111.いろんなことが重なった結果

「……あの品物がロンド氏の実体化に必要だったってこと?」


 中川さんが忌々しそうに呟いた。そう言われてみると、今のでかい人―ロンドさんはもう透けていないように見えた。

 なんかもう話がぽんぽん飛んで付いていけそうもない。ミコが魔神の花嫁ってのもそうだし、だから魔神ってなんだよ? うちのかわいいミコの夫ってどういうことだ? 責任者出てこい!(混乱中)

 ロンドさんはしばらくナリーさんを抱きしめていたが、そう時間も経たないうちにまた透けてしまった。そして形見だろう品はナリーさんが持っていた袋の中に戻ってしまった。


「ううむ……その程度の量では三分しか持たなかったようだ……」


 ウルト〇マンですかアンタ。


「……全く話が見えないので説明していただいてもいいですか? 私たちはジャンさんから『この国がいろいろおかしくなってしまった』原因を聞きたくてこちらへ案内していただきました。どうぞよろしくお願いします」


 中川さんが毅然として言う。本当はそういうのも俺が言わないといけないんじゃ……。


「それについては私から説明しよう」


 ロンドさんが気を取り直したように手を上げた。


「この国がおかしくなってしまったのは兄に子を成す能力がないと知れてからのことだ。最初から私の子を次代の王にすることが決まっていたということもあるだろう。それを知ってから、兄は魔法の研究にのめり込み始めた……」


 先代の王は食べるものによって自分の能力が上がることを把握していたらしい。なので兵士たちにたびたび無茶を言っては強い獣を狩ってこさせ、それを食すようになった。そして魔力量を上げいろいろな魔法を収集しては使い、その魔法の実験の為に南の国の人間を狩ることを考え始めたという。

 当時は南の国と貿易があり、北では採れないものを南から、南の国も南では採れないものを北から輸入していて、それなりにいい関係を築いていたのだという。だが先代の王が南の国の人間に目を付けたことで状況は一変してしまった。南から来る悪い商人にそそのかされ、南から奴隷を輸入するようになってしまい、国庫を圧迫した。

 ロンドさんは先代の王を何度も諫めたそうだ。だが目的を見失ってしまった王は誰の言葉にも耳を貸さなくなった。ロンドさんとナリーさんの子も先代の王に取り上げられ、このままではこの国はだめになってしまうと森の奥を目指したそうである。


「……それで神になったというお話ですけど、随分時間に開きがあるように思うのですが?」


 中川さんが訝し気な顔をした。


「神になるには自然死をせねばならぬ。故に自死は認められん。私は死ぬ思いであの場所へ辿り着き、イイズナ様方の姿を見てあそこが森の中心であることを理解した。そしてあそこでしばらく暮らし、死んだのだ。さすがに森の奥に辿り着くには無傷というわけにはいかなかったからな。そして神になるにもすぐにではなかったようだ。気づいた時には、兄はすでに亡かった」


 神様になるにも時間のロスがある、と。そんな情報知ってもなんの役にも立たないな。


「兄が死に、私たちの息子が王として立った。その息子もまた兄の意志を継ぎ、国庫を圧迫している。私がいた時以上にどうしようもなくなっていたのだ。……だから私は異世界に跳び、勇者となれる者を探すことにした」

「……それで私たちが森の中に召喚されたんですか。でも私まで召喚する必要はなかったのでは?」


 中川さんが首を傾げた。確かにそれもそうだ。中川さんがこちらの世界に一緒にいることは俺にとっては嬉しいことだが、南の国の勇者まで呼ぶことはないだろう。


「……南の国は今主戦派が幅を利かせているのだ。今までは海を越えなければ我が国に来る手段はなかったが、森を越えてでも我が国に攻めてこようとしている。現在の森の意志はどちらの国の兵士も受け入れはしないが、いたずらに南の国の兵士たちを損耗させるわけにもいかぬ。故にそなたも召喚したのだ」


 中川さんは首を傾げた。


「……ってことは南の国は私がこの世界に来る前から森を攻め始めていたってことですか?」

「そんなに頻繁ではなかったがな。だがそなたが来てからは果敢に攻め入ろうとしている。困ったことだ」


 中川さんは険しい顔をした。


「もしかして……勇者を召喚したとかどちらの国にも神託をしたんですか?」

「うむ……勇者の言うことをよく聞くようにと神託をしたのだが……」


 中川さんの目がかつてないほどに冷たくなった。


「へぇ……それって、ロンドさんのせいで森を攻めてません?」

「? 何故だ?」


 全く分かっていないだろうロンドさんを眺め、ナリーさんは大仰にため息をついた。


「あなた。また実体化することはできるかしら?」

「む? できぬことはないが……本日はほんの少しだけだぞ」

「それでもかまいませんわ。お願いします」


 ジャンさんたちが息を飲んだが、ロンドさんは気づいていないようだった。

 ナリーさんがロンドさんの前に立つ。そして透けていた身体が実体化した途端ナリーさんは笑顔でバシーン! とロンドさんの頬を張った。


「……ナ、ナリー?」

「……別世界の若い男女を勝手に召喚したあげく、他国にも騒乱の種を撒くなんて……。思い込みが激しい方だとは知っておりましたが、今回ばかりは許せません!! まず彼らに謝罪なさい! それから神託をなさい。森をいたずらに攻める行いをした咎により、勇者は別世界に帰ったと!!」

「ナ、ナリー……しかし今勇者たちはここに……」

「貴方がそれを実現してしまえばいいのですよ!」


 こ、怖い……。

 せっかくだからもう少しこの世界を回ったりとか、あと、ムコウさん家族の居場所とか……一応ちょっとやりたいことはあるんですが……。

 ナリーさんの剣幕に俺たちは何も口を挟むことはできず、泣きそうになっているロンドさんを眺めることしかできなかった。

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