23.林と言えばなお約束

 一応ポケットには投げやすい手頃な大きさの石を三つぐらい入れてある。醤油をまぶして乾かしたやつだ。

 自分で言うのもなんだけどコントロールはけっこういいんで、頭にぶつかるとそれで倒せることも多い。

 ただ一投で倒せるとは限らないから複数用意しておくし、補助魔法も使っている。しっかし、醤油も焼肉のタレとかもそうなんだが、自分が強くなったと勘違いしそうで怖い。そこは醤油やタレのおかげだと戒めるようにしている。

 調子に乗ったら簡単に死ぬし。


「ふう……」


 夜もけっこう遅い時間だというのに、クイドリは三羽襲ってきた。一羽はオオカミが倒し、一羽の顔にはミコが飛びついた。一瞬で目を潰して倒すとか、ミコってやっぱ強えんだなと震えた。しかも目を潰してから跳んで避けるとかどうなってるんだいったい。


「ミコちゃんて、ホントすごいねー!」


 中川さんに褒められてミコは得意そうに頭を上げた。クククククと鳴く。うん、こういうところもかわいい。ミコだけじゃなくて中川さんも。


「オオカミさん、さすがに眠いから解体は明日でいいかな」

『勝手に食うことにする故かまわぬ』

「余るようだったらミコとカイにあげてくれるかな?」

『うむ』


 ということでクイドリを二羽分リュックにしまい(さすがに浄化魔法をかけた)、平らなところをいぶしたりといろいろしてからダンボールとビニールシートを敷いて寝た。中川さんも一緒である。間にミコとカイが寝るスペース分開けるけどな!

 オオカミにただ乗ってるだけってのも疲れるんだよ。しっかりしがみついてないと振り落とされそうだし、それでいてミコも潰さないようにしないとだし。おかげで中川さんも共にとっとと寝てしまった。

 クケエエエエッッ!!

 という鳴き声で起きた。

 翌朝である。

 あー、ねみー。

 昨夜石回収して醤油まぶしといてよかったなっと。

 声がした方に向かって石を投げる。

 ギャアアアアアッッ!?

 という断末魔と共に顔を上げた。うまく当たったらしくクイドリが一羽落ちる。

 ギュアアアアッッ!?

 もう一羽はオオカミが跳んでその首に噛みついた。そしてもう一羽には、カイが飛びつこうとして落ちた。


「うわわっ!?」


 ミコがクイドリの顔に飛びつき、昨日のように目を潰して逃げる。俺は慌ててカイを受け止めた。スライディング救出成功!

 キュウ……

 カイの目がうるうるしている。


「山田君、カイちゃんっ!?」


 中川さんの声がかすれている。寝起きだからしょうがない。わたわたしていて、悪いことをしたなと思った。中川さんが起きなくて済むぐらいスマートに倒したいものだ。


「カイは大丈夫だ。ミコもありがとなー」


 ミコは戻ってきて、クククククと鳴いた。カイを中川さんに渡す。


「さて、朝から解体か……」


 クイドリはもう少し相手の力量とか考えて攻めてくるといいんじゃないかなと思う。これじゃ餌になりに来てるだけじゃないか。

 でもこうやって林に入ってきたものを攻撃することで縄張りを維持しているんだよな。

 林、と考えてからなんか引っかかった。


「なぁ、オオカミさん」

『なんじゃ?』

「林にはさ、クイドリが必ず棲むもんなのか?」

『そうじゃのう。森ほどの規模がない場所に棲み付くことが多いな。それがどうかしたのか?』

「ってことはさ、山の上の林にもクイドリが飛んでくる可能性ってあるワケ?」


 どうやって見つけるかは不明だけど。


『もう少し広ければ棲み付く可能性もあるじゃろう』

「マジか」


 ってことはもう少し林を拡大してみるか? そしたらクイドリの肉も食えるようになるってことだよな。


『だが、獲物はクイドリだけではないからのぅ』

「どゆこと?」

『クイドリの縄張りになるということは、それまでいた生き物たちが追い出されるか、食われていなくなるのだ。あの程度の林であればヤマネズミが棲み付く可能性がある。ヤマネズミの肉は甘くてうまい』

「オオカミさんの狙いはクイドリじゃなかったのか。ヤマネズミか。気になるなー」

『山の上のネズミを小さくしたような生き物だ。なかなかうまい』

「うまいってことは……なんか能力が上がったりするんですか?」


 俺のしゃべりもいいかげんブレてきたな。オオカミが怒らないからってフランクになりすぎかも。もうちょっと気を引き締めよう。


『そうじゃのう……ゴートよりも、多少力はつくやむしれぬ』

「ゴートよりもかぁ」


 それなら山の上の林に移住してくれると助かるかな。


「森の獣ほどはうまくないんですかね?」

『うまさが違うと言えばいいのかのぅ。ちょうどいい言葉が見つからぬ』

「ありがとうございます」


 この会話は解体をしながらしていたので、大分気が紛れた。中川さんはお湯を沸かしたり、解体した肉を分けて調理したりしてくれている。ありがたいことだ。


「オオカミさん、ミコちゃん、カイちゃん、ごはんよー」


 内臓と俺たちが食べない部位を主に集めて中川さんが声をかける。骨をできるだけ取ってあるのは中川さんの優しさだ。


『どれ』


 オオカミ、ミコ、カイが肉の方へ向かう。みなウキウキしているようだった。

 朝からでっかいクイドリを三羽解体とか勘弁してほしい。昨日飛んできたのも処理しないとなんだよな。

 朝飯を食ってからがんばろうと思った。



次の更新は22日(水)です。誤字脱字等の修正は次の更新でします。よろしくー

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