36.ごはんを食べて一石二鳥
ジャンさんの館で用意された服は質のよい物だ。
とはいえ肌触りまでいいとは言えないけど。
そう考えると元の世界の製品ってけっこうすごいんだなと再認識する。
「お待たせしました」
食堂へ向かうと、すでにジャンさんと奥様は席に着いていた。中川さんは落ち着いた赤い色のワンピースを着ている。俺は白っぽいシャツに藍色のジャケットとズボン姿だ。これでもラフな恰好だと侍従さんに言われ、貴族ってたいへんなんだなと思ったりした。
ミコとカイは俺たちの首に巻きついている。
「イイズナ様方にも席を用意した。肉は提供された物を切り分けたが、それでよかったのかな?」
「はい、ありがとうございます」
ジャンさんに確認されて頷いた。ミコとカイ用には少し低いテーブルが用意され、その上にヤチョウとクイドリの内臓と肉が置かれていた。水もあるし、テーブルの位置は俺たちより少し離れている。正しい気遣いだと思った。
ミコがクククククと喉を鳴らす。満足そうだ。
「ミコ、カイ、これがごはんだよ」
ミコとカイを連れたまま低いテーブルまで向かい、二人が首から降りたところで自分たちの席に移動した。
カイはすぐに内臓に噛みつき、ミコにパンチされていた。おおう、容赦ないですミコさん。
ミコが俺の方を見て首を傾げ、キュウ? と鳴いた。
うわ、かわいい。
じゃなくて。
「食べていいよ」
そう声をかけるとガツガツと食べ始めた。うん、食べてる姿は怖いけど、かわいいよな。(意味不明
「ミコちゃんてすごく礼儀正しいよね」
中川さんが小声で呟いた。
「イイズナ様はヤマダ様を尊重していらっしゃるのですね。素晴らしいですわ」
奥様がにこにこしながらそんなことを言う。頬が少し上気してて、なんだか怖かった。
イタチたちがこの国では大事にされてきたというのがよくわかる。それを先代の王が反故にしたからイタチたちが森に移り住んでしまったのだろう。こればっかりはミコたちに聞いてもわからない。ミコの親はすでにいないみたいだし。
やがて俺たちにも料理が運ばれてきた。
前菜のサラダにはシーホンシー(トマトみたいなやつ)を使ったドレッシングのようなものがかかっている。
「まぁ、赤いのね。これは辛いのかしら?」
奥様は少し困ったような顔をした。
「いえ、辛味はありません。どうぞご賞味ください」
侍女に言われて、ジャンさんと奥様はおそるおそるサラダを食べた。
「まぁ……適度な酸味があっておいしいわ。もしかして、ヤマダ様たちがスパイスを提供してくださったの?」
「スパイスはテトンさんから預かってきた分をお渡ししました。あとはこちらの庭に植わっている植物を使っているかと」
「庭に? そのようなもの、あったかしら?」
奥様は首を傾げた。
観賞用として植えられていたものだからピンとこないのかもしれない。それからヤチョウのだしを使ったスープや、クイドリのステーキにトマトソースがかかったものなどおいしい料理が出された。もちろんゴートも提供しているので、ゴートのステーキも出てきた。それらの肉のだしをしっかり使って作られたパスタもおいしくて、ついつい食べすぎてしまった。やっぱ料理人が作ると違うよな。
「いつも料理長の作る料理はうまいが、今日は特にうまかったぞ」
デザートの後で料理長がご機嫌で出てきた。ジャンさんがねぎらいの言葉をかける。
料理長は満足そうに頷いた。
「ありがとうございます。ヤマダ様、ナカガワ様のおかげで久しぶりに旦那様と奥様がご満足いただける料理を提供することができました。シーホンシーの調理法だけでなくゴートを何頭もいただきました」
「ほう、それは豪勢だな。ヤマダ様、よろしいのですか?」
ジャンさんと奥様が目を丸くした。正直ゴートの肉は大量にあるのでいくら提供してもかまわなかったりする。多少は俺たちの能力も上がるしな。(ジャンさんたちは元々食べていなかったからいいかんじに上がるはずだ)
「はい、毎日のようにテトンさんたちが狩っていますから遠慮なくもらってください」
「なんと……テトンも随分と成長したのですな……」
前にも話したはずなんだが、どうしても身内ということもあってか、ジャンさんにはなかなか信じられないことらしい。確かにテトンさんはジャンさんと違って見た目が逞しいとはいえないもんな。(かなり失礼)
ミコとカイは満足したらしく、口元を真っ赤に染めて戻ってきた。
「ミコ、カイ、ちょっと待って」
急いで二匹に洗浄魔法をかけさせてもらった。途端にご機嫌だった二匹が難しい顔をする。
「ミコ、いいよ」
「カイちゃん、どうぞ」
ミコはグルゥ……と不満そうに鳴いて俺の身体を上り、鼻を甘噛みした。
「おわぁっ!?」
だから、不満を訴えるのに鼻を噛むのは止めてもらっていいですかね?
カイもまた不満そうではあったが、中川さんの頬をペロリと舐めて首に巻きついた。
「おなかいっぱいになった?」
なんて中川さんが優しく聞いている。
ミコは驚いた俺に満足したのか、俺の首に巻きついた。いや、自分の匂いが消えてしまったのが嫌だってのはわかるんだけど、汚れた状態で首に巻きつかれるのは困るんだよ。
「もー、ミコ、怒るなよ~」
なでなでしてお茶をいただき、そうして部屋に戻ったのだった。
次の更新は、6日(土)です。よろしくー
誤字脱字修正は次の更新でします
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