47.起き抜けの狩りはハードだと思う

 また情報量が多すぎたのでそのまますぐに寝た。今日は洗浄魔法を覚えたので楽勝だった。服もキレイになるみたいだし万々歳である。ミコにもかけてやったらしきりに毛づくろいをしていた。匂いがなくなってしまって落ち着かないみたいだった。悪いことをしたなと思った。

 そういえば動物ってあんまり洗っちゃいけないんだったか? 洗浄魔法って何がどうなってるんだろうな?

 翌朝である。さすがに何日も野宿はきつい。ここにしばらく住むなら寝床を作りたいと思ってしまう。身体がバキバキだ。ストレッチをしていたら鳥が飛んできたので飛ぶ軌道を予測して醤油鉄砲を打った。


「ギャアアアアアッッ!」


 ちょうど目に当たったらしく鳥はすぐ近くを飛んでいたけど俺たちを避けて落ちた。向かってきたら上着で殴る予定だった。

 当たらなくてよかったなと思った。マップを確認したらもう一つ赤い点が近づいてきている。


「オオカミさん!」

『任せよ!』


 オオカミさんは派手に飛び上がってもう一羽に噛みついた。さすがにそれ以上の襲撃はなかった。


「……クイドリの縄張りって話ですけど、この林の中って都合何羽ぐらいいるんですかね?」


 この調子で狩ってたら狩りつくしてしまいそうである。


『数などわかるわけがなかろう』


 一蹴された。まぁそうだよな。狩りつくしたところでオオカミには関係ないだろうし。

 つか、絶滅させただのなんだのっていちいち気にするのは人間だけかもしれない。でもみんながみんな気にしてるわけじゃないから絶滅しちゃうのは絶滅しちゃうんだけどさ。


「クイドリってこの林以外にもいるんですか?」

『こ奴らは森では暮らしていけぬ。林を見つけて住み着くのだ。林はいたるところにあるからのぅ。じゃが、竹林にだけは近づかぬ。不思議なものじゃ』


 竹には魔除けの効果があるとかそういう話なんだろうか。


「そしたら昨日のゴートも竹には近づかないのかな」

『知らぬな』


 だよな。つーか、竹を避けるんだったら周りに竹を植えればいいんじゃないか? でも竹って高山には生えないんだっけ? 笹はどうなんだろうな?


「んー……なんかうるさかったけどー……っきゃーーー!?」


 あ、鳥を解体しないとな。忘れてた。

 中川さんは起きていきなり鳥の死骸を見たらしい。悪いと思ったので湯を沸かしてお茶を淹れた。

 このお茶は中川さんが大事に持っていた緑茶のティーバッグの最後の一個である。それを俺のリュックに入れて出してをやっているので緑茶は飲めるようになっている。


「山田君のリュックがそんなに高性能だって知ってたら、紅茶のティーバッグも残しておいたのに!」


 と中川さんが地団太踏んで悔しがっていたのを思い出した。そもそも会う前に飲んじゃったみたいだけど。確かにそれは残念だった。


「……緑茶はほっとするねー」


 中川さんがお茶を飲んでいる間に鳥の羽を毟り、解体した。洗浄魔法のおかげでいちいち水を出して洗わなくてよくなったのが助かる。森の魔獣の肉程度で魔法が教われるならもっと狩ってきてもいいんじゃないかとまで思ってしまった。面倒だから狩らないけど。

 オオカミが狩った分も解体し、俺たちの分は焼いて食べた。お弁当箱の中のおにぎりをごはんにして。ミコは朝から鳥の内臓が食べられてご機嫌だ。さすがに最近食べる物が多いので中川さんに茹で卵も半分進呈することにした。今まであげなかったことを怒られるかなと思いながら、おそるおそる卵を半分に切って渡したら中川さんの目の色が変わった。


「え? 卵まであったの!?」

「ごめん。普段は俺が一個食べてた」

「あ、うん。それはいいんじゃない? だって山田君のお弁当でしょ?」


 中川さんはあっけらかんと言った。俺は目を丸くして彼女を見た。ちょっと塩を出して、そこに卵をつけて食べる中川さんは本当に嬉しそうだった。こんなことならもっと早く半分こにしてあげればよかったと思った。


「……私さー、山田君には本当に感謝してるんだよ? 私だけだったらここまで来られなかったもの。スクリは確かに頼りになるけどああだし……山田君が見つけてくれなかったら本当に寂しくて野たれ死んでいたかもしれない」

「そんな……俺だってスクリやオオカミさんにはおんぶにだっこだし……」

「オオカミさんのところに行くようにスクリに言ったのも山田君じゃない。だから、私にできることならなんでも言ってね。山田君の役に立てるよう、がんばるから!」

「え? いや、そんな……」


 俺は狼狽えた。こういう場面で男を見せられたらよかったのかもしれないが、残念ながら俺はヘタレのようだった。


「じゃ、じゃあ……その時はよろしく……」


 そう返すことしかできなくて、何故かミコに尾でぺしぺし叩かれた。

 しょうがねーだろ。俺は中川さんが好きなんだよ。

 まだ自分たちのことも、この世界のこともなんにもわかんないけどな。でももし、元の世界に帰れるとか、帰れないとかわかったら……中川さんに告白しようと思っている。

 え? なになにしたらは死亡フラグだって? ほっとけ。

 すでに毎日が死地でサバイバルだわ。

 肉とおにぎり、そして笹の葉のスープを飲んでそろそろ出かけることにした。(笹の葉はビニール袋に入れて俺のリュックに入れてある)今日の目的はドラゴンに会うことだ。攻撃されそうになったら全力で逃げるようにオオカミには伝えてある。ミコに上着の内ポケットに入ってもらい、オオカミさんの背にしがみついた。なんとかライダーとかだと上体を起こして乗るんだろうけど、そんなことしたら風圧で死にそうになる。それぐらいオオカミの走る速度は速いのだ。できるだけ空気抵抗をなくした状態で伏せているのが一番である。


『掴まったか』

「いいぞ」

「いいよ~」


 オオカミの確認をする声に返事をすると、ぐん! と身体を引っ張られるような感覚があった。Gがかかったようで、本当にしっかりしがみついてないと振り落とされそうである。そういえば鳥を食べた時の能力値について聞くのを忘れていた。あとで覚えていたら聞いてみようと思った。

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