20.この森のことを聞いてみた

 そんなわけでヘビにいろいろ質問してみた。

 ヘビに教えてもらった内容をまとめよう。

 まず、俺たちがいる場所は広大な森のちょうど真ん中辺りらしい。この森のことは周りの国から「果てなき森」と呼ばれている。

 さて、この森の広さだ。ヘビは俺が5時間かけて歩いた距離を約30分で踏破してしまった。そのヘビは一応森の外へ出たことがあるらしい。北方向も南方向もヘビの進み方で3,4日かかるという。

 確かヘビって一日の稼働時間は短かったよな? ニシキヘビで一日18時間寝るんだっけか。そう考えると距離は単純に十倍では計算できないだろう。


「スクリ、その3,4日って一日にどれぐらい進んだのかな? 俺たちを運んだ時間ぐらい? 大体の感覚で教えてもらえると助かる」

「ふむ……そなたらを運んだ時間を1とすれば、6か7ぐらいじゃろうか」


 ヘビはとにかく頭がいい。すぐに俺が聞きたいことを理解した。

 単純に俺たちが歩く速度が一時間4kmとして、5時間で20km、それを30分で踏破したわけだからヘビの速度は時速40kmだ。ハンパない。30分を1としてその6,7倍と考えると、最大で一日に140km、それを3日でと考えても森を出るまでに420kmという計算だ。一日40kmを歩くとして……あ、眩暈がしてきた。

 ということは、俺たちが森を出ようと思ったら10日(単純計算で10日と半分)ぐらいは考えないといけないだろう。4日と考えたらもっとだ。

 俺は青くなった。

 とりあえず、ここは3日として計算してみよう。

 中川さんに「どんなに急いでも最低十日かな」と言ってみる。


「と、十日……そんなに歩かないと森の外に出られないなんて……」


 中川さんはそこらへんのことを敢えて聞かないようにしていらしい。聞いて絶望してしまったら生きていけないと思ったからというのがその理由だ。うん、俺も一人で聞かされたら絶望しかないと思う。


「スクリ、もし、だけどさ。俺たちを括り付けて森の外に出るとか……」


 一応聞くだけ聞いてみた。


『……かまわぬがさすがに報酬を所望する。そなたがシシを二頭倒して丸々くれればよいが』


 報酬については問題なさそうだ。醤油鉄砲でどうにかなる。


「例えばの話だけど、スクリに乗って森の外へ出るにはどれぐらいかかりそうかな」

『ふむ……さすがに休まねば進めぬ故、日が5,6回沈むであろうな』

「5,6日か。それでも早いな」


 移動手段の目途はついた。中川さんは、


「5,6日……スクリに乗せてもらっても5,6日……」


 ぶつぶつ言っていた。気持ちはわかる。

 その後は周辺の地形や国について、ヘビに知っている範囲のことを教えてもらった。

 どうもこの森は高い山の間、いわゆる谷のような場所に広がっているという。西の山の向こうにはでっかい水があるという。多分それは海なんだろう。そして東の山は高い山がいくつも連なり、山脈のようになっているという。天然の要害だな。しかもこれらの山は非常に険しく高くて、雲の上まで続いてるらしい。ってことは最低でも2000m以上の高さはあるのだろう。

 この森は東西も直線で同じぐらい距離があり(つまりとても広い正四角形をイメージすればいいわけだ)、植生が豊かな分獰猛な獣が多いそうだ。それは人里が近くなれば更に増えるという。つまり、この辺りは獣が少ない方なのだと聞いて頭を抱えた。

 気を取り直して周辺国についてである。

 北には額に角があったり、耳が尖っていたりする種族たちが集まって暮らしているそうだ。で、南には俺たちのような容姿の種族が暮らしているという。両方ともヘビからすると人間に見えるらしい。そういえば墓に埋めたしゃれこうべ、額に角があったな。きっと北から来たんだろう。

 両方とも人口はそれなりに多く、作物や野生動物が獲れる土地がだんだん減ってきている。それ故か、ここ何十年かは森に入って来るようになったそうだ。


『我が見た人間は、そなたたちを除けば二人じゃな。ひどく傷ついていて、我の住まう場所に着いてすぐに死んでしまった』

「そっかー……」


 十日ぐらいはがんばれたけどあと十日は進めなかったんだな。それはしょうがないと思う。


「スクリが知ってる限りで、この森を抜けた人っているのか?」

『我は知らぬ。じゃが聞いたことはある』

「おおお……」


 やはり踏破できた人はいたようだ。


『……それは我よりも他の場所に住んでいる者の方が詳しいじゃろう。話を聞きたければ連れて行ってやるぞ』

「それって人なのか?」

『違う』


 ヘビは首を振った。


「ええ、じゃあ何なんだ?」

『我と会話ができるのならばあの者とも話せるじゃろうて。ただのぅ、我に捕まっていっても日が2,3回は沈むであろうな』

「と、遠いんだね……」


 中川さんが遠い目をした。


「その者? をこちらに連れてくることってできないの?」

『できぬことはないが、それはあの者がそなたたちに会いたいと思えばじゃな』

「あー、そっか。そうだよな」


 呼びつけるのはさすがに失礼か。でもこの世界についてもう少し情報がほしいとは思う。人里だーって喜び勇んで行って身ぐるみはがされちゃたまらないし、それにやっぱりなんかこっちの世界の人に召喚されたんじゃないかなって気がするんだよな。のこのこ出て行って勇者様ーとか祭り上げられても困ってしまうし。気ままに過ごしたい。


「会いたいし話も聞きたいけど、ちょっと保留でいいか?」

『好きにするといい』


 中川さんと少し話したけど、この森が異様に広いということがわかったぐらいだった。そしてどうも俺たちみたいな人間と、別のファンタジックな容姿の人間たちの国があるということはわかった。


「中川さん……俺たちってたぶん……なんらかの意志でこちらの世界に召喚されたんじゃないかな」

「うん、私もそう思うわ。もしかしたらその人間たちの国で召喚とかしたのかもしれないよね」


 中川さんも同意した。

 どちらの国が俺たちを召喚したのか。それとも俺と中川さんは別々なのか。情報不足は否めない。


「スクリ、俺たちみたいな……別の場所から来る奴って見たことある?」

『我はないな。だがあの者は不思議な者に会ったことがあると言っていた』

「そっかー……」


 じゃあやっぱりその生き物に会わないといけないだろうな。

 と、その前に。


「中川さん、今夜はどうする? 住んでたところに戻る?」

「えーと……どうしようかな」

「こっちに泊まるなら急いで寝床作るよ」

「え。一応寝袋は持ってきてるよ~」

「少し高さがあった方がよくないかな?」

「あー、そっか。山田君の寝ているところ見せてもらってもいい?」

「いいよ」


 一人より二人でいた方が心強いのは間違いない。でもヘビが運んでくれるのならば毎日一緒にいる必要はないかもしれない。

 なんでこんなこといちいち考えるのかって? だって男女じゃん。俺、中川さんのこと好きなんだよ。それと同時に、俺はヘタレなんです。もうなんとでも言え。



ーーーーー

計算がんばったよママン(誰

12/6 12:15 でも間違ってたから直したよママン(ぉぃ

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