27.やっぱりなんだかきな臭い

 日本だったら昼間から酒を飲むなんてと思ったりもするが、ここは日本ではないわけで。

 飲み水自体が貴重なのだから、必然的に飲み物がアルコールを含むものになってしまうのは仕方ないことだ。それでもこういう酒場で提供されるミードはアルコール度が低いから助かる。一杯頼めばそれを持ち込みの水などで薄めて飲んでも文句は言われないから更に助かる。(ここらへんは店による

 それにしても、アルコールに弱い人はどうやって生きているんだろうなぁ。

 酔っ払いのおじさんたちはエールを頼んだ。やっぱビールじゃなくてエールなんだなとかラノベ知識で考えてしまう。

 話が脱線した。

 この国の情報である。

 現状、一番問題とされているのは香辛料の不足だそうだ。


「全く、時間が経ちゃあどうにかなるかと思ったら全然だよ。なんでもかんでもただの塩味になっちまってメシがまずいったらねえや」


 おじさんたちがぼやいた。


「しょうがねえだろ! 手に入らねえんだから!」


 酒場のカウンターの内側にいるおじさんが怒鳴った。店主さんだな。


「なんで手に入らなくなっちゃったんですかね?」


 中川さんが首を傾げて聞く。


「そりゃあ採取する連中がいなくなっちまったからだろ? 兵士が来たからって慌てて逃げていっちまうなんて情けねえよなぁ」

「えっ?」


 詳しく聞いたら、こういう話になっていた。

 森の側で香辛料となる植物を採る者たちがいることはみな知っている。

 彼らは兵士が森の近くに来た時、兵士たちを恐れて逃げていってしまった。

 今兵士たちは森から撤退しているが、森の側に住んでいた者たちは戻っていないらしい。摘む者がいない状態だから香辛料が手に入らない、というわけだ。


「その話って、誰から聞いたんですか?」


 中川さんが聞くと、「みんな知ってるよ」と言われた。

 つまりは流言飛語の類らしい。そして兵士たちも自分たちが追い出したとは言いたくないからそういうことにしているわけだ。

 それを信じてしまう人たちもどうかと思うが、兵士たちも黙っていることにはとても腹が立つ。


「じゃあ、この先どうするんですか?」

「どうもこうもねえだろ。どうしても手に入れたい奴は森まで行くんじゃねーか? 俺は死にたくねえから遠慮するがな」

「違えねえ!」


 ガッハッハッと酔っ払いたちが笑う。

 まぁ確かに森の際とはいえ魔獣に遭遇する危険は0ではない。命とスパイスを天秤にかけたら、命の方が大事だ。


「森の側で仕事する人とか、国で募集かけたりはしないんですかねー?」

「そういうのは奴隷にやらせるんじゃねーか?」

「奴隷?」

「知らねえのか?」


 南の国から人間を攫ってきて奴隷にしているという話は聞いたことがあった。奴隷とは、南の国の人間らしい。


「え? でも南の国の人って魔法も使えないし身体能力低いんじゃないですか? そんな人たちに摘ませても……」

「んなこと知らねえよ」


 確かに庶民には関係ない話だ。これから南の国へ行くっていうのに頭の痛い話だと思った。

 礼を言ってもう一杯ずつ振舞い、改めて雑貨屋へ向かった。この国で不足している物の現状を把握する為である。(さっき来た時はなんとなく眺めただけだった)

 そこまで俺たちがする義務はないが、せっかくジャンさんに会うことにしたので情報が大いにこしたことはないと思ったのだ。


「確かに……スパイスは全くなさそうね」


 店員に聞いてみたが「ないよ」と言われた。


「いつ頃から入ってこなくなったんです?」

「さぁ……いつだろうね。冬になる前にはもうあんまり入ってこなくなった気がするよ」

「そんなに前から……」


 国として対策とかしないんだろうか。

 この国の行く末が本当に心配になってきた。

 宿屋の部屋に戻り、ため息をついた。

 すると首に巻きついていたミコが顔を出し、俺の頬をぺろぺろと舐めてくれた。少し獣臭いけど嬉しい。


「ミコ、ありがとな。慰めてくれるのか」

「カイちゃん、くすぐったいよ~」


 中川さんもカイに頬を舐められていた。中川さんは嬉しそうに笑んでいる。おのれ、俺はまだ全然彼女に触れていないというのに。

 ミコの毛を優しく撫でる。


「水飲むか?」


 キュウと返事をされたので皿を出し、水を入れた。もちろんカイの分もである。

 こうやって水が当たり前に飲めるっていうのも普通じゃないんだよな。このリュックはずっと使えるようなことをロンドさんに言われているから安心だけど、そうでなかったらこの世界で生きていくのは過酷かもしれない。

 そういえばまだ今日は水筒を開けていなかったことを思い出し、水筒を取り出した。途端に近づいてくる中川さんとミコとカイが面白い。


「今日はなんだろうね?」

「なにかな」


 蓋を開けて中身を注ごうとしたら、さらさらとした白い物が出てきた。


「ん? なんだ?」


 ペロリと舐めてみた。


「砂糖だ!」

「ええっ!? やったね!」


 めったに出てこない砂糖が出てきて、思わず中川さんと手を合わせた。砂糖か。この世界の果物ってあんまり甘くないから、かけて食べるのもありだなと思った。

 森で大量に作ってきた竹筒に砂糖を移し、夕飯の時間までまったりしたのだった。



次の更新は、6/5(水)です。よろしくー

多忙の為、誤字脱字報告はお受けしていません。次の更新で修正しますのでお願いします。

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