22.オオカミの背に乗って

 オオカミには肉の塊をあげて作業の続きである。


『なんじゃ、出かけぬのか?』

「家ができたら出かけますよ~。人手があるうちに一気に作った方が効率いいじゃないですか」


 オオカミに聞かれて、作業をしながら答えた。オオカミも丸一日駆けてきたんだから疲れてるんじゃないかと思うんだけど、余裕を持って走ってきたのかな。


『……そなたらは北の国に顔を出した後、すぐに南へ向かうのではなかったか?』

「それはそうなんですけど、結果はどうあれ一旦ここに戻ってくるつもりですから」


 南の国はなぁ……正直あんまり気が進まないのだ。でもロンドさん(北の国の王様の父親。現在は新米の神様)がやらかしてくれちゃったから、その後始末には行かないといけない。北の国にはお仕置きしたけど、南の国が今後どう出てくるのかわからないし。

 つったって、森とか山脈とか海っていう天然の要害があるから南の国が直接北の国をどうこうはできないだろうけどさ。

 あ、でも……船で片道半年って言ってたっけ。

 どちらの国も船を出していたとしたら、そろそろ衝突していてもおかしくは……ない? のか?

 海の上でちょうど出会うなんてことはありえないだろうけど、お互いの国の船が着いている可能性はあるんだよな。


「山田君、どうしたの?」


 黙り込んでしまった俺に、中川さんが声をかけてきた。


「いや……森を攻略できなかったら船を使うかなと思ってさ……そしたら、そろそろお互いの国の船が着いててもおかしくないんじゃないかって……」

「そうね。その可能性はあるわ」


 中川さんは冷静だった。


「まずは家を作りましょ」

「う、うん……」

「大丈夫よ。一日二日遅れたからって、どちらの国もすぐに潰れたりはしないわ。だって”勇者”はここにいるでしょう?」

「そういえばそうだった!」


 中川さんの笑顔で目が覚めた。

 ロンドさんが召喚した俺たちは、それぞれ北の国と南の国の”勇者”である。ロンドさんは俺たちの存在をもって、お互いの国の不可侵を約束させたかったらしいがそうは問屋が卸さなかった。

”勇者”さえ得れば、南の国を奪えると北の国の王は考えたし、南の国もまた”勇者”を得ようとした。俺たちは南の国にはまだ行ったことがないから、南の国の王様が何を考えているのかはわからない。でも北の国が南の国の人間を奴隷として攫ってきたというのは許せないし、その人たちは返すべきだと思っている。

 なんだったら、俺たちが南の国に返してもいいのではないか。

 現実にはそう簡単にはいかないだろうけど。


「家を作ったら獲物を狩ってきた方がいいよな。それが済んだらナリーさんのところへ行こう」

「そうね。遺骨も渡したいし」


 中川さんは同意してくれた。

 ってことでどうにか二日で家を作り、山の上でヤクやネズミモドキを狩りまくった。


「ヤクの肉、とネズミモドキの肉、一部置いていきますね。皆さんで食べちゃってください」

「ありがとうございます。王都からは一度こちらへ戻っていらっしゃるのですよね?」


 テトンさんに聞かれて頷いた。


「はい、一度こちらに戻ってきてから南の国へ向かう予定です。少し、時間はかかってしまうかもしれませんが……」

「わかりました。お戻りをお待ちしています。国の様子など、教えていただけるのを楽しみにしています」


 そしてその翌日、俺は中川さんと共にオオカミの背に乗って王都へ出発することになった。

 俺の上着の内ポケットにはミコが入る。そして中川さんの首にはカイが巻きついている。首に巻きついていると暑くないだろうかと思ったが、中川さんにとってはそれぐらいでちょうどいいらしい。


「森と違って、北の国って夏もあまり暑くならないじゃない? だからカイちゃんがここにいると心地いいの」


 そう言って中川さんはふふっと笑んだ。カイが頭を上げてふふんと得意げな顔を俺に向ける。中川さんに見えないと思って、俺にはすこぶる態度が悪い。

 ミコは他のイタチたちに何やら言いつけていたらしく、ギリギリになって俺の内ポケットに入った。そして顔を出し、クククククと鳴いた。その頭を優しく撫でる。気持ちよさそうに目を伏せるミコは本当にかわいい。


「いろいろ済んだのか?」


 キュウと返事をされた。


『参るぞ』

「はい、お願いします」


 オオカミの背に乗り、テトンさんたちに手を振った。そして俺と中川さんは風になった。



 ……めっちゃ速い。

 以前よりも速くなっている気がする。森の向こうの山から駆け下りた時も速いと思ったけど(あれは駆けるというより落下しているみたいだった)、すごいスピードだった。でも風魔法を使っているのか、思ったよりも息苦しくはない。

 その日の夜には、王都へ向かう途中にある林に着いてしまい、驚いた。


「足、速すぎじゃありません?」


 全然街道の様子は見られなかった。もちろん山の麓の村についても。戻る際はもう少しゆっくり駆けてもらいたいと思った。

 林に入ってうーんと腕を伸ばす。中川さんも肩を回したりしていた。

 ミコが内ポケットから出てきて、俺の首にくるんと巻きつく。


「ミコは身体伸ばさなくていいのか?」


 かわいくて嬉しいけど、身体が固まってないかが心配だ。


『速い分にはいいのではないか?』


 オオカミがいぶかしげに首を傾げた。


「いいんですけどね。全然景色とかも見られなかったんで、もう少しゆっくり走ってもらえると助かります」

『面倒じゃのう』

「国の様子も見たいので、お願いします」


 中川さんがオオカミに頼んだ。オオカミはそれに頷く。

 林の中にもう少し入ったところで、クイドリが飛んできた。

 そういえば林にはクイドリが住み着いてたんだよなと思い出し、ポケットに入れてあった石を投げつけたのだった。



次の更新は18日(土)です。誤字脱字等は次の更新で修正します~

多忙なのでよろしくですー

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