46.わあ、手刀とかなにげにファンタジーだね!

 林に戻ったらまた例の鳥が襲ってきたので危なげなく倒した。確かクイドリとかいってたっけ。

 鳥、鳥いってんのもあれだから名前ぐらい覚えよう。

 今回も襲ってきたのは四羽だった。鳥の肉のストックばかり増えていくな。ヘビへのいいお土産になるだろうか。

 それにしてもこのリュック、いくら荷物を入れても出しても重さが変わらないのはどうしてだろう。四次元ポ〇ットかなんかなのかと思ってしまう。

 いつも通り鳥を解体してから、あの村には金物屋みたいなのはあったのだろうかと今頃になって考えた。鉈はあるけど包丁っぽいのがほしいよな、いいかげん。中川さんの不思議な袋からボーナスみたいな形で出てきたノコギリは俺が預かっている。そういう作業をするのは主に俺だし。カランビットナイフは中川さんが持っているが、俺用が十徳ナイフじゃしまらない。そういえば全然使ってないけど安全地帯に剣が置きっぱなしだった。今の俺の身体能力なら持てるだろうか。

 それよりもまずは聞いたことを整理しなくてはならない。


「ミコが神の使いって何? 俺全く聞いてないんだけど」


 あそこで聞いてきてもよかったんだが、そんな雰囲気じゃなかったから聞かなかった。今は夕飯の後である。粟粥も塩を入れれば悪くはなかったがやっぱり米が好きだ。でも粟って、頼めばもらえたりするかな。塩と交換でもいいんだが。


『……人間たちが勝手に言っているだけだろう。我は知らぬ』


 オオカミが首を振って答えた。うわ、使えねえ。


「ミコ、ミコは神の使いとか呼ばれてるみたいだけど知ってる?」


 鳥の肉を食べ終えたミコの口を拭きながら、ミコ本人に聞いてみたが、ミコも首を傾げるだけだった。


「テトンさんだっけ? あの人に聞いた方が早いんじゃないかな?」


 中川さんが言うことももっともだった。あと一つ気になることがあったので聞いてみる。


「オオカミさんは、ドラゴンって知ってる?」

『ドラゴン? ああ、あの飛びトカゲか。それがどうした?』


 飛びトカゲて。

 飛び、ってことは羽でもあんのかな。


「いや、なんか塩があるところにいるって聞いてさ。それであそこの村人が塩を採りにいけないみたいなんだよな」

『塩がなんだかよくわからぬが、久しぶりに飛びトカゲの様子でも見に行くか』

「知り合いなのか?」

『知ってはいる』


 どうも魔獣の類ではないようだった。中川さんは目をキラキラさせた。


「私もドラゴンに会いたい! ……けどいきなり攻撃されたりしない?」

『鳥を持っていけばよかろう』

「この鳥、ドラゴンも食べるのか?」

『食べる』


 ならばお土産に持って行こうと思った。

 手土産は大事だ。

 野宿はたいへんだし身体も痛くなるが、あの村に滞在するよりはましだった。

 塩の件についてはいいのだ。冷静になってみると塩は貴重だから俺たちの食べ物に足すこともできなかったのだろう。そこまではいい。

 問題はドラゴンがいるから塩が採れないと俺たちに言ったことだ。あれはあきらかに俺たちがドラゴンを倒す、ないし追い払うことを期待しての発言だった。

 あれでカチンときたのだ。

 俺たちは確かにいろいろ便利な道具も持っているし、調味料が出てくる変なありがたい水筒も持っている。でも身体能力は元々ここの人たちより劣っていたはずだ。どうにか魔獣を倒し、リバースしながら解体し、魔獣の肉を食うことで身体能力が上がったにすぎない。全く苦労をしていないわけではないのだ。

 だからそう、その苦労にただ乗りされるような嫌な気分になったのだ。

 そっか、と腹が立った理由がわかってすっきりした。


「オオカミさん、話戻るんだけどさ。山で狩ったゴートだっけ? 今さっき食ったこの肉もなんか力が上がったりすんの?」

『そうじゃな……能力が上がるのはわかるが微々たるものだ。もっと山の上の方にいる獣を狩れば上がるじゃろうが、あれではほとんど上がらぬ』

「そういうのってどうやったらわかるんだ?」


 オオカミやヘビにはわかるようなのだが俺にはさっぱりわからん。


『わかるだけだ』


 つまり能力を測る方法はわからないってことだろう。


「あのゴートって獣、それなりに強いんじゃないのか?」

『今のそなたらであれば角を掴んで抑え込むことも可能じゃろうて』

「えええ!?」


 中川さんが驚愕の声を上げた。


「私たち、どれだけ力が強くなってるワケ?」


 中川さんは両手を開いてじっと見つめた。


『力加減は無意識にできているようじゃし、力を籠めれば大概のことはできるじゃろう』

「ってことは……この木の枝とかも折ろうと思えば折れるってこと?」

『そこらへんの枝ぐらいなら余裕じゃろう』

「ちょっとやってみる!」


 今度は俺が驚いた。中川さんはなかなかにフットワークが軽い。しっかりした木の枝を握って確認し、下へ向かって折り取るように力をかけた。

 バキバキバキバキ、バリーンッ!


「うっそ……。うーん……手刀とかももしかしてできるのかな?」


 見事に枝が折れた。だがそれだけでは納得できなかったらしい。中川さんは他の木の枝に少し斜めになるように手の端を当てると、


「せいっ!」


 と声を上げて……。

 バキーン!


「マジか……」


 手刀でも木の枝を折ってしまった。直径10cmはありそうな木の枝である。


「これって……小屋とか作るのに役に立つかな!」


 中川さんが嬉しそうに言う。


「うん、役に立つと思うよ……」


 喜んでいるみたいだからいいか。俺も試しに近くの太い枝に手刀の要領で手の端を当て、「せいっ!」と掛け声を上げて振り下ろしてみた。

 バキバキッ!

 と音がした。


「マジか」


 いつのまにか怪力になっていたらしい。ちなみに手にダメージは全くなかった。これ、補助魔法使ったらなんでもできるんじゃね? と冷汗をかいた。



ーーーーー

いつのまにか人間離れしていたよ! わぁい!

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