8.とにかく準備が必要だ

 なんかすごい生臭さで目覚めた。いつのまにか俺のすぐ隣に白イタチがいる。

 悲鳴を上げなかった俺、えらい。白イタチの口の周りは血まみれだった。

 あのイノシシもどき、結局食べたのか。


「……口、拭くからなー……」


 タオルで拭いてはみたがすでにこびりついている。水でタオルを濡らして丁寧に拭いた。白イタチは嬉しそうに俺に擦り寄ってきた。うん、かわいいよ。かわいいんだけど生臭い。

 まだ暗かったからまた寝た。生臭いけど、寝不足は敵だ。

 それから約一月の間竹の水鉄砲つか醤油鉄砲作りに勤しんだ。穴が小さければ詰まるかもだし、大きければ勢いが出ない。とにかく素早く使えるようにしないといけないし、とにかく頭から湯気が出るぐらい考えた。スポンジはないから布をぐるぐる巻いて代用するしかないし。あー、もう。タオルを切り裂いて使ったけど、そしたらリュックの中にタオルが増えていたから助かった。

 筋トレも再開することにした。草を刈り、平らそうな土地の上にビニールシートを敷いて腕立て伏せをやっていたら、背中に白イタチが乗った。それを見た他のイタチたちもみんなして俺の背中に乗った。……運動しづらいです。でもかわいさと心地いい重さでがんばった。今はとにかく筋肉! 体力! 筋肉! である。

 腹筋やってると腹の上に白イタチが乗ろうとするからその都度そっとどかし、腹筋、乗られる、そっとどかしを延々やっていた。何をやっているんだ俺は。なんか猫飼ってる人んちってこんなかんじなのかなと勝手に想像したりした。

 イノシシもどきとかシカもどき、小さいクマもどきが攻めてくる頻度が減ったように思う。前は一日に2回とかあった日もあるが、最近は一日一頭で安定している。そして何も攻めてこない日もある。それってもしかしてこの近くは数が減ってきた証拠なのではないだろうか。それか獣がいなくなる周期みたいなものもあるのかな。

 大体ここの全体が全く把握できない。俺の生活範囲といえばこの安全地帯(?)と竹林一帯ぐらいである。方位磁針は持っているが方角がわかるだけだ。全然この森から出られる気がしない。


「どーすっかなー……」


 もうここに来て約三か月になる。いいかげん行動範囲を広げたい。人と話したい。

 背中に乗っかっているイタチたちの足の爪が痛いです。よく病気にならないもんだと思う。小さい頃に予防接種とかいっぱい打たれたからかな。注射大嫌いで予防接種の度に泣きわめいていた記憶があるけど。さすがにこの年になってからは泣き叫んだりはしないけど目をぎゅっとつぶって耐えてる。針を刺す以外に方法ってないものなんだろうか。それ以外の方法を開発してよセリョリータ(誰

 腕立て伏せを終え、


「終ったからどいてくれ~」


 と言うとイタチたちがわらわらと背中から下りて行った。うん、優秀だなイタチ。

 とりあえず水鉄砲の実験もあらかた終えた。というわけで明日から木々の向こうへ行ってみようと思う。


「それにしてもここってどんだけ広いんだろうな……。一時間ぐらい歩いてすぐ人里が見えるようなところならいいけど……」


 でもここから歩いて一時間ぐらいで人里があったとしたら、獣の脅威に晒されてる場所ということになってしまう。そしたらここにいる方がまだましなのではないか。それともこの森(?)の中にいる魔獣は森からは出ないのだろうか。

 考えるだけ無駄だなと苦笑したところで、

 ドドドドドドドドッッ! と何かが勢いよく駆けてくる音が聞こえ始めた。

 そういえば昨日何も攻めてこなかったもんな。

 木々とこの原っぱの間にはしっかり焼肉のタレと醤油を撒いてある。撒いたところは草も枯れるのでわかりやすい。


「プギイイイイイイイイイイッッ!!」


 今日もイノシシもどきだった。勢いよく駆けてきたのが焼肉のタレだか醤油だかに触れた途端ズガーンッ! と倒れて断末魔の叫びを上げ、やがて泡を噴いて死んでしまうとか怖すぎる。焼肉のタレと醤油っていったいなんなんだろう。魔獣に即効性のある毒かなんかか。イノシシもどきは派手にスライディングしてきた。5m以上は軽く滑ったと思う。うん、目の前にいたら間違いなく相打ちだな。やっぱり瞬発力も必要だし動体視力も鍛えないと。動体視力は最近イタチたちの動きを見ていてかなり鍛えられたとは思うけど、自分の動きに関してはなー。イタチたちに頼んで追いかけっこでもするか。……どうやって頼むんだ。

 あ。ポテチでも持って走って逃げてみるか。



 ……学ばない男ですみません。意外と瞬発力も鍛えられていたみたいです。

 おかげで超いらついたイタチに指を食いちぎられかけました。ごめんなさい。許してください。もうしません。どうにか白イタチ様が取り成してくださったみたいです。

 そんなわけで今夜の焼肉にはお詫びとしてマヨネーズを提供させていただきました。イタチたち、かなり上機嫌に肉を食いちぎってました。よかったよかった。

 しっかし見た目かわいいからグレム〇ンかよと言いたくなる。

 そんなアクシデントもいろいろある楽しい暮らしではあるが、明日にはまたちょっと冒険に出てみたい。

 もう自分のステータスとか見るのは諦めたから危険生物のサーチとか、マップ機能みたいなものがほしい。それもステータス画面が出せないと無理ゲーかな。試しにぼそっと呟いてみた。


「マップオープン……」


 こんなんで目の前に地図が現れるとかないよなー……。


「うっそん」


 俺の視界の右上に、四角い何かが。

 絶句した。

 真ん中に星のようなものが見えるのは俺か。その周りに小さく黄色い点のようなものが動き回っている。手をそっとその四角に向かって伸ばし、親指と人差し指を閉じるような動きをしてみた。楕円形の場所の周りに白い地帯と赤っぽい配色の地帯がある。白い地帯は竹林か。俺がいるところはグレーっぽい色だ。赤っぽい色をしている地帯はここからだと細くなっている。そちらが木々のある場所だろう。

 もしかしたらこの赤色地帯を進めばマップが広がるのではないかと思った。

 そう、俺は地図を手に入れたようだった。

 やっぱりわけわからん。

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