19.おいしい食べ物は幸せだよな ※虫を食べる描写があります。注意
小さめのクマもどきをスクリと共に運び、その後は中川さんと共に作業をした。解体していたらいつのまにかイタチたちが近づいてきていた。はいはい、ごはんはまだ待ってくれよ~。
用意してある竹筒にレモンの搾り汁を入れる。これでビタミンCはばっちりだ。肉を食べやすい大きさに切り分け、俺たちの分は新聞紙にくるんだ。いろいろ作業したとはいえ移動する前にイノシシもどきを食べたばかりだ。さすがに俺と中川さんはまだおなかが空いてはいなかった。
肉はそれなりに食べやすい大きさに切って新聞紙の上に並べる。
「食べてもいいぞ~」
と言ったらイタチがなんか竹筒を持ってきた。それ、調味料入ってるやつだよな?
「中身の確認だけさせてくれ」
受け取って蓋を開ける。マヨネーズだった。匂いで判別したらしい。頭いいよな。でもどんだけマヨネーズ好きなんだよ。
「いいよ。でも少しずつ使うんだぞ~」
新聞紙の四隅にマヨネーズをある程度の塊で落としてやったらキュキュキュキュとイタチたちに鳴かれた。嬉しいのかな。イタチたちが喜んでくれるのは俺も嬉しい。
「山田君、それ何?」
「ああ、マヨネーズだよ。イタチたちが好きみたいでさ」
「マヨネーズ!?」
中川さんは頭を抱えた。
「……その水筒だけで奪い合いが始まりそうだけど……それも山田君にしか開けられないのかな?」
「試してみようか」
「うん」
どきどきだったけど、水筒を中川さんに渡した。あんなに簡単に開いた蓋は、中川さんがどんなに回しても引っ張っても何しても開かなくなっていた。
「すごい、本当に開かない~」
中川さんは感心したように言った。やっぱりこれは俺仕様のようだ。そろそろいろいろ真面目に考えなければいけないと思った。
ミコも俺と一緒にイノシシもどきを食べてきたからそれほどおなかはすいていなかったらしい。小さいクマもどきを少し齧っただけで戻ってきた。その口元をタオルで拭ってやる。血まみれということもあるが、やっぱ怖く見えるんだよな。
「おやつでも食べるか……」
リュックからポテチを出した。途端に中川さんとミコが居住まいを正した。ミコ、どんだけポテチが好きなんだよ? ま、俺も好きだけどさ。やっぱポテチには抗えないよな。
ポテチの袋を開け、全部キレイに開く。それからポテチの山を三つに分けてちょんちょんちょんとマヨネーズを袋の端につけた。
そして俺とミコと中川さんの二人と一匹で食べ始めた。
ミコは本当にポテチが好きで、しかもマヨネーズも好きだからけっこうなスピードで食べてしまった。中川さんがポテチにマヨネーズをちょっとつけてミコに差し出した。
「イイズナさん、どうぞ?」
途端にミコが挙動不審になった。食べたいけど、取っていいのかどうかというかんじである。
「ミコ、くれるっていうんだからもらえば?」
俺が声をかけたら、ミコはパッと中川さんからポテチを受け取って急いでパリパリ食べた。そして椿の木の方へ向かった。
「余計なことしちゃったかな?」
「いやぁ……そんなことはないと思うよ」
そう答える俺の顔はついつい強張ってしまった。やはりイタチたちが心を許すにはあの儀式が必要なのだろう。俺はもう勘弁してほしいけど。
「あ、ミコさんおかえり~。って、えー?」
ミコが流れるような動きで戻ってきた。口に芋虫を咥えて。ミコはそうしてその芋虫を中川さんの側に落とした。
「ミコさん、これくれるの?」
俺は目を反らす。やっぱり見たくはない。
「ありがとう。いただくね!」
中川さんはとても嬉しそうに芋虫を掴むと、マヨネーズをつけてばくりと食べてしまった。
「あ、おいしーい! ごちそうだね!」
うん、味はいいんだ味は。見た目は勘弁してほしいけど……。ミコは気をよくしたのか、また椿の木の方に向かい、今度は二つ持ってきた。一個ずつ俺と中川さんの前に落とす。ミコさん、頼むから勘弁してください。
「またくれるの? ありがとう!」
中川さんは上機嫌だ。俺は目をつぶって芋虫をいただいた。うん、うまい。なかなかにクリーミィでおいしい。でも見た目が嫌だ。もういらない。
「おいしいね! でも大事なごはんなんでしょう? もう大丈夫。ありがとう。ミコさんはー、ミコちゃんって呼んでいい?」
ミコは同意するようにキュウと鳴いた。仲良くなってくれたようでよかったなと思った。イタチたちは肉をある程度食べたら椿の木に戻っていった。
『ミコ、我にも芋虫を下さらないかのぅ……』
ヘビが控えめにミコに頼んだ。ミコがキュキュキュキュと鳴くとイタチたちが芋虫を咥えて何匹かやってきてヘビの前に置いた。
『感謝する』
ヘビはおいしそうに丸飲みした。あれでも味って感じられるものなのかなとちょっとだけ思った。
ある程度落ち着いたところでヘビから話を聞くことにした。ヘビにこの世界というか森のことなどわかる範囲のことを聞きたいと言うと、彼は快く頷いた。まだ残っている小さいクマもどきはヘビが食べてしまうことになった。
『獲物が多くて嬉しいかぎりじゃのう』
ヘビはご機嫌だった。
そんなヘビに聞くことといえば、ここはどこなのかからだ。
ここにきて三か月近く経つけど、俺たちの世界はあまりにも狭い。俺たちがいる場所がとても広い森だということはわかったけど、その広さは全く把握できないし、そもそもどんな生き物が住んでいるのかもわからない。ただ、俺たちを見て「人間だ」と言っていたからこの世界に人間はいるのだろう。なんでヘビが話すのかとかも聞きたいが、それは後回しだ。まずは現状を知りたい。
『そうさのぅ……どこから話したらいいものか……』
ヘビは俺たちの顔を見回して思案気に首を振ったのだった。
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名前間違いはやヴぁい! 修正しましたー
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