42.どうしても脱線はするものだ

 そういえば突然村人と遭遇したということもあり、まじまじと観察はしていなかったが村長の額には角があった。真ん中にわかりやすい一本角である。多分5cmぐらいあるだろうか。村長の元へ案内してくれた人には角はなかったけど、住んでいるところによって角のありなしが変わるんだろうか。そもそも角の有無について聞いてもいいものなのかは悩むところだ。

 村長さんの家はあばら家に毛が生えた程度の大きさの家だった。お世辞にもいい家とは言えない。それでも安全地帯に俺が作った寝床よりはましだろうと思われた。


「どうぞこちらへ。ラン様は……」

『我はここにいる。話が終ったら声をかけよ』


 村長の家の扉は、人は入れるけどオオカミが入るには狭そうだった。オオカミは家の扉の前に寝そべった。その間に俺たちはオオカミの背から下りた。


「オオカミさん、ありがと」

「ありがとうございました」

『礼などよい。用件を済ませるがよい』


 そうして俺たちは促されるままに村長の家に足を踏み入れた。入ってすぐ横にはかまどがあった。いわゆる土間である。そこから一段上がったところに通された。


「座ってくれ」


 村長に促されて板の間に座る。


「で? 森から来たと聞いたが何が知りたいんだ?」

「村長! この方々はナオミ様と同じ世界からいらした尊い方です! そのような口の利き方は……」

「あ、いえ。突然来たのは僕らの方ですからそれはかまいません」


 案内してくれた人は村長に怒ったが、それほどのことでもない。俺たちはオオカミよりは恐れる相手ではないと判断されたのだろうし。


「ただでいろいろ教えていただこうとは思っていません。一応森から手土産を持ってきました。ただ、口に合うかどうか……」

「手土産、だと?」


 途端に村長の目の色が変わった。中川さんと目配せする。ここで出すのはシシ肉もどきだ。どう見てもこの村が豊かだとは思えないから、肉を出せばすらすら答えてくれるのではないかと思ったのだ。


「はい。この世界では何の肉というのか名称はわかりませんが、森の獣を狩ったので……」

「森の獣だと!? 森の獣が狩れるのか!?」

「はい、まぁ……一応」


 醤油とか焼肉のタレの助けられてるけどな。だって即死効果高すぎだし。

 それよりも村長の食いつきが激しくてちょっと引く。助けを求めるようにここに案内してくれた人を見たが、信じられないものを見るような顔をしていた。まぁ、普通では突進されたら終わりっぽいもんな。


「み、見せてくれ……」

「はい」


 俺はリュックから新聞紙の包みを出した。これがシシ肉のブロックだったはずだ。


「私たちの世界の紙に包んであります。これを剥して確認してください」

「わ、わかった……。おい! お前! 肉だ! 肉が来たぞ!」


 隣の部屋にいたらしい女性が顔を出した。その女性の額にも一本角があった。


「お客様ですか?」


 俺たちは女性にぺこりと頭を下げた。女性は村長より何歳か若く見えた。奥さんだろうか。


「お客様から肉をいただいた。ちょっと開けて確認してみろ」

「はいはい」


 女性が目を閉じた途端、パァッと一瞬光が舞ったような気がした。


「!? え? 今の、何?」


 中川さんが狼狽えた。


「洗浄の魔法だが……ああ、人間は使えなかったか」

「えええ? あの……その魔法って教えてもらうことってできるんですか?」


 中川さんが瞬時に食いついた。確かにそんなチートな魔法があるなら習得したいものだ。


「継承はさすがに……ただでは……」


 女性が言葉を濁した。対価を払えと言うことだろう。当たり前だと思った。オオカミがこの魔法を持っているならオオカミから継承してもらえばいいが、オオカミが持っているとは限らない。それに肉はまだ持っていた。


「ええと……あと一包みなら肉は持ってきたんですけど……それで私と彼に教えてもらうことはできませんか?」


 村長は鼻を鳴らした。


「あと一包みしかないなら一人だけだ」


 あ、コイツ足元見やがったな。あと鳥が一羽分あるはあるが、それはさすがに払い過ぎだろう。洗浄の魔法を持っているのはこの人だけではないだろうし、ここは止めておいた方がいいと思った。

 それを聞いて憤ったのは案内してきた人だった。


「な、ななななんと強欲な! 私も洗浄の魔法は使えます。私であればただでお二人に洗浄魔法を継承いたします!」

「え? いいんですか?」

「それは助かりますー」


 ただで教えてもらおうとは全く思ってはいないが、普通ただで教えてもらえるっていうならそっちに頼むよな? 中川さんも楽しそうににこにこしている。


「あ、いや! 一包みでお二人に教えますから! いえ、あの、その、半分でも!」


 村長と女性が慌てた。やっぱり肉は欲しいようだ。


「お肉の包み半分で、私たち二人に教えていただいてもいいですか?」


 中川さんがとてもいい笑顔で女性に頼んだ。


「は、はい……もちろん……」


 女性は戸惑いながらも、中川さんと俺に洗浄魔法を継承してくれた。やったー! 洗浄魔法げっとー! と内心ガッツポーズである。この魔法というやつは必ず習得できるものではないらしいが、俺たちは無事手に入れることができた。チート万歳、である。

 もう一包の肉(こっちはシカ肉もどきだ)を半分に切り、村長に渡し、もう半分は案内してくれた人に渡した。案内してくれた人は驚いたような顔をしていた。もらえると思ってなかったようである。


「あ、あの……私がいただくわけには……」

「いいえ、ここまで案内していただきましたからその対価です」


 そう言って是非にも受け取ってもらった。村長は苦虫をかみつぶしたような顔をした。でも肉のブロックは半分でも多かったようで、そのまた半分に切り、四分の一をその人はもらうことにした。四分の一は村長に渡していたので、村長宅の取り分は四分の三と先ほど渡した一ブロックである。

 とまぁ話は大いに脱線したが、やっとこれからどうにか話が聞けそうだった。


ーーーーー

ぱらぱぱー! 洗浄魔法を手に入れた!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る