43.村の人に話を聞くのはたいへんだ

 村長の奥さんと思しき女性が魔法でキレイにした手で新聞紙を剥き、肉を見て目を輝かせた。


「まぁあ! なんておいしそうな魔獣の肉でしょう! これは森の魔獣ですね!?」

「は、はい……」


 中川さんが両手を握られて困惑していた。


「貴方がたが狩ってきたの? 素晴らしいわ。これだけの量があれば村中にいきわたるでしょう!」

「えええ?」


 中川さんは驚いたような声を出した。中川さんの気持ちはわかるが、俺は彼女に目配せした。彼女もそれに気づいてくれたのかすぐに黙った。

 ここに案内してくれた人も俺たちを拝んでいる。いつまで経っても話ができない。


「あのぅ、すみません。肉はもう差し上げたものなので好きにしていただいていいのですが、教えていただきたいことがあるんです。貴方は、村長さんですよね?」

「ああ、はい。私がこの村の村長だ。これは私の妻。そしてこの男は森の側で暮らしていたというテトンだ」


 そうだ。テトンと名乗っていた。名前をなかなか覚えられなくて困る。


「僕は山田といいます。彼女は中川です。森にいました。だいたい……100日ぐらい前にこの世界に来ました」


 一か月とかそういう単位がこちらでも使えるかどうかわからなかったので日にちで言ってみた。多分もう100日以上は経っている気がする。もしかしたらもう四か月ぐらい経っているかもしれなかった。


「100日、というとだいたい三か月以上前ぐらいに来たのか。それで聞きたいこととは?」

「僕たちはオオカミやヘビ、そして……」


 トントンと内ポケットの辺りを叩く。ミコがなーに? と言うように内ポケットから顔を出し、するりと俺の首に巻き付いた。


「ひいぃっ!?」


 ミコの姿を見てか、テトンさんが盛大に後ずさった。村長とその奥さんの腰も引けている。


「このイタチと暮らしてきたのですが……」

「そ、それはただのイタチではありません! 神の使いのイイズナ様ですっ!」


 テトンが悲鳴を上げるように言った。

 え? 神の使い?

 俺はいぶかしげな顔をしたと思う。


「ミコ? お前神の使いなんてたいそうなものだったのか?」


 ミコに聞くと、ミコは何言ってるの? と言うように尻尾で俺の肩をぺしぺし叩いた。なんだこのエリマキかわいいじゃないか。


「イ、イイズナ様の主ということなのか……な、ならば魔獣を狩れるのもわかるが……」


 村長が顔を引きつらせながら呟いた。

 わからないことがどんどん増えてきてどうしたらいいのかわからない。とりあえず神の使いうんぬんはスルーすることにした。それについては後回しだ。


「ええと、森のそういった生き物たちと暮らしてきたのでこの世界のことがよくわかっていないんです。森の広さとかってわかりますか? ちょっと距離感がわからなくて困っていまして……」


 答えてくれたのはテトンだった。


「森は……東西南北同じ距離ぐらいあると聞いたことがあります。確か、かつて森に沿って東から西に歩いた者がいたそうです。その者の話によれば余裕を持って歩いて二か月ぐらいかかったと……」


 俺は中川さんと顔を見合わせた。ということは森の端から端まで人が普通に歩いたら二か月ではきかないということではないだろうか。(障害物もあるし獣も襲ってくる)俺がいた安全地帯から、人が歩いて一か月の距離をわずか二日で駆けるオオカミってなんなんだ? スポーツカーなのか?

 おそらく俺たちの歩くスピードも相当上がっている気がする。森の物を食べていたせいなんだろうけど、チートすぎるよな。

 ということは以前予測した歩いて十日というのは見当違いだったわけだ。


「となると、森の障害を考えたら北から南に向かうのに二か月以上かかることになるのですか」


 一応確認してみた。


「はい、そうなるかと。ただ、迂回するには船に乗るか山の切れ目まで進まなければなりません。そちらの方が遥かに距離が長いので、王は森をどうにかしたいと思っているようです」


 テトンは俺たちが聞きたいことをなんとなく察してくれているようだった。


「森をどうにかする為に兵士を投入しているのですか? 大体それはいつからなんです?」

「私たちが森の側の家から追い出されたのは今から一月ほど前です。そのもっと前……そうですね二か月以上前からでしょうか、毎日沢山の兵士が森に入ろうとしていたのですが……その……まだ入ろうとしているのでしょうか」


 テトンは追い出されたからその後のことは知らないのだろう。


「どうもまだ兵士は森の側にいるようです」


 そう答えると、みな難しい顔をした。


「森の攻略は我が国の悲願でもあるが……何故今になってそんなことを……」


 村長がいぶかしげな顔をした。それで大体の話はわかった。

 おそらく近隣の住民には、何のために兵士たちが森に入ろうとしているのか知らされてはいない。やはり俺たちのどちらかがこの国で召喚されたのだろう。それかもしかしたら俺たち二人同時だったのかもしれないけど。


「ここから王都まではどれぐらいかかりますか?」

「ここからですと……急いで歩いても一か月以上はかかります」


 テトンが答えた。


「あの……この国の歴史を少し知りたいです。オオカミさんの主さんがいらしたのはだいたいどれぐらい前なんですか?」


 中川さんが口を開いた。そうだ。それも聞かなければいけなかった。


「ナオミ様がいらしたのは……私の祖父の、そのまた祖父が生まれた頃にはまだ御存命であったとは聞いています」


 祖父の祖父……世代交代を20年と考えてもざっくり100年ぐらい前か。あのオオカミ、本当にどれぐらい生きてるんだよ。


「そのナオミ様は確か森に手を出さないようおっしゃられていたのでは?」

「そうなのです……ですから私たちも困っています」


 テトンはそう答えて肩を落とした。

 この分だとオオカミさんの主が召喚されてきたことを知っているのは王とその関係者だけだろう。これはやっぱり王都へ向かう必要があるのかと思ったらげんなりした。


ーーーーー

思ったより自分たちの能力が高くて驚いた二人の巻。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る