77.西の安全地帯に送ってもらいました

 すぐ側に湧き水が出ていると、いちいち水汲みにいかなくてもいいから便利だ。

 これだけでも中川さんがヘビの縄張りに落ちてよかったと思う。

 昨日出すのを忘れていたサメもどきの肉を朝食で出したら、ヘビは大口を開けてばくりと食べた。


『うむうむうむうむ! これも良い!』


 気に入ったみたいなのだが俺たちも好きだからそんなにはあげたくない。魚なんてとんと食べてなかったし。

 一応ヤクに比べてどうかと聞いたらヤクほどは能力は上がらないが、シカもどきよりもいいと言っていた。シカもどきとヤクの間ぐらいだということはわかった。今日もヤクの肉をヘビとイタチたちに進呈した。沢山食べてどんどん強くなってほしい。


「そういえば、イタチってこんなにヤクの肉を食べて平気なのか?」


 とミコに聞いたらククククッと鳴かれた。いいらしい。まぁ大勢でここの魔獣を狩っちゃうぐらいだもんな。ヤクの肉でもびくともしないか。納得した。

 ヘビに西の、イタチたちの縄張りに送ってもらう前に、椿の木に設置した屋根を補強することにした。ヘビが上に乗ったりする可能性を考慮してできるだけ頑丈にする。こちらも二重にしたから、間にいれば雨が降っても決して濡れないだろう。イタチたちが快適に過ごせるよう、尽力するつもりである。そういえばイタチの縄張りにヘビ用の板を作っておいたよな。(27話参照)戻ったら状態を確認しようと思った。


『これには乗ってもよいのか?』


 椿の木から吊るした屋根を見てヘビが興味津々で聞いた。


「強度の問題があるので落ちる可能性は高いです。だからできるだけ乗らないようにしてください」

『つまらぬのぅ』


 だいたいアンタ、どこでだって寝れるだろう。

 ますますイタチの縄張りの、ヘビ用に設置した板がどうなっているのか気になった。


「イタチたち専用の屋根ですからね。イタチたちも、一斉には乗らないように! 落ちるかもしれないからな!」


 一応注意はしておいた。今のところ二家族ぐらいしかいないけど気が付いたら増えているんだろうなと思う。やっぱり定期的に来てメンテナンスをするようだろう。


「こういうのって劣化しないとか、壊れないようにする魔法みたいなのってないもんかなー」


 あ、俺の不思議なリュックの中は本気でおかしいと思います。って誰に向かって言ってるんだっつーの。


『……おそらく、あるのではないか。我には使えぬが、ドラゴンとやらなればそういった魔法にも精通しておろう』


 中川さんと共にバッとヘビを見てしまった。なんだ、ヘビには使えないのかーと思ったが、けっこう難しい魔法なのかもしれない。だから俺のリュックはどうなってるんだよ。


「スクリって、魔法使えないの?」

『使い方がわからぬ。魔力とやらはそれなりにあるようだが、我は魔法を持っておらぬし、必要とも思わぬ』

「あー……そういうこと……」


 中川さんが納得したように頷いた。


「確かに……」


 食べ溜めみたいなことができるから保存も必要なさそうだ。能力もかなり上がっているからちょっとやそっとじゃ負けるってこともないだろうし……急ぐこともないだろうしな。

 能力が上がった時点でチート上等か。


「スクリは森から出ようとかは思ったことはないの?」

『そんなことを考えたのはかなり昔のことじゃ。今はここでのんびり暮らしていければよい』

「ふうん……そのわりには私かなりほっておかれたと思うけど?」


 中川さんがヘビに冷たい目を向けた。


『そ、それは……じゃな……。悪かった』

「いいわよ? スクリにはスクリの生活があるんだし? それを邪魔しちゃいけないわよね?」

『い、いや……その……じゃなぁ……』


 狼狽えているヘビというのも面白いとは思った。


「ま、いいわ。私がスクリのおかげで生き延びたから山田君に会えたんだもの」

「そうだね。スクリ、中川さんと一緒にいてくれてありがとう」


 素直にそう言ったら、中川さんの顔が途端に赤くなった。


『うむ……我に感謝するとよいぞ!』


 ホント、面白いヘビだよなぁ。俺は感謝の気持ちで、ヤクの肉の包みをまたヘビに渡したのだった。

 その後、ヘビに掴まって西の、イタチの縄張りに送ってもらった。ヘビはもう今日は動かないと決めたらしく、イタチの縄張りでとぐろを巻いた。


「ただいまー。異常なかったかー?」


 イタチたちが椿の木の上から顔を出した。おー、今日もいっぱいいるなー。黄色い点が集まってわちゃわちゃしているのがわかる。一応毎回確認はしているのだ。

 中川さんもミコも青いままだ。そのことにすごく安心する。

 でももしかしたらその色が変わることがないとも限らないので、自分に驕らないでいこうと気持ちを新たにした。

 ミコが俺の上着から顔を出し、キュイッと鳴いた。そして俺の首に巻き付く。イタチたちは木の上から下りてきて、俺たちの前に来た。ん? なんかあげればいいのかな?


「ミコ、これは……」


 ミコが俺の首からするりと下りて、イタチたちの前でうろうろと動き始めた。その間もキュッ、というような声を何度も発している。なんだろうと首を傾げたら、中川さんのところに一匹が、俺のところには五匹が来た。

 え、これって……。


「ミコ、もしかして彼らも一緒に行ってくれるのか?」


 ククククッとミコが声を発した。


「ありがとう、ミコ」


 中川さんは「久しぶりね~」と言ってイタチを抱きしめていた。イタチも中川さんにすりすりしている。

 ミコがまた俺の首に戻ると、イタチたちは解散した。ヘビは全然気にしないで寝ていた。

 テトンさんたちをこちらに連れてくるにはもう少しかかるかもしれないが、最低限の準備は整ったと思う。それからは屋根の確認をしたり、壁を作ったり、攻めてきた魔獣を倒したりしてまったり過ごしたのだった。



ーーーーー

まったり、とは(笑)

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