121.クイドリの在庫がほしかったので(とうとう在庫扱い
この国の兵士たちと、多少なりとも仲良くなれてよかったと思う。
みな角があるだけで気のいい連中だった。
俺たちに角がないのを奇異に思ったようだが、別世界から来たことと、俺たちの世界には角を持つ人はいないのだと伝えたらそういうものなのかとわかってくれたようだった。
ジャンさんに確認したら森の側で展開していた兵士たちはすでに帰路についているらしい。
「森の側の家の状態とかはどうなっているんでしょうね?」
「……そこまで保証はできないが、家を壊したりはしていないはずだ。荒れている可能性はあるが、言ってくれればできるだけ補填はしよう」
テトンさんとケイナさんは肩を竦めた。これで彼らは森の側の家に帰ることはできるようになったけど、どうするのかな。
昼食後はテトンさん夫妻も共に街を見て回ることにした。明日ドラゴンに乗って山の家に帰ることに変更はない。でももう少しクイドリを狩りたかったと思う。王都の側の林で狩ったクイドリの肉は残してあるが、もう何羽分か欲しい気がする。
市場を見て回りながら俺は少しそわそわしていたようだった。
「山田君、何か気になることでもあるの?」
中川さんに聞かれてしまった。
「あ、うん……香辛料のこととかもそうなんだけど、もう何羽かクイドリも狩って帰りたいなと思ってさ。王都の側の林のクイドリ、けっこうおいしかったし」
「そうね。ムコウさんたちにお土産を持って帰りたいわよね。テトンさん、ケイナさん、ちょっと私たち林に行ってクイドリを狩ってこようと思うんですけど……」
「でしたら私たちも連れていってください」
テトンさんたちも一緒に行ってくれるようだ。
「走っていきますけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。補助魔法を使いますので」
ケイナさんがにっこりして答えた。というわけで俺たちは王都を一度出て、念の為王都の門から姿が見えなくなるまで歩いてから林へ向かって駆けた。
何も考えずに走ったせいか、ほぼ一瞬で森に着いた。クイドリを狩ろうという話を市場でしてから一時間ぐらいである。(王都の中と門から見えなくなるまで歩いた時間が完全にロスだ)
林に入って歩いて十分もしないうちにでかいクイドリが襲ってきた。
「ギャアアアアアッッ!」
俺は石を投げ、中川さんは弓を引き、テトンさんも冷静に矢を放った。
クイドリたちは俺たちの手前5mぐらいで事切れた。もう今日はこっちから向かわなければ襲ってもこないだろう。
「お見事です!」
ケイナさんが喜び、テトンさんと共に解体を始めた。
「もう少しほしいのであっちに向かってみますね」
三羽でもいいんだけど冬を越すことを考えるともっとほしいし、なんかこの林、森ってほどではないけどけっこう広そうなんだよな。
「最終的に何羽ぐらいをお考えですか?」
「できれば十羽ぐらいなんですけど、多いですかね?」
テトンさんたちの顔が引きつった。
「解体は俺たちもやりますんで」
「でしたら、問題はないと思います」
テトンさんたちが苦笑した。だって、ドラゴンとオオカミ、そしてうちのイタチたちにもあげないといけないし。中川さんも「そうね~」と言いながら一緒にどんどん林の中へ入って行った。毎回襲ってくるのは三羽と決まっているらしく、都合十二羽狩った。やっぱりけっこうこの林は広さがあるようで、ギャアギャアとクイドリの声がうるさいことからまだまだいそうだと思った。適度に間引かないと林から出てきてしまうかもしれないしな。
クイドリをかついでテトンさんたちがいるところまで何度か往復し、その後はみんな無言で解体をした。一羽分の内臓はミコたちイタチの胃袋に入った。小さい身体だけどよく食べるんだよな。さすがにみんな血まみれになったので洗浄魔法をかけたら、またミコに怒られた。だってスプラッタのまま首に巻きつかれたら嫌だし。でも鼻を甘噛みとはいえ噛まれるのは怖いです。
内臓もキレイなところは残し、ビニール袋に入れてどんどんリュックに入れた。それにしてもすごい四〇元ポケットだよな、これ。しかもリュック漁ればほしいものが出てくるし。魔神さまさまだと思った。
「なぁ、ミコ」
キュイッ、とミコが返事をしてくれた。
「魔神ってどこにいるんだ?」
ミコは俺から下り、キョロキョロと辺りを見回した。そうしてこてんと首を傾げた。ナニコレ、めっちゃあざとかわいいんですけど!
「ここにはいないってことかな」
「そうですね。魔神様は伝承には残っていますが、常にイイズナ様たちと共にいたということ以外はっきりしていません。もしかしたらかつての勇者様が神になられたのかもしれません」
「あー、その可能性もあるかもね。じゃあ呼びかけても返事がないかもね~」
テトンさんの応えに、中川さんはうんうんと頷いた。
「なんで中川さんは返事がないって思うんだ?」
「だって相手は神様でしょう? 時の流れが多分違うから、返事があるとしても十年後とかになりそう」
「……それはそうかも」
そう考えるとロンドさんはまだまだ人間らしいのだなと思えた。
全ての解体を終え、王都へ戻る頃には太陽が西の空へ向かっていた。ここも地球みたいだななんて思ったりした。
王都の門には、まだ王都へ入る人たちが並んでいた。こんなにいっぱいどこから来ているんだろう。国中からか。出る時は簡単だけど入るのが面倒だ。いっぱい狩ってよかった。
「あんまり市場とか見られなかったね」
中川さんは少し残念そうだった。
「明日、戻る前に見ていこうか」
「うん、もう少し見たいわ」
そんなことを言い合いながら王都へ再び入り、ジャンさんの館へ戻ったら、応接間にどっかで見た人が待っていた。こんな見るからに顔色が悪そうなおっさん知り合いにいないはずだが。
「勇者はクイドリの肉を持っていると聞いた。疾く王へ献上せよ」
そのえらそうな物言いに、王と顔を合わせた日、王の側にいた神経質そうなおっさんだったということに気づいた。
「勇者様に命令をするとは何事か! 疾く帰られませい!」
ジャンさんが憤った。
「は、伯爵風情が公爵になんという物言いか!」
顔色の悪いおっさんは公爵だったらしい。中川さんははーっと大仰にため息をついた。
「……神託が届いたのは王族にだけなんだっけ? ってことはこのおじさんは王族じゃないのよね? ちゃんと王族に勇者の扱いについて話は聞いたの? それともおじさんの独断専行?」
「み、南の勇者に答えることではない!」
「へぇ?」
中川さんはにっこりした。目が笑っていない。とても怖い。
「南だろうが北だろうが勇者は勇者でしょ? 勇者の言うことを聞かないと神罰が落ちるんじゃなかったかしら?」
「ひ、ひぃいっ!?」
公爵だというおっさんは腰を抜かした。こんな腰抜けがよくもまぁここまで来られたもんだと感心した。
「で、どうなの? クイドリを私たちが持っているって誰に聞いたわけ?」
中川さんが尋問モードに入っている。
あわれ公爵はほうほうの体でジャンさんの館から逃げていった。
でもこれってもしかして、なんかあるパターンかな? もう面倒だからジャンさん夫妻も抱えて逃げた方がよくね? なんて考えてしまった。
ーーーーー
神罰が落ちるのは兵士を森から下げない場合ですが、中川さんは自分に都合よく言ってみました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます