7.外へ出る方法をじっくり考えたい

 ……うん、まぁ即逃げ帰ってきたよね。当然だよね。

 多少鍛えただけの男子高校生が、あんな姿見ただけで突進してくる魔獣たちに太刀打ちできるわけないじゃん。一応突進してきた小さいクマもどきはうまいこと竹槍が刺さって死んだけど、竹林を抜けてたった十歩でこれじゃあなぁ。


「ガアアアッ!」


 とかいう声にトレインされてきたのか、その後すぐにイノシシもどきが現れるし。さすがに竹林の中に逃げ込んだよ。そのままクマを奪われてしまうかなと思ったけど、イノシシもどきはふんふんとクマもどきを嗅いでからプギイイイ! とか鳴いて戻っていった。もしかしたら醤油で死んだのがわかったのかな。もしかしてここの魔獣は、醤油とか焼肉のタレに触れたものも食べられなくなってしまうのか? でもうちのイタチは平気で食べてるけど……。(いつのまにかうちの扱い)

 もうこうなってくると俺の全身を醤油まみれにしないと歩き回ることもできないのではと思えてきた。

 それでも突進は防げないよな。相打ち以外の未来が見えない。

 ただ、竹林は思ったより広かったから散歩にはちょうどよかった。(だいたい竹林は片道1時間ぐらい続いていた。片道約4キロが竹林とかすごくね? まだスマホの電源が入るのでだましだまし使っている。でもそろそろ充電が心許ない)竹が密集しているから歩きづらいといえば歩きづらかったけど。よく竹槍が引っかかったから今度から竹槍をくっつける場所とか、歩き方とか考える必要はあるな。それにしても、ビバ! 竹。君のおかげで救われているよっ!

 しっかしいくら剣があっても重くてとても振り回せないしどうしたものかな。剣はいわゆる剣だ。両刃で、斬る、というより力任せに叩き斬る系の剣である。力ないと無理。ぶんぶん振り回せるぐらい膂力がないととても使えない。ここに住んでる間にそれなりに筋肉はついたみたいで、持っているぐらいはできるようになったけど。

 なんかいい方法がないものだろうか。

 そういえば竹で水鉄砲を作るとかやったな。小学生の時に。

 十徳ナイフの中にやすりもついてるし、とりあえず作るだけ作ってみよう。中に醤油を入れてぴゅーっと出してみたりしていろいろ試行錯誤しないとな。命を守るのとここから出る為だ。とりあえず行動範囲を拡げないと……。

 竹の水鉄砲ができたらまずはうちの安全地帯から外に少し向かっていって実験だな。

 ちなみに、もったいないから小さいクマは引きずって竹林に運んだ。これを持って安全地帯に戻る? それよりここで解体した方がよくないか? どーせ全部食べるわけじゃないし。でも解体するには毛を抜いたりする作業もあるんだよな。荷物全部リュックに入れて持ってくるか?


「うーん……」


 よくわからなくなってきた。そこまでしてこのクマを食べたいのか、俺?

 贅沢者! と罵られそうだけど食い物がないわけじゃないんだよ。もちろんリュックの中身がいつまでもリポップするなんて保証はないんだが、明日ぐらいまでのごはんはあるよなーとか。缶詰全部出せばOKだよなーとか思ってしまうわけで。でもこの小さいクマおいしいんだよなーとか思ったらやっぱり安全地帯まで戻って荷物を取ってくることにした。

 ここで飯を食べて戻れば問題なし!

 一番苦労したのは白イタチに説明することだった。

 しきりに肉を置いていくのかと振り返る白イタチ。くりくりお目目がかわいいね!

 荷物持って戻るから! と何度も言ってどうにか安全地帯に戻り、荷物を全部入れてクマのところへ戻った。イタチたちが後ろからぞろぞろとついてきた。ハーメルンの笛吹男? とかちょっと思ってしまった。大丈夫、殺されるとしたら俺だけだから。って全然大丈夫じゃねえ!

 そんなわけで竹林の中で解体して焼いて食べた。竹林にズガン! ズガン! ってかんじで何かが突進してくる音がしたけど俺たちがいるところまではこなかった。やっぱり竹林はなんか結界みたいなのがあんのかな。でももう椿の木の下が家だから竹林に転居する気にはなれなかった。イタチたち、かわいいしな。……口の周りが血だらけだけど……。

 とりあえず白イタチの口はふきふきしてあげた。

 このイタチたちが猛獣だってこと、決して忘れないようにしないと。

 そんなこんなでどうにか安全地帯に戻ってきたら、今度は木々と安全地帯の原っぱの間でまたイノシシもどきが泡噴いて死んでいた。


「だから……なんでだよ」


 また解体か? 解体なのか? 解体しても肉保管するところないじゃん! 新聞紙にくるんでリュックの中とか入れても悪くなりそうじゃん。もうどうすればいいんだよ。

 遠い目がしたくなった。

 今日はもう疲れたから無視だ無視。水筒から醤油を竹筒に詰め、水筒を洗った水を鍋に入れて沸騰させて他の調味料を足しつつ飲んだ。


「鶏ガラスープの素サイコー!」


 そう、一度だけ鶏ガラスープの素が水筒いっぱいに入っていたのだ。粉だなと思って舐めたら塩気の効いた鶏ガラスープの味がした。だし、じゃない。これさえ入れれば味がつくタイプである。うちの親がわざわざ中国雑貨店から買っているという1kg缶の鶏ガラスープの素の味がしたのだ。味塩胡椒の時もテンション上がったけどな。とにかく調味料さえあれば快適に生きていけると思ったものだった。もちろん塩の時もあった。全部竹筒に納めてある。このまま人里に出たら調味料だけで大儲けできるんじゃね? と思うほどだ。

 それにしてもそれらを全部リュックに詰めているんだがリュックがいっぱいになる気配もない。だからなんなんだこのリュックは。考えたら疲れるだけなのですぐに思考を放棄し、頭を洗ったり身体を拭いたりしてから寝ることにした。

 イタチたちは倒れているイノシシもどきを気にしていた。

 白イタチがちょんちょんと俺をつっつく。白イタチも当然気にしていた。


「今日はもういらないから、お前たちで食べれば?」


 そう言って寝た。だってもうとにかく疲れたし。文字通り倒れたのだった。

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