29.ラッキースケベはありませんでした(残念)

 その夜はどきどきがなかなか収まらず、寝るまでに少し時間がかかった。

 今はもう中川さんと両想いだってわかってるけど、くうー! かわいい。

「好き」って何もう中川さん大好き。あ、ちゃんと「俺も好き」って返したから! その後何故かミコに鼻を甘噛みされて飛び上がったりしたけど。

 中川さんとは、大きめだけど同じベッドで寝るし、もしかして、もしかしてありなのかっ? とか考えてしまう。

 いや、ないだろ。

 スンッとなった。

 どちらにせよ俺と中川さんの間にはミコとカイが丸まって寝ている。それを突破するのは困難だ。でもいずれはあああああ! とか考えてしまう。だって男の子だもんっ。

 そんなことを考えている間に寝てしまった。

 硬くてもなんでも、ベッドで寝れるの貴重。



 翌朝は早めに宿を出た。先払いしていたから、「朝飯はいらない」と言って出る。オオカミと合流しないとだし。

 村の門を出て林へ向かう途中でオオカミと会った。機嫌よさそうである。


「オオカミさん、おはようございます」

『うむ』


 林にいたから朝からクイドリを食べたんだろうな。


「俺たち朝飯まだなんでここで食べてもいいですか?」

『かまわぬ』


 道の端でお湯を沸かし、サバ缶の汁でスープを作る。サバはお湯で少し洗ってミコとカイにあげた。お弁当のおにぎりとゆで卵を中川さんと分けた。ミコたちには更にクイドリの肉も出した。ミコたちは嬉しそうに肉をたくさん食べた。朝からよく食べる。口をフキフキして、オオカミの背に乗りまた移動し始めた。

 別に今日中に王都に着かなくてもいいのだ。

 オオカミの足は更に速くなっているようで、昼過ぎには王都の側の林に着いてしまった。だから、どんだけ早いんだっつーの。

 もしかして時速100km以上出てない? 前回林に着いた時はもう少し遅い時間だったような気がする。

 景色が全く追えないわけではなかったから、これでもオオカミは速度を落としてくれたのかもしれないけど。


「とりあえずお昼にしようか」


 クイドリが襲ってくると面倒なので林の側で昼ごはんを食べてから林に入ることにした。寝床を作る時間もほしいしな。もう簡易の寝床を作ってリュックにしまって持ち運びした方がいいような気がしてきた。

 え? まだ作ってなかったのかって? 枝とロープさえあれば作れるからあんまり不便を感じていなかったともいう。それにビニールシートと段ボールもあるしな。多少身体は痛くなるけど、俺だけだったらそれでよかった。でもなー、中川さんがたいへんそうなんだよな。寝袋とテントは一緒にリュックに入れて持ってきているとはいえ、寝床はあった方がいいだろう。大分くたびれてきたしな。

 浄化の魔法を得てキレイにすることはできるようになったとはいえ、ほつれや穴が空いたりというのがないわけではない。

 オオカミとミコたちにヤクの肉を出し、俺たちはクイドリの肉を焼いて食べる。王都の側の林に住んでいるクイドリは、クイドリの中でも特にうまいからこれから狩るのが楽しみだった。

 昼飯を食べていると、誰かが近づいてくるのがわかった。

 たまたまマップを出して見ていたのである。

 まだ片付けが終わっていない。もう少し後だったら林の中に隠れることもできたのに、と面倒に思った。マップの点の色はオレンジだったのだ。微妙な色である。


「……誰か来ますね」

『うむ』


 オオカミはとっくに気づいていたみたいだ。


「……何人ぐらいなのかしら」


 中川さんは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに気持ちを切り替えたようだ。オオカミの察しのよさもそうだが、俺がなんらかの方法でそういうことを知るというのも中川さんは理解している。まだマップの存在は教えていないけれど。


『多いのぅ』

「そうですね」


 マップに表示された点は十ぐらいある。もしかしたらクイドリを狩りに来たのかもしれない。

 ここはあまり隠れるところがないせいか、それなりに離れたところから近づいてくる集団がすぐに見えるようになった。

 前にいるのは普通の恰好をしている人と兵士である。普通の恰好をした人はもしかしたら案内役なのかもしれなかった。

 彼らは俺たちの姿を認めたのだろう。動きが止まった。


「……なんか面倒ね。林の中に入っちゃう?」

「うーん……見つかっちゃったからなぁ」


 中川さんの問いに頭を掻く。林の中に隠れてのちのちなんかあった時の方が面倒そうだ。とりあえず片付けをしてしまおう。兵士たちはこちらを見て何やら話しているみたいだった。


「オオカミさん、もし向こうが攻撃してきても殺さないでくださいね」

『面倒じゃのう』


 オオカミはフン、と鼻を鳴らした。ミコとカイが俺たちを見た。そして俺たちの身体に登る。

 肩に乗ったミコの頭をなでなでする。そうしてミコの口を布で拭いた。肉を食べたせいか生臭い。


「向こうの出方待ちかな。大丈夫だよ」


 やがて、集団の中から兵士が一人進み出て歩いてきた。マップに表示されている色は依然としてオレンジである。

 歩みは普通であることから、こちらに敵対意識はないという意志表示だろう。

 作業をしながら兵士が近づいてくるまで待つことにした。



次の更新は、12日(水)です。よろしくー

誤字脱字等の修正は次の更新でしますねー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る