44.ちょっと予定を変更しまして

 一通り話を聞いたので一旦辞そうとしたら村長に引き止められた。どうせだから昼飯を食べて行けという。


「この辺りの食事にちょっと興味があるわ」


 と中川さんが言うのでごちそうになることにした。家の外にいるオオカミに言いに行くと、


『なれば我はこの辺りの獣でも食ろうて参ろう』


 と言う。


「この辺りの獣? もしや、家畜じゃないですよね?」


 一応確認する。さすがに家畜を襲ったら大迷惑だ。


『家畜じゃと?』


 フン、とオオカミは鼻を鳴らした。


『あんなふにゃふにゃしたものが食えるか』

「ふにゃふにゃ?」


 聞いたことのない表現だったが、どうやらオオカミの口に合わないらしい。何がここらへんの家畜かは知らないけど。俺からすると家畜の方が肉が柔らかくておいしかったりするんじゃないかなって思うが、そこまで餌などを管理しているかどうかも怪しいからなんとも言えなかった。


「じゃあ、何を狩りに行くんですか?」


 中川さんが聞いた。


『名前は知らぬ。この山のもう少し上の方にいる獣じゃ』

「へえ。俺たちでも狩れそう?」

『そのけったいな武器を使えば余裕じゃろう』

「じゃあ連れてってください。ちょっと村長さんに声かけてきます」


 というわけで昼食をいただくのはいいが先に狩りに行くことを村長たちに伝えた。村長たちは目を剥いた。


「この、山の上方にいる獣ですと!?」

「はい。オオカミさんが言うには俺たちでも狩れるようなので行ってこようかと」

「あ、ありがとうございます。あれらはわしらの作物や家畜を襲う恐ろしい獣なのです。狩っていただけるととても助かります!」


 村長たちとテトンさんにめちゃくちゃ感謝されてしまった。いや、まだ狩ってないから。落ち着いて?


「ええと……その獣って食べられるんですよね?」


 一応確認してみた。食べられるか食べられないかでやる気が変わるし。


「はい! もちろんです! あれはこの辺りで極上とされる獣でして、王都のお祝いで使う為に兵士がわざわざ狩りに来るほどです!」

「……へえ……そんな貴重な獣を狩ってしまってもいいんですか?」


 聞けば聞くほど狩っていいものか心配になった。


「とんでもない! わしらからすればとんでもない害獣です! それにあれらは山中に沢山生息していますから、いくら狩っても狩りつくすなんてことは不可能です!」


 中川さんと顔を見合わせた。まぁ、三、四匹狩ったところでそこまで問題にはならないだろうと判断した。害獣というならむしろ狩った方がいいだろうし。


「じゃあちょっと行ってきます」

「どうぞよろしくお願いします!」


 三人はそろって深く頭を下げた。俺たちは苦笑した。


「お待たせ。オオカミさんは一匹あれば満足する?」

『一匹狩れば十分じゃな。そなた、武器の用意は万全か?』

「ちょっと人気がないところまで走ってもらっていいか?」

『了解した』


 さすがに俺の武器を見られるわけにはいかない。そういえば水筒の中身をまだ確認していなかった。


「ちょっと調味料の確認をするよ」


 そう言ったら中川さんがすぐ側まで来て、ミコは俺の内ポケットから出て首にするりと巻き付いた。本当に面白いなと思う。

 今日の調味料は醤油だった。武器用の醤油が少なくなってきていると思っていたからちょうどよかった。


「これでしっかり狩れるな」

「山田君、私にも貸してくれる? 二、三匹は狩るんでしょ?」

「うん、村に最低一匹でも分けられるといいかな。あ、でもポーターがいないな。ソリかなんかあるといいんだけど……」


 そう話していたら、


「ラン様~!」


 何故かテトンさんがソリのようなものを引きずりながら全力でこちらへ駆けてきた。


「あれ? テトンさん、どうしたんですか?」

「はい! 狩った獲物を運ぶ者が必要かと思いまして、お手伝いに参りました!」


 おお、えらい。えらすぎるぞ。


「ありがとうございます、助かります」


 ちょうどポーターの話をしていたところだったので助かった。彼には多めに分けてあげることにしよう。

 そんなわけで、テトンさんの速度とまではいかないけど、ソリもどきを持ったテトンさんが見える位置をキープしながら俺たちは山を上った。つってもオオカミさんの上だが。

 しばらくオオカミが走っていると、なんか角の長いヤギのような生き物を見つけた。マップを見たら赤い点がそこかしこに点在している。いつのまに、と思った。オオカミがいるとはいえちょっと弛んでるな。気を引き締めないと。


「オオカミさん、あれか?」

『そうだ。アヤツらに見つかると突進してくるぞ』


 オオカミさんはとても楽しそうに言う。俺たちはオオカミさんの背から下りた。赤い点がいくつも近づいてくるのがわかった。


「中川さん、左方向!」

「はい!」


 俺は右方向からドドドドド! と音を立てて走ってくるヤギもどきに向かって醤油鉄砲を打った。補助魔法を使って届く距離だったので死んでから走り込んできても俺たちには届かなった。それでも冷や冷やしたけどな。オオカミも走っていってヤギもどきを二頭倒した。あっという間に四頭倒した俺たちを見て、テトンはへなへなとその場に座り込んでしまった。


「な、なんと、なんという……」

「終ったけど……運べそうですか?」


 腰が抜けたとかじゃないといいんだが。

 獲物は大して大きくはなさそうだったけど、それでも俺たちだけで運ぶのはたいへんそうだ。テトンは五分ぐらいでどうにか復帰して、一頭はソリに載せてくれた。オオカミが狩ったのはオオカミの背に縛り付ける。あとの一頭は俺が担いだ。そうして中川さんに警戒を任せ、村に戻ったのだった。

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