24.王都へ向かう途中で

 朝飯を終えて食休みをしてから、クイドリの解体をがんばった。

 なーんか気が付くと解体してる気がするな。

 浄化魔法があって本当によかったと思う。なかったらそれだけで精神が疲弊するもんな。

 そしてまたオオカミの背に乗り、王都を目指した。

 王都、というか今回の目的地はナリーさんの館である。テトンさんの伯父さんの館へ向かうかどうかについては、その時考えることにした。

 今度は走るスピードを緩めてもらったので、多少景色を見ることもできた。

 街道もそうだが、その周りは青々とした草が生えてきている。オオカミが進んでいくと道に生えている草などは減ってきた。この辺りは人の往来があるということなのだろう。そう考えると、森から林を過ぎた辺りまでは行き交う人がほとんどいないのかもしれなかった。

 そのまま道に沿って行くと、兵士らしき姿が見えた。


『……面倒じゃな』


 トントンとオオカミの背を軽く叩いて止まるよう促した。

 ここで兵士を振り切ってもいいのだが、この先がどうなっているのかがわからないから聞いてみることにした。話が通じる相手ならいいけど。


「ありがと」

『……無視する方が楽であろうに』

「とりあえず話してみるよ」


 中川さんと共に降りて、兵士の方へゆっくりと進んだ。俺の上着の内ポケットに入っていたミコが顔を出し、俺の首にくるんと巻きついた。中川さんの首に巻きついているカイはそのままだ。

 小声でマップを出し、兵士の点を確認する。

 ……微妙な色だった。

 赤ではなくオレンジ色である。こちらの出方によっては赤にも黄色にもなりうるだろう。

 確かに面倒だった。


「そこで止まれ! 問うことに答えろ!」


 兵士は横柄に言った。だがその声が震えていたので、腹は立たなかった。俺たちの背後にいるオオカミが恐ろしいのだろう。

 でかいしな。


「なんですかー?」

「そ、そのオオカミは騎獣か!?」

「いいえ、仲間です!」


 少し離れているのでお互い大きな声を出して言い合う。


「そ、そうか。俺たちに絶対危害を加えさせるんじゃないぞ! どこから来た!?」


 約束はできないなぁと思いながら、「山から来ましたー!」と答えた。

 すると兵士は肩を落とした。


「どこへ行くんだー!」

「王都の知り合いのところですー!」

「知り合いとは誰だー!?」


 ここでナリーさんとか言ってもわからないだろうから、テトンさんの伯父のジャンさんの名前を借りることにした。


「ヤン伯爵ですー!」

「なっ、そ、そうか……で、では通っていいぞー!」

「ありがとうございますー!」


 というやりとりを経て、俺たちは無事先を進む権利を勝ち取ったのだった。ジャンさんは兵士長だから兵士なら知っているかなと思ったけど、案の定知っていたららしくよかったと思った。

 通り過ぎようとしたら手前で、


「……山からでは手に入らないかもしれぬが、スパイスを持っていたりしないだろうか。その、胡椒などがあると助かるのだが……」


 と兵士に聞かれて中川さんと顔を見合わせた。

 森の周りに住んでいた人たちを兵士が追い出したことで、スパイスが手に入りづらくなっているのかもしれない。


「……売ることはできますけど、申し訳ないですがただでは……」

「売ってくれるのか!?」


 よほど切羽詰まっていたらしく、その辺にいた兵士たちが集まってきて、全部で小袋に半分ぐらいの胡椒を銀貨三枚で買い取ってくれた。(竹筒に入れておいた胡椒を少し分けた)


「助かったよ」

「ありがとなー」

「兵士長によろしくー」


 この辺りにいた兵士たちは気のいい連中だったようだ。


「この先も兵士の方が巡回とかしてるんですか?」


 王都の方を向いて聞くと、「ああ、森の方へ人手を割かなくてもよくなったからな」と苦笑しながら答えてくれた。それで治安がよくなるならいいと思う。王都の近くの村までの間でも一組ぐらいは見かけるだろうとのことだった。

 確かに以前この先で盗賊が出たりもしたし。あの時はその先にあった村の自警団に引き渡したんだったな。やっぱ兵士がいないのはまずいだろ。

 人があまりいないだけで、治安がいいとは言えないようだ。

 オオカミに腰が引けながらも、彼らは手を振って俺たちを見送ってくれた。森を攻略しようとしていた兵士とは別なのだろう。


「……みんながみんなああいう人たちだったらいいのにね……」


 中川さんが困ったように呟いた。マップのオレンジの点は、黄色に変わっていた。


「そうだね」


 オオカミの背に乗ると、ミコは内ポケットの中に戻った。


「ミコ、ありがとな」


 ミコはどういたしましてと言うようにクククククと鳴いた。内ポケットの上から優しく撫でる。

 ミコと中川さんがいるから兵士とも会話ができたのだと思っている。俺一人だったらキョドってどうにもならなかっただろう。

 誰かがいることで心強いってのは間違いない。当然、オオカミがいたから話もスムーズに済んだんだろうけどさ。


『ゆくぞ』

「ありがとうございます。お願いします」


 その後は黙ってオオカミの背に伏せた。そして王都の近くにある村まで走ってもらったのだった。



次の更新は、25日(土)です。よろしくー

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