25.道中もなかなか穏やかにはいかないようで

 王都近くの村の手前で、また兵士たちを見かけた。

 オオカミにはその手前の林で一泊してもらうよう伝えたから、俺と中川さん、ミコとカイの二人と二匹で村に向かっていた。

 兵士は三人ほどいて、鎧を着慣れていないかんじだった。もしかしたら新人なのかもしれない。

 マップを確認したが、兵士らしき点はオレンジだった。敵対するかどうか微妙な色だ。

 村に一泊する予定だから、ちょっと面倒だなと思った。


「お前たちはどこから来た」


 というやりとりを経て、村に害をなす者ではないと思われたのだろう。


「通っていいぞ」


 内心ほっとした。けれど兵士の前を通り過ぎようとした時、一人の兵士の手が中川さんに触れようとした。咄嗟に手が出て、兵士の腕を強く掴んだ。


「いっ、いてててててててっ!?」

「なんの真似ですか?」

「き、きさまこんなことをっ!? ぎゃあああああ!?」


 中川さんの首に巻きついていたカイが顔を出し、中川さんに触れようとした兵士の腕に噛みついた。


「カイ! 放せ!」

「カイちゃん、だめ!」


 中川さんが慌ててカイを回収した。カイは中川さんの腕の中でキイイイイイッッ!! と激しい威嚇の声を上げた。


「ひぃっ!? イ、イイズナ!?」


 兵士が逃げようとしたが、俺は逃がさなかった。


「何をしようとした?」


 中川さんに触れようとするなど許せるわけがない。だからといって腕の骨を折るわけにもいかないしと思っていたら、


「……すまない、ソイツを引き渡してはもらえないだろうか?」


 少し離れたところから声をかけられた。兵士三人のうちの一人が、上司か誰かを呼びに行ったらしい。判断が早くて助かる。俺が腕を掴んでいる奴の点は赤くなっているが、少し離れたところにいる彼らの点はオレンジだった。(マップは確認していた)


「……いいですけど、彼女に触れようとしたことは許せないです」

「夫婦だったのか。新米が申し訳ないことをした。どうか、放してほしい」


 兵士たちの上官らしき男性は、そう言って頭を下げた。


「……夫婦でなければ女性に触れてもいいんですか?」


 そう聞くと男性は弾かれたように頭を上げ、まじまじと俺たちを見た。ミコが内ポケットから出てきて顔を見せる。


「白いイイズナ様……もしや、勇者様でしたか……?」

「勇者とかそうでないとか、それは関係ないと思います。この国では勝手に女性に触ってもいいんですか?」

「……そう思う者もおります」

「では反撃されても文句は言わないようにしてください」


 腕を掴んでいた兵士を彼らに向かって軽く投げた。「痛い痛い」とわめいていてうるさかったからちょうどいい。


「き、きさまぁっ、こ、こんなことをしてっ!」

「黙れ」


 男性に遮られて、無様に倒れた兵士は黙った。


「失礼だが、君たちはこの先の村に行く予定で間違いないか?」


 男性の口調が元に戻る。


「はい、そちらで一泊してから王都の知り合いのところへ向かいます」

「その知り合いというのは? 聞いてもいいか?」

「ヤン伯爵です」


 そう言った途端、俺たちを睨みつけていた兵士が目を見開いた。


「……ヤン伯爵のお知り合いだったか。本当に失礼なことをした。申し訳ないが少しこちらで待っていてほしい。村にいる兵士たちに通達させてくれ」

「お願いします」


 カイに腕を齧られた兵士は他の兵士にしょっ引いて行かれた。一人、困ったような顔をした新人兵士が残される。気の毒だとは思うが仕事だから仕方ないだろう。


「ミコ、カイ、水飲むか?」


 キュウ、キュウゥと返事があったので、皿を出してそこにペットボトルから水を出してあげた。できればもう少し先の原っぱであげたかったんだが、待っていなければならないのならしょうがない。

 兵士はちらちらと俺たちを見ていたが、黙っていた。きっと真面目なんだろう。

 ぴちゃぴちゃと水を飲んでいる姿に癒される。


「カイ、さっきは偉かったな。でもやりすぎだぞ」

「ふふ……そうね」


 中川さんも二匹を見ながら笑む。カイとミコの皿を別にしてよかった。……理由はみなまで聞かないでほしい。(俺は誰に言ってるんだ


「カイちゃん、ありがとう。今度はひっかくぐらいにしてね」


 キュウゥ……とカイが返事をした。甘えた声である。

 ひっかくのも場所によってはやヴぁい気がするが、中川さんに触れるとか論外だ。やはり万死に値する。(中川さんガチ勢

 水を飲み終えたミコの口を布で拭く。ミコはククククと鳴くと満足そうに俺の首に巻きついた。うん、かわいい。

 そうしているうちに兵士が戻ってきた。先ほどの上官は村に戻ったらしい。


「村にいる者たちに周知してきた。行ってもいいぞ」

「わかりました」


 やっと放免されて、ようやく村に向かうこととなった。村の入り口では話が通っていたらしく、村に入る時必要な通行税的なものは取られなかった。一応さっき胡椒を売ったお金があるにはあるけど、かからないで済むならそれに越したことはなかった。

 村に足を踏み入れて、しばらく歩いてから息を吐いた。


「疲れたねー……」


 中川さんが呟いた。


「だね」


 お互い苦笑して、まずは宿を探しに向かったのだった。



次の更新は、29日(水)です。よろしくー


「前略、山暮らしを始めました。」6巻がこの度7/10(水)に刊行予定です。

こちら、「準備万端~」と同日発売予定なのでどうぞよろしくお願いします!

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