114.俺の声は届くらしい

 俺たちは一度ナリーさんの家を出た。門の外には門番の青年がいて俺たちの姿を見てはっとしたような顔をした。


「すみません、ちょっとオオカミさんに声をかけてきます。用が済んだら戻ってきますので」

「はっ、承知しました!」


 ビシッ! と敬礼する姿がカッコイイなと思った。

 オオカミは少し離れたところでくつろいでいた。


「オオカミさん、お待たせ」

『如何か』

「話が長くなるんだけどいいかな」

『かまわぬ』


 というので、防音魔法を使って周りから聞こえないようにしてから今日聞いた話をかいつまんでした。そして今夜の夕飯はナリーさんの家でとることを伝えた。


「なんかさー……展開が思ったより早くて、時間余っちゃったね」


 中川さんがそう言って笑んだ。


『そうさのぅ。そなたらはこれからどうするのじゃ?』

「一応……ドラゴンさんが来るまでは王都の散策とかをしようかなって思ってはいるけど」

『ならば我はこの辺りにいることにしよう。ヤマダよ』

「ん?」

『そなたの声はどういうわけかよく届く。なにかあれば呼べ』

「あ、ハイ」


 俺の声になんかあるのかな?


「なんで俺の声が届くんだろう?」

『……かつて昔、聞いていた声と似ているせいかのぅ。おそらくかなりの距離が離れていても届くような気がするのじゃ。不思議じゃがな』

「ふうん? まぁ、それは便利だからいいけどな。じゃあ、なんかあったら呼ぶのでよろしく」

『任された』


 せっかくなのでまたヤクの肉を出して食べてもらった。欲張ってけっこう獲ってきたからな~。あ、そうだ。ヤクの毛でできれば何か作ってもらえないかなと思っていたんだ。王都で仕立て屋さんとかに頼めたら頼んでみよう。

 またオオカミと別れ、ナリーさんの家に戻った。


「すみません、今戻りました」


 中川さんと二人で頭を下げた。

 この家は基本、ナリーさん、侍女とコック、そして門番の青年たち(三人いて交代制)で成り立っているらしい。

 夕飯にはでっかいネズミもどきの肉を提供し、みなに食べてもらうことにした。魔力を増やすのは大事だと思う。それはロンドさんにも確認した。そして、俺たちの魔力がとんでもなく多いということも調べてもらった。


「何がそなたたちの能力をここまで上げたのかはわからぬ。界を渡った者たちはみな魔力が多いとは聞いたがこれほどとは……」


 ロンドさんが唸った。

 そんなこと言われても、俺たちは必死でどうにか生きてきただけだ。もし中川さんに会えないでいたらここまでがんばらなかったとは思うけど、森にいる限り能力はどんどん上がっていっただろう。

 そういえば今日はまだ水筒を開けてなかったなと気づき、中川さんを手招きして開けてみた。

 なんか茶色っぽいどろっとしたものが出てきた。多分匂いもそうだから焼肉のタレなんだろうけど、念の為味見をして確認し、コックにも味見をしてもらった。


「これは……この肉のタレとしてとても合いそうですね」


 ってことで、でっかいネズミもどきの肉をメインとして調理してもらい、それに焼肉のタレを使ってもらったら、みんなおいしいおいしいともりもり食べた。ロンドさんがナリーさんの後ろでうろうろしていたのがちょっと面白かった。


「あらあなた、もしかしてこのお肉が食べたいの?」


 ナリーさんが食べ終えてから気づいたようにロンドさんに声をかけた。ロンドさんはこれ以上ないってぐらい情けない顔をしていた。


「神になったあなたは食事をしても問題はないのかしら?」

「も、問題など欠片ほどもない。私が取り込んだ力はこの世界に貯まっていく故な!」


 ロンドさんが胸を張る。それを中川さんは冷たい目で眺めた。


「……ってことは実体化した時に食べ物をどんどん口の中へ放り込んでいけばいいってことよね?」

「そ、そなたはなんという恐ろしいことを……!」


 ロンドさんが慄いた。


「別の世界から勝手に召喚したくせにそういうこと言っていいんですか?」

「……ぐ……そ、それは……」

「中川さん」


 俺は苦笑して声をかけた。


「はあい」


 中川さんはスッとロンドさんから視線を外した。ロンドさんはまだ新しく神様になったばかりだから中川さんにもやりこめられてくれるけど、俺からしたらけっこう得体が知れない存在である。俺の中でのこういう異世界の神々というのは気まぐれで、虫けらを殺すように人も簡単に殺してしまうような存在だ。だからできればあまり中川さんにはロンドさんを刺激してほしくなかった。


「このソースは初めて味わったものですけど、どうやって作るものなのかしら」


 ナリーさんは焼肉のタレが気に入ったようだった。口に合ってよかった。でも作り方とかはわからない。


「これは俺の世界の味付けで焼肉のタレっていいます。確かいろんな調味料に加え野菜や果物とかを煮込んで作ったようなものなので、こちらの世界ではなかなか作ることは難しいかと思います」

「まぁ……残念ねぇ」


 ナリーさんがにこにこしながらロンドさんを見た。ロンドさんも無理だと首を振った。

 夕食後はオオカミを呼び、王都内にあるジャンさんの館まで運んでもらった。オオカミをタクシー代わりとか、悪いとは思うがちょっと遠かったんだ。(俺と中川さんだけなら走れそうだったけどテトンさんたちはそうもいかない)

 今日は随分と濃い一日だったな。

 そんなことを考えながら寝た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る