67.住まわせてもらえることになりました
一言で守る、と言われても具体的にどうしたらいいのかまではわからないだろう。
だから安請け合いをしないドラゴンには好感が持てた。
まず洞窟の中に関しては、完全にドラゴンの縄張りなので横穴へ自分から突っ込んでいかなければ安全なようだ。それについては子どもによく言い聞かせなければならないだろう。
また、洞窟の外も他の生き物が塩田の周りに入ってくることもないようだ。この山で主に脅威となるのはゴートとヤクぐらいで、それ以外の生き物は基本攻めてくることはない。ただ生息域という話であればヤクは遥か上方に住んでいるし、ゴートもここまでは上がってこないようだ。
では何から守ればいいのかといえば、その相手は人である。
情けない話だが、麓の村の人間はここに塩田があることを知っている。すぐに村の人間が来ることはないかもしれないが、ここに兵士がやってくる可能性がないとはいえなかった。
考えられることをいろいろ中川さんと話してみた。
兵士が再び村の付近までくることは間違いない。ただ兵士がゴートを狩って行くだけならいいが、村で略奪とかを始めるようだと厄介だ。そうなれば村人たちは俺たちやテトンさんたちを恨みに思うだろう。(何故兵士を帰したのかとかいろいろな考えで)
俺がここの塩を提示したことを村長たちは覚えている。そうなるとここに俺たちがいることを想定して、村人がここまで兵士を誘導する恐れもあった。
『……人間というのは厄介じゃのう』
ドラゴンはきょとんとした顔で言った。
ここの塩を見せたり交換材料にしてしまった俺たちにも落ち度はあるが、それはドラゴンにとってどうということでもないようだった。塩は俺たちに譲ったものだから、それを俺たちがどう使おうが俺たちの自由だという話である。
それに、人間の兵士が束でかかってきたとしてもドラゴンにはそれを退けられるだけの力があった。
『申し訳ないと思うのならばまたヤクでも獲ってくるがいい』
「あそこまで連れて行ってもらえるのでしたらいくらでも狩りますけど」
どうせオオカミだって食べるし、ミコも食べるのだ。特に彼らは内臓を好んで食べるから、獣をその都度狩るのは全くかまわなかった。
「でも……あんまり獲ったらいなくなりませんか?」
心配なのはそこである。
『ゴートは知らぬが、ヤクにその心配は不要じゃ。アイツらは数が少なくなると途端に子作りに励みだすのよ。その為に姿を消すからすぐにわかる。その間は別の山へ狩りに向かえばいいだけじゃ』
生き物の生存本能的ななにかなのだろうか。よくできているなと感心した。
ここから東に向かって四座はドラゴンの縄張りである。一座一座がでかいから獣がいなくなるまで獲り尽くすなんてことはできないようだった。
「失礼ですが……ゴートは発情の頻度が高いのですぐに子を成します。その為減らすことは難しいです」
テトンさんが教えてくれた。なるほどと思った。それに動きは素早いし、麓の村人程度の腕ではゴートはなかなか狩れない。必然的にゴートは増えているのだろうと思われた。
「じゃあゴートを自分たちで狩れるようになる為の練習をする必要はありそうですね」
「はい。恥ずかしいことですが、よろしくお願いします」
俺が交換したりしてきた食べ物でそれなりにもつだろうが、森に連れて行くことを考えるとある程度の実力がなければ難しい。森の獣に攻撃したはいいが、突進されて死んだなんていうのはしゃれにならないからである。ヤクを食べたことで彼らの能力はそれなりに上がっていることは間違いなかった。
ただゴートを狩れるほどの能力があるとは言いがたい。今日はヤクの肉を食べさせて、少しでも能力を上げてもらうことにしよう。ドーピングと言うなかれ。食べないと能力はどちらにせよ上がらないようなのだ。
でも、と思う。この、食べたものによって能力が変わっていくというのはこの世界の人間は知っていることなのだろうかと。
少なくとも今森の近くにいる兵士たちはわかっているはずだ。それをこの国の王が知っているのかどうかが問題だと思った。
またいろいろ思考が走ってしまった。いけないいけない。
「人間たちから彼らを守っていただくことはできそうですか? もちろん他の脅威になるような生き物が攻めてきた時も同様ですが」
ドラゴンに改めて聞くと、彼は鷹揚に頷いた。
『問題ない。我はここにいる』
テトンさんたちはここに住むことが可能になり、ドラゴンにも守ってもらえることになった。ドラゴンは水晶をもらってほくほくである。ケイナさんに、この辺りでも水晶が獲れるのかどうか聞いているぐらいだった。
住む許可を取ったならば、次は拠点づくりが必要だ。洞窟の中に住むのならば寒さ対策をどうにかしなければならない。ただそれは洞窟の外でも似たようなものではあった。なにせここは標高がそれなりに高いのだ。風は強いし、建物を作るのもたいへんである。でも、太陽の光が当たるか当たらないかというのは大きいと思った。
「どこに住まわれますか? 洞窟の中か、外かって話ですけど」
「できれば外がいいわ。中は寒すぎるもの」
女性陣が言う。女性は冷え性になる人が多いって聞くもんな。確かに冷えは大敵かもしれない。水は洞窟の中で汲めるが、住むのはちょっとということらしかった。そうなると家を建てる必要がある。作るならば洞窟のすぐ近くにということになった。
「ここまで連れてきていただき、本当にありがとうございました。私たちにできることがあればなんでもおっしゃってください」
テトンさんたちが深々と頭を下げた。そんな頭を下げてもらうようなことでもないので上げてもらう。
改めて、俺たちはとにかくこの世界の情報や知識がほしいから、それと引き換えだということは強調した。
それ繋がりで、
「すいません。テトンさんはうちのミコを神の使いとおっしゃられましたが、それはどういうことなんですか?」
と、ようやく聞くことができた。
「……イイズナ様は我が国が祀っている魔神の伴侶と言われております」
「へえ」
魔神とか初めて聞いた。こっちの国の神様は魔神というらしい。
「魔神の伴侶の眷属だから神の使いということですか」
「はい。そのお姿は今ではあまり見ることはありません。かつて我々の国ではもっと多くのイイズナ様を見ることができましたが、現在の王が即位してからあまりその姿を見られなくなりました。なので、現在の王には王たる資質がないのではないかとも言われています」
「ほう……そうなんですか」
中川さんを見ると、彼女は軽く頷いた。やはり俺たちは人為的に召喚されてきたのかもしれない。
ミコは当然ながら我関せずで、俺の首に巻きついたままあくびをしている。テトンさんの話が全てなら、イイズナが神の使いというのはあまり気にしなくてもよさそうだった。
ただ、現在の王が即位してから姿を見ないというのは気になるところだ。
イイズナたちにいったい何が起きたのか。そこは探る必要がありそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます