28.かつては金銀と同じ価値
砂糖は一応この国でも一部栽培しているらしい。
寒いところでも育つテンサイみたいな植物があるのだろう。それは森で採取するものではないから、多少は流通しているみたいだ。それでも塩と比べると高いらしい。
せっかく砂糖が手に入ったけど、お菓子を作ったりってできるんだろうか。
「山田君」
夕飯の時間が近くなった頃、中川さんが難しい顔をして声をかけてきた。
「何?」
「夕飯ってこの宿で食べるじゃない? 少しぐらい……スパイスを提供して調理してもらうのはどうかしら」
肉に関しては提供しないという話はしている。前回他の客の料理にまで使われたしな。能力を上げる手段として調理してもらおうとしたのに、他の客に食べさせられたんじゃたまらない。
「うーん……それで俺たちの料理にだけスパイスを使うかどうかって問題があるよな」
「そうなのよね。じゃあ、私たちの料理にも使うなら、安めの価格で少し融通するっていうのはどう?」
「それはいいかも」
ということで自由にしていたイタチたちには首に巻きついてもらい、調理場へ向かった。
「あれ? お客さんかい?」
「すみません。少し胡椒を持っているんですが……」
「ええっ? なんだって?」
調理場の側にいた恰幅のいい女性に声をかけたら驚かれた。俺たちの料理に使うのならばこれぐらいの価格で少し売るという話をしたら、一も二もなく飛びついてきた。どうやらこの宿屋のおかみさんらしい。前回俺たちと相対したのはご主人だったみたいだ。小さい小瓶に三分の二ぐらい胡椒を譲ったら、ものすごく感謝されてしまった。砂糖もいくらかはあると言うと、拝む勢いで買い取ってくれた。本当に不足しているんだなと気の毒に思った。
イタチたちにはこの辺りの家畜の肉を出してもらえた。
「ありがとうございます! 腕によりをかけて作りましたのでぜひ味わってくださいね!」
おかみさんがにこにこ顔で豚っぽい肉のステーキを出してくれた。この辺りの家畜である。
味付けは塩胡椒だった。シンプルにうまいが、なんか味わいが足りないような気がした。床を見ると、イタチたちも首を傾げながら肉を食べていた。
「そっか……家畜の肉だと能力が上がらないってこういうことなのね」
中川さんが小声で呟いた。
「あ、そっか……」
前回、前々回ジャンさんの館にお世話になった時は、こちらで肉を提供した気がする。確かゴートとでっかいネズミモドキの肉を渡したはずだ。だから家畜の肉というのがこのような、何か足りない味とは思わなかったみたいだ。
知らず知らずのうちに贅沢に慣れてしまったらしい。
つっても自分たちで狩ってるんだけどな。解体もするしさ……。
俺たちが食べていると、兵士たちが食堂に入ってきた。先ほど見た上官っぽい人も一緒である。
目礼する。
イタチたちが食べ終えたらしく身体を登ってきた。
「ミコ」
口をふきふきするとミコは嬉しそうに俺の頬を舐めた。うん、獣臭い。あとで浄化魔法をかけよう。
ミコはそのまま俺の首にくるんと巻きついた。
「満足したか?」
クククククと鳴かれた。おなかいっぱいにはなったらしい。あとでヤクの肉を少し切ってあげようと思った。
「イイズナ?」
「まさか……」
兵士たちがざわざわしていたが聞こえなかったフリをする。明日の朝には発つし、面倒ごとには巻き込まれたくない。中川さんの方もカイが中川さんの首に巻きついている。
「……ほう、今日の料理はうまいな。香辛料が手に入ったのか?」
すぐに出された料理を一口食べ、上官っぽい人が店員に声をかけた。
「あ、はい……たまたま譲ってくれる方がいまして……」
視線を感じたがさすがに無視した。胡椒はそれなりに在庫があるけど、いつでも水筒から出てくるわけじゃないしな。
「おなかいっぱい。ごちそうさま」
「ごちそうさま。戻ろうか」
「ええ」
中川さんがにこにこしながら手を合わせたので立ち上がる。
「待ってくれ」
そのまま部屋へ戻ろうとしたが、先ほどの上官っぽいっ人に声をかけられてしまった。
「……なんでしょう?」
「香辛料を持っているなら少し売ってほしい」
中川さんと目くばせする。
「高いですよ? それにもう残り少ないですし」
「かまわない」
しょうがないから小瓶に三分の一ぐらい譲った。この宿屋に売ったのの三倍ぐらいの値段で。王都に入るのにも金はかかるしな。
宿屋も兵士たちも香辛料不足というのはどうなんだと内心呆れた。
「ジャンさんのところには絶対行かないといけないよな……」
部屋に戻って呟く。今回はナリーさんのところへ寄ってくるだけのつもりだったんだけど、こっちが思っているより深刻かもしれない。
ミコとカイに浄化魔法をかけたら怒られた。だってちょっと臭いし。
「うわぁ!?」
鼻を甘噛みされて慌てた。そしてミコとカイは毛づくろいを始める。やっぱ匂いが消えるって動物的にアウトなんだなーと思った。
「ミコちゃんたちなりの身だしなみなのよね。山田君、いつもありがとね」
「? 俺は何もしてないけど?」
「……そういうとこ、好き」
「ええええ」
中川さんに嬉しそうに言われて、俺は頬に血が一気に上るのを感じたのだった。
100万PVありがとうございます!
次の更新は、6/8(土)です。よろしくー!
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