表情をした。もしかしてこっそりしていたつもりだったんだろうか。

 けっこうでかいから何やってても丸見えなんだけどな。なにせここ、ほとんど木とか生えてないし。


「ラン様、もういたのですか!?」


 テトンさんが嬉しそうに声をかけた。


「え?」

「ヤマネズミですよね?」


 テトンさんがわくわくしている。オオカミは頷くと、咥えたものを食べた。

 そういえば山を降りた時そんな話をオオカミとした気がする。クイドリは棲み付かないかもしれないけれど、そういう小さい獲物が棲み付くようなことは言っていた。


『……うむ』


 オオカミは食べ終えるとしぶしぶという体で返事をした。林なのにヤマネズミとはこれ如何に。


「林に棲み付くと言われている生き物なのです。滋養にいいと言われておりまして……ですがクイドリの餌ともなりますのでなかなか食べられないんですよ」

「へー、そうなんですね」


 俺はちら、とオオカミを見た。オオカミはバツが悪そうな顔をしている。

 この林は俺たちが生やしたものだからだろう。

 ま、食い尽くさなければいいと思う。

 首に巻きついているミコが顔を上げて、キュウ? と不思議そうに鳴いた。



次の更新は、31日(水)です。よろしくー


「準備万端~」書籍、お楽しみいただいているでしょうか?

本当に面白くなっていますので、まだという方は是非!

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