34.だしになるって聞いたことがあった

 香辛料もそうなんだけど、トマトって一般には流通してないんだろうかと考える。

 前にテトンさんたちにトマトと似たようなものはあると聞いたことはあった。

 ということで、厨房の人たちに聞いてみた。

 赤くて、すっぱい野菜みたいなものはないのかと。


「一応ありますが……食べられるとは聞いています。ただ、すっぱすぎてあまり好んで食べる者はおりませんね」


 困惑した顔をされてしまった。一応観賞用になるとのことで、庭に植えてあると聞き実を摘ませてもらえないかと聞いてみた。


「それは庭師に聞いてみませんと……」

「そうですよね!」


 厨房の前で中川さんとミコ、カイ、そして侍従さんが待っていてくれたので、こういう実が庭に植わっているのなら採取したいということを伝えた。でも今はまだ春だから赤い実は生ってないだろうか?


「庭師に聞いて参ります。応接室でお待ちください」


 また応接室に案内されて、お茶を飲む。こんなにお茶を飲んでいたらおなかががぽがぽになってしまいそうだ。ミコとカイにはまた水を出してもらい、一口大に切っておいたヤクの肉をあげた。小間切れにしておくと調理が楽なので、ある程度切った物をビニール袋に入れてリュックにしまっているのだ。

 リュックの中は時間経過がほとんどないみたいだからできることである。

 そういえば水魔法とか氷魔法的なもの、誰か持ってないかな。できれば継承してほしいんだけど。

 ヤクの肉、はそう簡単にはあげられないけど、ゴートの肉ぐらいならとか思ってしまう。(ヤクの肉は能力の上がり幅が大きいので、自分の能力を把握していない人だとその人が怪我をする恐れがある為)

 ミコはおいしそうに肉を食べ、水を飲んでから俺の身体を上った。口元をふきふきしてあげると嬉しそうに頬を舐めてくる。うん、獣臭い。でもかわいい。


「くすぐったいよ~」


 中川さんも同じようにカイに頬を舐められていた。ぐぬぬ、俺も舐めたことないのに。

 そうしてじゃれていると侍従が戻ってきた。


「庭にご案内します」

「ありがとうございます」

「トマトってこの時期でももう赤いのかしら?」


 中川さんが首を傾げる。熟しているのだとしたら、それはこの世界だからだろう。テトンさんに似たような赤い野菜のようなものがあるとは言われたけど、トマトとイコールではないかもしれない。

 ミコとカイは俺たちの首にくるんと巻きついた。かわいいからついつい撫でてしまう。

 ジャンさんの館には広い練兵場みたいなところもある。それ以外に庭の部分もあって、そこはあんまりよく見たことはなかった。


「こちらです」


 いろいろな木や花が植えられている一角で、庭師が待っていた。


「ありがとうございます」

「赤い実だとこれです。すっぱすぎて食えたもんではないです」


 苦笑しながらそう言う庭師のおじさんに見せてもらった実は、赤いけど丸、というより少し長細いものだった。こういうトマトあったなと思う。


「これ、味見してもいいですか?」

「食べるんですか?」


 と驚かれてしまった。

 なんで俺がトマトにこだわるかっていうと、トマトもだしの代わりになると聞いたことがあるからだ。火を入れるともう少しまろやかな味になるだろうから、スパイスがない現状でも助けになるかなって思ったのだ。

 というわけでかじってみた。


「……すっぱ!」


 予想通りでした。ありがとうございます。

 熟してはいる。

 庭師さんに、だから言ったのにという目で見られた。

 だって食べてみないとわかんないし。


「すみません、これいくつかいただけます? ちょっと調理してみたいので……」

「かまいませんが……」


 怪訝そうな顔をされながら5,6個いただいた。

 厨房を貸してもらえるという。


「油って少しいただけます?」

「ええ……」


 みなにすごく不思議そうな顔をされながら、トマトもどきを調理してみることにした。ミコもトマトもどきが気になったらしく一口かじったがぴゃっと逃げられてしまった。すっぱかったらしい。その後で鼻を甘噛みされた。ミコさん、こわいっす。ごめんなさい。 中川さんがそれを見ながら笑っていたからよしとしよう。

 さて、トマトもどきである。

 必要なのは油と塩だ。

 本当は皮を剥いた方がいいんだけど、それはまた今度にしよう。

 洗ってざく切りにして油で炒める。それに塩をまぶした。

 これで大分すっぱさは落ち着いただろう。煮ても意外とすっぱさって消えないんだよな。トマトは炒めると味がまろやかになる。

 で、味見してもらった。


「え? これがシーホンシーですか?」

「ええ? あんなにすっぱかったのに……」


 庭師さんにも少し味見してもらった。厨房のみなさんには強制で。


「なんだか、甘味も感じるような……」

「これって、味付けは塩だけですか? 料理に使えますね」


 気に入ってもらえたようでよかったよかった。

 でも油が手に入る環境じゃないとちょっと難しいかなとは思った。(この世界で油が簡単に手に入るものかどうか俺は知らない)

 調理したのを冷ましてからミコに一口あげた。

 なんともいえない顔をされて、笑ってしまったのだった。(指先を噛まれました。ごめんなさい)



 そんなことをしている間にジャンさんが戻ってきたらしい。

 久しぶりに会えるんだなと嬉しく思った。



次の更新は、29日(土)です。よろしくー

誤字脱字などの修正は次の更新でします

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