122.目下の脅威? はどうにかしないと
「王城内の食堂で振舞っちゃったからしょうがないとは思うんだけどねー」
中川さんが嘆息した。
そういえば兵士たちが使う食堂でクイドリを一羽分提供したんだった。あのクイドリは別の林で手に入れてきたから、さほど重要なものとは思えなかったのだ。だって林はけっこういろんなところに点在しているから、兵士をうまく使えば三羽ぐらい狩れるだろうと思っていた。
だが実際はそうではなかったようである。
「……そんなにクイドリって倒しにくいのかな?」
「……ヤマダ様とナカガワ様は別格です。クイドリはどちらかといえば我ら狩人でも敬遠します。なにせ三羽以上で必ず襲ってきますから」
テトンさんが苦笑しながら言った。
「私たちはお二人のおかげで昔とは比べ物にならない程能力が上がっています。ですがこの国の兵士たちはそうではありません。本日いただいた一口であっても彼らの能力を上げる手助けになったと思います」
「……まぁ、それならいいけど……」
この国で気に食わないのは王とかその周りの人だけだしな。他の魔獣を狩る為には兵士たちの能力は多少上がった方がいいと思う。せめてクイドリを連携して倒せるぐらいになれるといいんじゃないかな。
「すまない。あの陰険宰相は兵士たちの自慢を耳にしたらしくてな」
ジャンさんが本当にすまなさそうに頭を下げた。
「頭を上げてください。気にしていませんから」
「ヤマダ様、ナカガワ様、少しよろしいでしょうか」
夕飯前に内密の話があるというのでテトンさんたちの部屋に集まった。
防音魔法を施し、部屋の外からは聞き耳を立てられないようにしてから、テトンさんとケイナさんはバッと頭を下げた。
びっくりした。そんなことをされる覚えはなかった。
「あのぅ……?」
「ヤマダ様、ナカガワ様、いろいろ助けていただいている身ではありますが、今一度私共を助けてはいたただけないでしょうか!?」
「ええ?」
まぁ助けてくれと言われれば内容によるとしか答えられないのだが、今度は何をすればいいのだろう。俺は中川さんを振り返った。
「内容によります。まずは聞かせてください」
中川さんが答えてくれた。
「ありがとうございます!」
そうしてテトンさんが話した内容はこうだった。
例の宰相は元々テトンさんの伯父であるヤン伯爵家を煙たく思っていること。今回ゴートを狩ってくるようにとの命令は宰相から出ていたこと。おそらく俺たちが出て行った後は、なにかでっち上げて伯爵家を害する危険性があるという。
「ふうん。それでテトンさんたちはどうしてほしいの?」
話を聞いて平然と中川さんが尋ねた。
「ロン様に……できましたら山に戻る途中で、この館の上を飛んでいただきたいのです」
「ドラゴンさんにこの館の上をねぇ……どうして?」
中川さんはその理由がわかっているようだった。俺はなんでドラゴンがこの館の上を回ることが彼らの助けになるのかさっぱりである。そういえば山の、村の方でなんか言ってたっけ?
「ドラゴンは最強種と言われています。ロン様にこの館の上を何度か回っていただければ、伯爵家にはドラゴンの加護があると誤認させることができましょう。あの宰相でもしばらくは伯爵家に手出しはできないはずです」
「そういうこと……うーん、それは全然かまわないけど、なんかまどろっこしいわね」
「そう、でしょうか?」
テトンさんとケイナさんは顔を見合わせた。
「ねえ、この館には王城の練兵場ほどではなくても、兵士が鍛錬をできる場所とかはないのかしら?」
「ございますが……」
「それなら話が早いじゃない?」
中川さんは俺に向かってにっこりした。それで、俺も中川さんがやろうとしていることが唐突に理解できた。
「あ、俺……まだ今日は水筒開けてないや」
「そういえばそうだったわね。中身を見せてくれない?」
「OK」
水筒を出して蓋を開けようとするとみなにじーっと見つめられた。相変わらずやりづらいなと苦笑した。昨日は胡椒が出たのでこの館の厨房に三分の二ぐらい寄付したら、厨房の面々に深々と頭を下げられた。さすがに調味料はランダムで出るから全部は提供できなかった。
水筒を傾ける。なんかまたどろっとした黒っぽい液体が出てきた。
小皿に移し、舐めてみた。
「うーん、焼肉のタレとは違うな……」
「ちょっと味見させてね」
中川さんが断って小皿に出したものをペロリと舐めた。
「うーん……なんかこれって、焼肉じゃなくて焼き鳥のタレっぽくない?」
「あ、そうかも」
ランダムはランダムなんだけど、やっぱこの水筒は俺の意志を汲んでくれているような気がする。
「じゃあ、せっかくだから明日の昼はこの館の外で焼きトリパーティーでもやってもらおうか」
「それ、いいわね!」
「ヤマダ様? ナカガワ様?」
テトンさんとケイナさんはなんだかわかっていない様子だ。
館の上を旋回するなんて生温い。どうせならドラゴンをここに引き寄せて、下ろしてしまえばいいのである。そうすればオオカミも付いてきてくれるだろうしな。
そうして中川さんと顔を見合わせ、明日の計画を彼らに話したのだった。
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