41.山の上に戻った

 山の上に戻ることを優先したので周りは全く見ていない。

 つーか、そんな余裕なかった。

 西の空が赤く燃えている。

 西側にも高い山があって、その山のてっぺんが赤くなっていた。もうそろそろ真っ暗になるだろう。


「おかえりなさい」


 ちょうど煮炊きをしていたケイナさんとユリンさんが笑顔で言う。


「ただいま戻りました」


 ここと、森の中の安全地帯が俺たちの家なんだなとしみじみ思った。ミコが俺の上着の内ポケットから出て、俺の身体を伝って降りた。

 中川さんの首に巻きついていたカイだけでなく、みなの首に巻きついていたイタチたちがミコの側に集まった。そしてなにやらわちゃわちゃし始めた。かわいい。


「チイ? あ、にーちゃんねーちゃんお帰りー」


 ムコウさんの子のチェインが俺たちの姿に気づき、笑顔を向ける。


「ただいま。元気だったか」

「二、三日じゃん。何も変わらないよー」


 笑われてしまった。


「そうなんだよなぁ」


 たった四日程度の外出だった。でもオオカミの背に乗っていったから、すごい距離を往復してきたということはわかる。二日で王都への道を踏破するとか、オオカミの速度ってどうなってるんだろう。確かこの山の上からだと人の歩みで最低でも一か月以上かかるんじゃなかったっけ? それとも二か月だったか。自分がそんなに時間かけて歩いてないから曖昧なんだよな。

 一か月歩くとなると約1000kmか。一日に500km移動するとかやばくね? 車とか鉄道だったらありな気はするけど。

 オオカミとんでもなくパない件について。

 ハッとして、


「オオカミさん、肉食べます?」

『ああ、よこせ』


 そうだよな。ほぼ休みなく走ってくれたんだからそれぐらい出さなければ罰が当たる。

 ヤクの肉を塊で出すと、


『戻ったか』


 洞窟からドラゴンが出てきた。


「はい、ドラゴンさん。みなを見てくださりありがとうございます」

『ふん……勝手にここに住んでいるだけじゃろうて』


 相変わらずのツンデレっぷりである。


「そんなことないよー。ロン様いっぱい遊んでくれたよね!」


 チャインが無邪気に教えてくれた。ドラゴンは『ふ、ふん! たまたまヒマだっただけじゃ』とそっぽを向いた。でもその尾がびったんびったんと派手に振られているから照れているんだろう。それにしても、そんなに地面を叩いたら塩が……まぁいいけど。

 オオカミだけじゃなく、ドラゴン、イタチたちにも肉を出した。

 そしてテトンさんたちにはクイドリの肉を出す。


「クイドリですか。おいしいですよね」


 テトンさんとケイナさんが笑顔になった。確かにゴートの肉に比べたらおいしいだろう。


「そういえば、森の側に住んでいた時肉とかってどうしてたんですか?」


 今更ながらテトンさんたちに聞いてみた。


「小さい魔獣やネズミなどを捕まえて食べていました。森の側でしたからそういった生き物には困りませんでしたよ。ただ、ゴートの肉の方がおいしいのであの場所にはさほど戻りたいとも思いませんが」


 テトンさんたちはもうゴートぐらいなら危なげなく狩れるようになっている。さすがにまだヤクのいる場所に連れて行くのは厳しい。

 俺たちはけっこうすぐに慣れたのに、と思ったけど、よく考えたら俺たちは最初から森の魔獣の肉を食べていたんだった。

 ちょうど夕飯の支度をしていたので、一緒に食べることになった。

 クイドリの肉は一旦しまっておく。明日改めて出すことにした。むきだしで出しといたら悪くなっちゃうしな。明日は解体することにしよう。


「明日はクイドリの肉食べられる?」


 チェインからキラキラした目で見られてしまった。


「うん、明日解体してから出すよ」

「わーい!」


 ゴートの肉はうまいけど、それだけだと飽きるのかな。でも俺、元の世界にいた時豚肉を毎日食ってたって飽きるなんてことはなかったけど。あ、味付けの問題か。

 スープはシンプルに塩胡椒の味付けだった。でもハーブを使って焼いたゴートのステーキはおいしかった。やっぱ味付けって大事だよなと思った。


「ヤマダ様、ナカガワ様、いつまでこちらにいらっしゃいますか?」


 テトンさんに聞かれて中川さんと顔を見合わせた。


「オオカミさん次第かな。ドラゴンさんに飛んでもらおうかと思ったけど、人間の王に会うのはオオカミさんの方がよさそうだしね」

『……明日は一日休ませよ』

「急いではいませんから大丈夫ですよ」


 そういえば、港に発着する船とかってどうなってるんだろうな? 人間の国から奴隷を連れてきているようなら戻させないといけないし。

 王は約束を反故にした。

 だから信用がおけないのだ。


「南の国に向かう前に港へ行ってもいいかな?」

「なにかあるの?」


 中川さんに聞かれて頷いた。


「奴隷とかってどうなってるのかなと思ってさ」

「確かに心配よね。確か、船であちらの国まで片道半年もかかるんだったっけ」

「そう。だから通知があったとしても、まだ奴隷を運んできてるんじゃないかと思ってさ」

「オオカミさん、いいですか?」


 中川さんが尋ねる。オオカミは鷹揚に頷いた。

 やることがだいたい決まったのでほっとした。ミコが食べ終えたらしく戻ってきたので、口を拭いてやった。肉を食べるとどうしても口の周りが真っ赤になってしまうので。本当は洗浄魔法をかけたいけど、それは寝る前にしようと思ったのだった。



次の更新は、24日(水)です。

誤字脱字の修正は次の更新で自分で読み返してしますから指摘しないでください。よろしくー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る