35.対策を考えたり、イタチと戯れたり
「ヤマダ様、ナカガワ様、秋ぶりですね。外出しておりまして、たいへん失礼しました」
相変わらずがたいはでかく角が立派なジャンさんと挨拶した。
館の応接室である。奥様も一緒だ。もちろん奥様にも角がある。
「将官になられたと聞きましたよ。お忙しいのではないですか?」
「雑務が増えましてな。昇進は全く望んでいなかったのですが、いやあ参りました」
ジャンさんは現場が好きみたいなことを言ってたっけ。それだと将官って地位はあんまりなのかなと思った。
「イイズナ様方もお元気そうでよかったです」
俺と中川さんの首元を見てジャンさんは笑みを浮かべた。
「テトンは元気ですかな?」
「はい、今はまた山の上に移りましたが、元気で暮らしています」
「それはよかった」
軽く雑談を交わしてから、ここに来るまでの道中兵士が多かったこと、そして香辛料が不足しているらしいということなどを話した。
そしてこれは噂に過ぎないかもしれないが、王都の手前にある村で聞いてきたことも伝える。
「南の国からの奴隷を森に? それはさすがにありえんな」
ジャンさんはいぶかしげな顔をして呟いた。話し方が素に戻っている。
「根も葉もない噂ならいいのですが、その噂の出どころも気になります。南の国から連れてきた人たちは、今はどこにいるんですか?」
中川さんに聞かれて、ジャンさんは詰まった。
「……奴隷の管理をしている者に聞いてみましょう。もしただの噂ではなかった時が厄介です。問題は、すでに奴隷を国から買っている家なのですよ……」
ジャンさんは軽く頭に手をやった。参ったと思っているみたいだ。
兵士を多く配備している理由はやはり治安対策らしい。香辛料が不足しているのは間違いなく兵士を森の側に配備したことが原因だということで、香辛料の原料を摘む従事者を募集しているそうだが、申し出はないという。
「そういうのってどこで募集しているんですか?」
「王都の近くの村だな。あとは冒険者ギルドを通じても募集はかけているが……」
中川さんはため息をついた。そして現状を伝えた。
「森の側に住んでいた方々って兵士から家を奪われて追い出されたんですよね? それも、家の中がかなり荒らされていたようなことをケイナさんから聞きました。また同じことが起こらないとは限りませんし、なかなかそんなたいへんな仕事に戻りたいという方はいないと思います」
「どうしたらいいだろうか」
「元あった家を原状復帰して、国から固定の給金を出した方がいいと思います。そうでもしないと森の側には戻らないかと。あそこには魔物も出て来ますし、決して安全とはいえませんから」
元々原状回復に関しては王様に約束させたはずなんだが、命令が伝わっていなかったのかな。王都から森の際まで一か月ぐらいかかるって聞いたように思うし。
だからって戻してこないっつーのは論外なんだが。
「それもそうだけど、まず森の側で香辛料を採る仕事をしていた人たちがどこへ行ったのか探した方がいいんじゃないですか? テトンさんたちは迷いなく葉っぱや実などを採取していましたけど、普通の人には見分けがつかないと思うので」
「そうだな、それも調査させよう。本来原状回復はしてから戻ってくるよう伝えていたはずなのだが……。いろいろ手詰まりだったんだ。ありがとう」
ジャンさんに感謝されてしまった。
それほどのことでもないけど、どうしたらいいのかわからなかったのかもしれない。こんなことならテトンさんも連れてくればよかったと思った。
ただ、今はテトンさんを連れてくるという約束はできないので何も言わないことにした。
夕飯まで、俺たちは与えられた部屋でくつろいだ。
身体や服は洗浄魔法でキレイにしたのでそのままベッドに転がっても大丈夫だ。
洗浄魔法超便利。服のくたびれ具合とかはどうにもならないんだけど、ほつれとか、そういったものは中川さんが繕ってくれたりする。
中川さんはいいお嫁さんになると思う。
そう思って顔が熱くなるのを感じた。
お嫁さんて……。
ちら、と中川さんの方を見ようとしたら、首に巻きついているミコが顔を上げた。そしてじっと俺を見る。
「ミコ?」
ちょっとどぎまぎした。
「ゆ、夕飯まではのんびりしような?」
キュウとミコは同意してくれた。
「行儀が悪いけど、ベッドに倒れてもいい?」
「いいよ」
中川さんに聞かれて即答した。
「あー、気持ちいい……」
中川さんが呟いた。ここのベッドは柔らかい。
俺と中川さんは同室である。しかもベッドが……かなりでかいとはいえダブルベッドだ。いや、山の上の家でも部屋は一緒だし布団も一緒なんだけど、なんていうかその、こう、ね。(ヘタレで悪かったな)
この世界では成人してる年齢だから、同衾もかまわないらしいが……。
いやいや元の世界ではまだ未成年なのだ。責任を取れる歳にならなければ手を出すのはあああああ。
心中葛藤していたら、その様子がうっとおしかったのかなんなのか、ミコにまた鼻を甘噛みされてしまった。
だから、怖いんだって!
中川さんが笑ってくれたからいいことにしよう。
俺もベッドの端に転がった。
やっぱ野宿だと身体が痛いよな。
二人ともうとうとしかけた頃、部屋のドアがノックされた。
はっとして飛び起きる。
「はい!」
「夕食の前にお召替えをお願いします」
侍女と侍従が来て、俺は隣の居間に連れて行かれた。そうして、用意された服に着替えたのだった。
次の更新は、7/3(水)です。よろしくー
「準備万端異世界トリップ」書籍版ご予約いただけているでしょうか?
こちら紙書籍は部数少なめですので、できましたら予約してもらえると嬉しいです。紙書籍には帯がつきまして、その帯にはSSが読めるQRコードが付いてますよー。
是非是非よろしくですー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます