66.朝になったから交渉してみる
火はつけたままにしておいたせいか、目を覚ました時真っ暗ということはなかった。
ただ洞窟の中なので、起きた時だいたいの時間がわからないのがつらい。それでもここはだだっ広いことと寒いことを除けば、それなりに快適なのかもしれなかった。
俺が起きたことでミコも起きたようで、俺の上着の内ポケットからするりと出てきた。
「おはよう、ミコ。おなかすいたか? 肉がいいか? サバ缶食べるか?」
なんかいろいろバタバタしていて、まだミコがなんで神の使いと呼ばれたのかも聞いていなかった。つってもここ数日が濃すぎただけで麓の村に着いたのもつい三日前のことだったんだよな。
「……山田君、おはよ……」
「何時かわからないのがなぁ……」
『もう夜は明けておるぞ』
オオカミが教えてくれた。起きて洞窟の外を見てきてくれたらしい。
「すごく明るいですか?」
『太陽は上ってきておる』
「そうですか。ありがとうございます」
素直に礼を言った。
オオカミは鷹揚に頷き、こちらをじっと見た。
はいはい、ごはんですね。確かにオオカミの分もリュックには入ってますよー。俺はごそごそとリュックを漁り、ヤクの肉の包みを出してオオカミの前に置いた。
『我の分はないのか』
「? ドラゴンさんの分は全部お渡ししましたよね」
『あんなもの全て食べ終えてしまったに決まっておろうが!』
マジか。ヤクの肉って相当ボリュームあるぞ。あれを二日で食べ切るなんていったらどんだけエンゲル係数が高いのかと心配になってしまった。(後から聞いたら食べられる時に一気に食べるので何日か食べなくても大丈夫だと教えてくれた)
「ドラゴンさん、昨夜お渡ししたゴートの肉はどうなさったんですか?」
中川さんが目を丸くして聞いた。
『おお! そうじゃそうじゃ、ゴートの肉があったではないか!』
ドラゴンがドスドスとどこかへ駆けて行った。おそらく宝物を保管している穴に向かったのかもしれなかった。
あ、そうだ。
周りを見回すとテトンさんたちも起き出したようだった。
「おはようございます……」
そう言いながらもやっぱり少し寒そうである。これは早急に防寒具ないし、この洞窟の中に仕切りのようなものを作った方がいいと思った。
「……さ、寒い……」
ケイナさんが震えながら起きたので、その近くにも火を出した。洞窟の中の寒さがどうにもならないなら、洞窟の外に家を建てた方がいいかもしれない。とりあえず朝飯にすることにした。俺のリュックから粟の入ったものと、野菜の入った麻袋を出して朝ごはんにした。粟粥に野菜と、ヤクの肉を入れた特製粥だ。味付けは塩と少量のめんつゆでしてある。みなうまいうまいと沢山食べてくれた。よかったよかった。
「……兵士たちに追い出されてから、こんなうまい飯を食べたのは初めてだ!」
ムコウさんがおいおい泣きながら言った。大した料理ではないと思うが、腹いっぱい気兼ねなく食べられたことがよかったようだった。子どもも喜んでおかわりをして食べていた。うんうん、育ちざかりだもんな。食え食えー!
「……この間から……こんなによくしていただいて、なんとお礼を言ったらいいか……」
テトンさんが申し訳なさそうに呟いた。
「俺たちはこちらの世界の常識等知りません。正直何が食べられて、何が食べられないのかも知らない。知識や情報が今俺たちにとっては一番ほしいものなんです。だから、テトンさんたちの知っている範囲でかまわないのでそういった情報を提供していただけると助かります」
「そうですよ。私たちは獣は狩れるかもしれないけど、この世界に四季があるかどうかも知りません。どうしてオオカミさんやドラゴンさんが私たちと同じ言葉をしゃべっているのかも理解できないんです」
中川さんが補足してくれた。
日が上っているということなので、朝食を食べ終えたら洞窟の外へ出ることにした。
洞窟から出る前は目を閉じ、瞼に光を感じてから徐々に徐々に目を開けていくようにする。そうしないと強い光で目が潰れてしまうかもしれないからだ。
オオカミから下りて、塩のないところまで移動した。
「ドラゴンさん、頼みがあるんだけど、いいかな?」
『……申してみよ』
ちょっとだけ緊張した。取引材料はいくらでもあるのだから緊張する必要などはないはずなんだけど。
「ここにいる五人を、ここで預かってもらうことはできないか?」
『預かるとはどういうことだ?』
ドラゴンが首を傾げた。
「この人たちは森の側で住んでた。だから本当は森の側に戻りたいんだと思う」
『うむ』
「だけど森の側にはそれを邪魔する人たちがいる。だからといって麓の村に身を寄せていても生活が苦しくなるばかりだ。だからとりあえず村から出したんだけど……最終的にはもっと実力をつけて森に一緒に住んでほしいと思っているんだ。だからそれまでの間、この人たちを守ってほしい」
『……食料も何もかも我は提供などせぬぞ』
「彼らの当座の食料は準備してある。それと……」
『まだ何かあるのか?』
中川さんに目配せし、俺はリュックから水晶の入った包みを出した。
「これってさ、ドラゴンさんにとっては宝石に見えるかな?」
『どれじゃ』
「これなんだけど」
手の中の石たちを見せたら、ドラゴンの目の色が変わった。
『こ、ここここれは……!』
どうやらお気に召したようだった。
『こ、この石を我にくれるというのか!?』
「これはこちらの女性が採ってきた石だから、ただであげるわけにはいかない」
『……何が望みだ?』
「この人たちを守ってほしいんだよ。それとここの塩をドラゴンさんの許す範囲で提供してあげてほしい。どうかな?」
ドラゴンは少し考えるようなそぶりを見せた。でも目はこちらの石に釘付けである。
『……まぁよい。話せ』
本当にドラゴンは光物に弱いみたいだった。
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