115.兵士長の奥様はワイルドでした
オオカミは結局山? だか丘の上に向かうことにしたらしい。そこでドラゴンが飛んでくるのを待っていてくれるという。
日数的に見るとあと三日ぐらいだろうか。それまでは王都で散策できそうだった。
ロンドさんはナリーさんの元で暮らすことにしたらしい。こちらも俺たちが呼べば来てくれるそうだ。まぁでもさすがに神様を呼びつけるってのはアレなので、用があったらこちらから訪ねるつもりではいる。さすがに森の安全地帯に着いたら呼ぶようだろうけど。(ロンドさんが使っていた物を確認する為である)
ドラゴンが丘の上に着いたらドラゴンに乗って山へ戻る予定だ。
一応ロンドさんにまた神託をしてもらった。
「森を攻めるのを止めよ。三日以内に止めない場合は神罰を与える。勇者はすでに森にはいない。勇者はイイズナと共にある。勇者が訪ねることあれば、言うことをよく聞くべし」
と。
勇者の証、的なものがイタチなんだろうなと中川さんと納得した。勇者を名乗る偽物って現れそうだしな。それを避ける為に北と南の王族には俺と中川さんの姿を見せたそうだ。王族がもし俺らを見たらちゃんと勇者とわかるように、だって。なんか指名手配されそうな気がしないでもない。
そう中川さんに言ったら、きょとんとされた。
「……敵対されたら蹴散らせばよくない?」
「まぁ、うん……そうだね」
そうできるだけの能力はあるもんな。できれば穏便に済ませたいけど。
ってことで話は終った。
ジャンさんの館で与えられた部屋はやっぱり二人で一部屋だったんだけど、もう疲れていたから二人でバタンキューだった。間にミコともう一匹イタチがいたから間違いなんて起こりようがない。
え? もしかして俺たちずっとこの状態なわけ? 成人しても生殺し状態だけは勘弁してもらいたい。
翌朝、ジャンさんの奥様にもお会いした。
「まぁ……勇者さま、ですの? この恰好のまま王に謁見を? まあまあまあ……なんてこと!」
奥様は華奢な女性だったけど、扇子でバシバシとジャンさんを叩いた。
「私が出かけていたのが悪いのですけれども……妙齢の女性に服も用意しないとは何事ですかっ!?」
と奥様は怒髪天を突く状態だった。つか、勝手にジャンさんを独身かと思っていたけどそうではなかったようだ。
「す、すまん……だが私もこちらへ戻ってきてすぐの状況であった故……」
「伯爵ともあろうお方が言い訳をするとは見苦しい! 許しませぬっ!」
俺と中川さんは呆然とその様子見ていることしかできなかったが、テトンさんは苦笑し、ケイナさんはうんうんと頷いていた。やはりジャンさんがしたことは非常識だったのかもしれない。奥様は執事から鞭を受け取ると更にジャンさんをバシーン! バシーン! と叩き始めた。
……いやー、この世界の女性って強いンダナー……。
なんかジャンさんの顔がちょっと嬉しそうだったのは見なかったことにした。うん、性癖は人それぞれだよな。
「夫がもう……本当に申し訳ないわ。これから服を買いに参りましょう。もちろん夫のお金だから何も気にしなくていいわ」
奥様はひとしきりジャンさんを叩いてから、中川さんの手を取り、ケイナさんを伴って朝食の席を立った。今日の女性陣は服を買いにいくようだ。綺麗な服とか買ってもらえたらいいと思う。俺とテトンさんはひらひらと手を振った。
後に残されたのは床でビクンビクンしているジャンさん、そして俺とテトンさんだった。
「……ヤマダ様はどこか行きたいところや買いたいものはございますか?」
「あー、うん。そうですね。もしヤクの毛が加工できるところがあればいいかなと思いますし、こちらの世界にはどんな食材があるのかとか見てみたいです」
「そうですか……ではまず市場を見てから仕立て屋へ向かってみましょう。ヤマダ様は馬には?」
「乗ったことないです」
「そうですか。馬車だと小回りがきかないんですよね」
「ええと、街中まで行くんでしたら徒歩でも問題ないとは思いますけど」
「それもそうですね。では歩いていきましょうか。……伯父上、大丈夫ですか?」
「う、うむ……なかなかいい鞭さばきであった……」
やっぱりジャンさんはMだったらしい。もしかしたら奥様限定かもしれないけど。
「今日はヤマダ様と共に街を歩いてきますのでよろしくお願いします」
「わかった。かかった経費については立て替えておいてくれ。のちほど全て払おう」
「え……そこまでしていただくほどのことでは……」
俺は苦笑した。
「いや……ヤマダ様とナカガワ様はこの国を救ってくださった恩人だ。何か望みがあれば言ってくれ。できるかぎりのことは叶えよう」
そんな大げさな。元はといえば元の世界に戻れるのかとか俺たちを召喚したのは誰かとかそういうことが知りたかっただけだし。
「じゃあ……してほしいことがあったらお伝えします」
今日王都の中を散策してから考えることにした。
この恰好のままだと市場では浮いてしまうということで、こちらの平均的な服を貸してもらい着替えてみた。
「おお……」
なんつーか、ズボンを紐とベルトで止めてるだけってのがちょっと落ち着かない。長袖シャツにベスト、その上にちょっとした上着を着て、似たような恰好のテトンさんとでかけることにした。
「そういえば女性陣は……」
「今はきっと支度をしている最中でしょうね。言づけだけして出かけましょう」
「はい、じゃあそれでお願いします」
テトンさんに頼んで言づけをしてもらい、そうして俺たちはジャンさんの館から徒歩で出かけたのだった。(ジャンさんは残念ながら仕事である)
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