76.能力が一番上がる食べ物ってなんだろう?
ヘビは食べ溜めみたいなことができるらしく、シカもどきの肉も相当食べていた。見ているだけで食傷気味だ。
あのシカもどき、ヘラジカより更にでかいんではないだろうか。体長はゆうに4mぐらいあるし、角は立派すぎる。あんなに枝分かれしてるのに引っかかったりしないんだろうか。木もなぎ倒していくのかな。やっぱある程度の能力はないと森の奥地で暮らすのはたいへんそうである。ヤクも相当でかいと思ったけど森のシカもどきにはかなわない。
ヘビがゆっくりと食事を終えたところで、
「スクリ、力とか、強くなってる気はする?」
中川さんも気になっていたらしくヘビに聞いた。ヘビはゆっくりと頷いた。
『うむ。先ほどの肉は素晴らしかったぞ。やはり山の上の獣は違うのぅ』
ヘビは満足そうに目を細めた。
『力が漲るのがよくわかる』
「それならよかったわ」
中川さんはほっとしたように笑んだ。やはりヤクの肉は別格らしい。
『先ほどの獣の肉じゃが』
「うん」
『そなたたちにはしっかり能力が定着しているようだからよいが、人にはそなに分け与えるでないぞ』
「どうして?」
中川さんは首を傾げた。
『そなたたちはこの森の獣をその実力でもって倒し食べているからよいが、能力の低い者が強すぎる獣の肉を食べ続けると身体が壊れてしまう可能性があるのじゃ』
「えええっ!?」
中川さんと共に青ざめた。じゃあテトンさんたちにあげたのはまずかったのではないだろうか。
「そ、それはどれぐらいの期間食べ続けると……おかしくなるものなのかしら?」
おそるおそる中川さんが聞く。ヘビは首をもたげ、遠くを見るようにした。
『そうじゃのう……あの獣の肉はそもそもそう簡単に手に入るものではなかろうて。かつて聞いた話じゃと、能力を上げる為に森の獣の肉を二月ほど食べ続けた金持ちがいたそうじゃ』
この獣、というのはシカもどきのことである。
「……その金持ちはどうなったんだ?」
『身体の変化に耐えられず、死んだそうじゃ』
「身体の変化って……」
『能力が上がるじゃろう? その度に身体の感覚を調整できればいいが、元から身体を動かすことをしない者が強すぎる力を手に入れたらどうなる? 加減をできぬが故に……』
想像したくない。
「うわぁ……ってことは、テトンさんたちにはあんまりあげない方がいいんだよね……」
食べさせたのは三日ぐらいだから大丈夫だと思いたい。能力の上り幅がどうなのかわからないので、ヘビにゴートの肉をあげたりしていろいろ聞いてみた。
曰く、ゴートの肉は家畜の肉よりちょっと能力が上がるぐらいで、クイドリはもっと上がる。でも程度をどう表現したらいいかわからないので聞いたかんじではこうだった。
家畜の肉<<ゴート<<<森と大地の際で見かけた小さめの獣たち<<<クイドリ<<<<<アナグマもどき<<<イノシシもどき<<<シカもどき|越えられない壁|ヤク
あくまでイメージなのでいずれ調整は必要だろうが、もうテトンさんたちにヤクの肉は食べさせない方向で一致した。自分たちで倒せるぐらいになれば食べてもいいそうだが、まず自力でヤクが生息する場所まで辿り着けないこと。辿り着けたとしても環境の変化により狩れるかと言われるとあやしいことが上げられた。確かに、俺たちでも最初行った時は帰りに息切れがしてたもんな。
もっと早く教えてほしかったと思った。
『……そなたたちがあの獣を狩ってくるなど、誰が想定するというのだ?』
それもそうだった。
『我はおいしくいただけたからよいがのぅ』
ヘビは上機嫌だった。ゴートもクイドリの肉もあげたしな。もちろんこちらにいるイタチたちにもおすそ分けした。
しっかしそんなにヤクの肉がすごいものだとは知らなかった。なにせ俺たちだと醤油鉄砲で一発なので。つくづく醤油はすげえと思う。(なんか違う)
魔獣の弱点が醤油とか焼肉のタレだなんて誰が思うのか。塩は岩塩だの、海から取ってきてどうにかにがりを除去して作るだの(方法は知らない)すれば手に入ると思うが、醤油を作るのはたいへんそうだと思う。大豆に塩? を足すのとあとなんか小麦粉が少し入ってるとか聞いたことがあるけど、そもそも醤油の作り方なんか考えたこともない。焼肉のタレとかもっとわからん。
ふと思う。
ドラゴンて、ヤクの肉食い放題だよな? ってことは相当強いんじゃないか?
俺はすぐ側で毛づくろいをしているミコを見た。
でも、ドラゴンもミコを恐れてなかったっけ?
どういうことなのか聞いて、答えてもらえるものなのだろうか。ドラゴンはミコへの畏怖を必死で抑えていたみたいだったけど。
湧き水もあるし、今夜はここで休むことにした。明日になったらヘビがイタチの縄張りまで送ってくれるらしい。
そういえばまだ今日は水筒を開けていなかった。相変わらず開けようとすると中川さんとミコが至近距離までくる。今日はごま油だった。夜、肉に付けて焼いて食おうと思った。
竹を何本か切って紐で繋げ、椿の木の枝に引っかけて簡易的な屋根を作った。西の家の屋根ほど大きくはないが、この下にいる分には雨が降ってもほとんど濡れないだろう。屋根の下にビニールシートを広げ(もちろんその前に地面は燻してある)、ダンボールを敷いてその上に寝る。ずっと使ってるけどこのビニールシート本当に頑丈だよな。ダンボールは朝になったら燃やしたりしてるからその都度新品を使ってる形だけど、このビニールシートはずっと使っている。中川さんの寝袋もそうだ。洗浄魔法のおかげでかなり衛生的に過ごせていることが嬉しい。
魔法ってすごいなと思いながら寝た。
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