2.森へ向かう日のことを確認してみる

 と、いうわけで本日の水筒の中身確認ターイム。

 ミコと中川さんだけでなく、中川さんの首に巻きついていた黄色っぽいイタチも顔を出した。別にそんなにかしこまることはないと思う。みんなわくわくしているのがわかって、ちょっとしたプレッシャーを感じた。

 蓋を開けて中身をコップの部分に注ごうとしたら、どろっとした透明な液体が出てきた。ちょっとてかっている気がする。

 これはもしや……。

 試しに指につけて舐めてみた。


「うん、油だ」

「油ー!」


 中川さんが歓声を上げた。

 油は忘れた頃に出てきたりするので貴重ではある。油があるだけで味が変わるのだから、中川さんが喜ぶのも無理はない。


「油、ですか」

「油が出たんですか!?」

「なんという贅沢……」


 テトンさんはあんまりピンときていないようだったが、ケイナさんとムコウさんの奥さんであるユリンさんは反応した。油大事、絶対。

 ミコたちイタチ勢はなーんだというように各々の定位置に戻った。すなわち、俺たちの首にくるんと。ちょっとくすぐったいけど、あったかくてかわいい。


『油とは何か?』


 オオカミが気になったらしく聞いてきた。以前話したかもしれないけど、そんなに出てくるものじゃないから説明してみる。


「食べ物に油を塗って焼いたり煮たりすると味が少し変わるんだよ。身体も温まるし。それだけじゃないけどな」

『そうか。そなたらにとって重要なものなのじゃな』


 オオカミにとっても重要だとは思うけど、うまく説明できないからそれで流した。


『すぐに出るのでなければ、山の上の獣を狩りに参るぞ』


 オオカミがすっくと立ち上がる。じっとしているのは性に合わないようだ。


「あ、その前にドラゴンさんも一緒にさっきの話の続きをしてもいいかな?」


 中川さんを手招いて、先ほど中断した西の山の獲物などの話についても伝えることにした。

 ケイナさんとユリンさん、ムコウさんの息子のチェインは木の実などを採りに行き、テトンさんとムコウさんは山を下っていった。またゴートを沢山狩ってくるつもりなのだろう。どんだけ狩っても狩りつくすってことはないみたいだ。

 で、俺たちはそこでこれからの件で会議である。そんなたいそうなもんでもないけど。


「へえー……西の山にそんなに強い魔獣がいるの? 私たちでも倒せるのかしら」


 話を聞いて、中川さんが感心したように呟いた。ドラゴンとオオカミが頷く。ミコも頷いていた。


『そなたら二人の能力があれば申し分ないじゃろう。だが山の上の獣よりもでかく、角もある。そなたらの使用する毒を使い、離れたところから攻撃すれば簡単に倒せるじゃろうて』


 ドラゴンが補足してくれた。


「でかくて、角がある……それは森の魔獣よりも大きいってことですよね?」

『おそらくは』

「ってことはでっかいクマか、ヘラジカみたいなのかしら。食べ応えがありそうね!」


 何気に中川さんも好戦的だ。確実に倒せるなら倒してみたいという欲はある。この山で獲れるヤクよりもうまいなんて言われたらなおさらだ。

 移動するのは一応明後日にし、移動日の動きなどを確認する。

 まずドラゴンがみんなを乗せて、森のミコたちの縄張りに飛ぶ。その後各自寝床等を作る。俺は森との境に醤油やソースを巻いたりしてオオカミが到着するのを待つ。オオカミが到着したらドラゴンに乗せてもらい、俺と中川さんは西の山へ向かう。


「こんなかんじかな」

『うむ、それでよかろうて。ある程度狩りをしたら貴様は戻るのだな』


 オオカミがドラゴンにそう告げた。


『コヤツらに解体させてからじゃな。そのまま食らうよりも解体した肉の方がうまい』


 ドラゴンも当たり前のようにそう言う。中川さんと共に苦笑した。


「ミコたちの縄張りで解体するのでしたら、みんなに肉は分けないといけませんよ」

『……我が狩ったとしてもか』


 ドラゴンが唸った。


「そこらへんはミコたちと相談してください」


 ミコはキイイイイッッ! とドラゴンを威嚇した。分けなければわかっているんだろうな? と言っているみたいだった。ドラゴンがズザザーッと下がる。ああ、また塩が……と思ってしまうがそれはしょうがないことだった。一応ここの塩は採れるだけ採ったからまぁ、うん。でももったいないと思ってしまう。この水筒からいつまで調味料が出てくるかもわからないしなぁ。


「森にテトンさんたちを連れていくってなったら、やっぱりヤクの肉も食べてもらう方がいいんじゃないかしら?」


 中川さんの提案に頷いた。力の調整は各自でしてもらうことになるけど、ヤクの肉を食べれば森の獣にも対抗する力がテトンさんたちにつくのは間違いなかった。


「そうだね。今夜から少しずつ食べてもらおうか」


 その為にはまたヤクの肉を確保しに行った方がいいかな。うまいからいくらでも食える。


『……上へ向かうぞ』


 オオカミが唸るような声を発した。


「そうですね。じゃあ、ヤクを狩りに行きますか』


 防寒着もしっかり着込んでいるから問題ない。ミコは俺の首にくるんと巻きついているし、中川さんも弓を持ってきた。俺は醤油とソースを入れた竹筒を持っていけば大丈夫。あとは手頃な大きさの石をポケットに入れた。

 そうしてまたドラゴンの背に乗せてもらい、山の上の方まで飛んでもらったのだった。


 ちなみに、昨日俺が叫んだ声がオオカミに届いたかと聞いたら、ばっちり聞こえたらしい。

「オオカミさーん」と名指ししたことで、うるさいぐらいじゃったと文句を言われてしまった。ただし名指ししないと聞こえない可能性もあるという。

 なかなかに不思議なことだと思うんだが、いつかこの謎が解ける日はくるんだろうか。



次の更新は9日(土)です。よろしくですー

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