26.村にて。情報収集は大事だ

 王都近くにある村の宿屋は二軒しかなかった。

 必然的に前回泊まった宿になってしまった。


「一部屋でよろしいですね」


 と言われて一瞬ためらったが、「はい、一部屋で」と中川さんが答えてしまったから逆らわないことにした。うん、まぁもう今更と言えば今更なんだが俺たちはまだ未成年でとかいろいろ考えてしまう。

 あること自体忘れてたんだけど、実はリュックの奥に父親が入れたであろう箱があるんだよな。それで避妊はできるけど……って俺はいったい何を考えているんだ!

 宿屋には兵士が多く泊っているらしく、あまり空きがないという。


「最近この辺りで変わったこととかってないですか? 久しぶりにきたので~」


 中川さんが受付の娘さんと世間話をしている。受付の娘さんが声を小さくして言う。


「変わったことというか……昨年の終わり辺りから兵士さんたちは多くなりましたよ」

「そうなんですか」


 部屋の鍵をもらって一旦部屋を確認しに行った。一泊の前払いをしたけど、前回より値段が上がっているようだった。

 あまりキレイとは言えない部屋全体に洗浄魔法をかける。これで清潔になっただろう。ホント、魔法って便利だ。


「ちょっと村を歩かない?」

「うん、ギルドとかお店に寄ってもいいかな」

「もちろん」


 先にミコとカイに餌をあげることにした。部屋の床に新聞紙を敷き、そこに皿を出す。水と、ヤクの肉の塊を出した。イタチたちには強く生きてもらわないと困るから、積極的に強い魔物の肉をあげている。

 ミコとカイは嬉しそうに肉を食べた。どうしても肉汁などが飛び散るので、改めて部屋に洗浄魔法をかけた。ミコとカイの口を拭く。カイの口は中川さんが拭いた。

 ちょっと生臭いがそのうち慣れるだろう。ミコもカイもそれぞれ俺たちの首に巻きついた。満足したみたいだ。よかったよかった。


「じゃあ行くか」


 まずは冒険者ギルドへ向かった。何か依頼がないか掲示板を覗く。もう昼頃なせいか、ギルド内は閑散としていた。

 のどかな村ということもあってか雑用系の依頼が多い。

 中には香辛料の実などを取ってきてほしいという依頼もあった。

 香辛料か。

 森の側に住んでいた人たちを追い出したのがあだになったな。どうやら国内ではずっと香辛料が足りない状態であるらしい。

 最初はジャンさんの館には寄らないつもりだったけど、やっぱり寄ってこよう。

 冒険者ギルドにはゴートの肉と毛皮、角などを卸した。だいたい一頭分である。


「ゴートが狩れるなんてすげえな。山に行ったのか?」

「ええまあ」

「塩とか持ってないか?」

「え? 塩も不足してるんですか?」

「いや、そういうわけじゃねえんだが……今香辛料が不足してるから塩も不足するんじゃないかって心配してる奴らが買い占めをし始めてな……」

「ああ……」


 オイルショックみたいなものかと嫌な気持ちになる。オイルショックを経験したことはないけど、確かその時はトイレットペーパーの買い占めが起こったんだっけか。もちろんトイレットペーパーだけでなく他の製品の買い占めなんかもあったみたいだ。でもなんでトイレットペーパーだったんだろう。(そこらへん俺はよくわかっていない)


「塩は困りますね」

「そうなんだよ」


 ギルドの受付のおじさんがぼやいた。


「さすがに売れるほど塩はないので」

「まぁ普通はそうだよな」


 うん、それほど困ってはいないけど売るほどは持ってない。山の上ではキレイな塩を大分採掘して貯めてはあるけれど。

 一応塩の値段は国で決まっているらしく価格高騰とはなっていないようだ。ただ、物がなければ売れないので気軽に塩が手に入らなくなったみたいだ。それは困るよな。


「流言飛語の類なんだろうけど、困ったものよね」

「塩は重要だよなぁ」


 雑貨屋へ行き、何か必要な物がないか物色した。

 狭い村なのであまり行く場所もない。

 ギルドの隣の酒場は開いていたから、そこへ入ることにした。主に情報収集の為である。


「ミードを二杯」

「あいよ」


 ミードとは蜂蜜酒のことだ。この辺りではキレイな水が手に入らないらしく、主に薄めた酒などを飲んでいるようである。

 こっそりペットボトルを出して、ミードを薄めて飲むことにした。そのままだとちょっと酒精が濃いのだ。(水の代わりのアルコールです。念のため)

 甘い匂いがするのか、ミコがふんふんと木のコップの中身を嗅いだ。


「飲んでみるか?」


 皿に少し移した。つーか動物に酒はだめだとは思うんだが、止めるのも難しいのだからしかたない。ミコはペロリと少し薄めたミードを舐めると、すんなり俺の首に戻った。あまり好みではなかったらしい。カイは最初から興味を持たなかったらしく、おとなしく中川さんの首に巻きついている。


「イイズナがいるなんて珍しいな」

「イイズナぁ? もう国からいなくなったんじゃなかったか?」


 酔っ払いに声をかけられた。やっぱイイズナの存在を知っている人は多いみたいだ。


「今は山の方に住んでいますよ」

「へえ? イイズナは山へ行ったのか」


 嘘は言ってない。何匹かは実際に山に住んでいるし。


「俺たちこの辺に来たのは久しぶりなんです。何か変わったことがないかどうか教えてもらえませんか?」

「ああ、まあどうせヒマだから構わねえよ?」


 彼らに酒を一杯おごって、少し教えてもらうことにした。



次の更新は6/1(土)です。

多忙の為誤字脱字報告はご遠慮くださいませー

次の更新で読み返して修正しますので、よろしくですー

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