いいかげん誰かと話したい

9.俺の冒険が今、始まる!

「ふ、ふふふ……」


 もう笑うしかない。

 マップは俺の視界の右上に出ている。時間としては一時間ぐらいで自然と消えたが、またマップオープンと唱えたら出てきた。もっと早く試せばよかった、マップオープン。

 ま、アレだよな。初日に「ステータスオープン!」とかへんなポーズ付きで言って何も起こらなくて撃沈したからだよな。つか、ステータスが見られないのに誰が他のウインドウなら開くと思うんだよっ! いくら厨二病だってそこまでこじらせてねえよっ!

 もしかしたら他にもできることあるのかもしれないな。ゲームでできる操作って他になんかあったっけ。

 ってことはここはゲームの世界なのか? それとも神々の箱庭的な場所とか? もうわけがわかんねえ。

 また明日いろいろ試してみよう。もう今日は疲れた。店じまいだ店じまい。つーわけで白イタチと一緒に寝た。毛皮がちょっとだけくすぐったかった。



 翌朝からはマップを使ってこの安全地帯と竹林を調べることにした。竹林の中には見事に何もいないが、この安全地帯には俺っぽい星を中心として周りに小さな黄色い点が動いているのがわかる。きっとこの黄色い点がイタチたちなのだろう。俺のすぐ横にある青い点が白イタチかな。

 ん? なんか赤っぽくなっている場所の端っこから……?

 赤い点が見えたと思ったらドドドドドドドドドドッッ!! とすごい音が響いてきた。

 あー、この赤い点は敵なわけかー。そうかー。

 本日朝から攻めてきたのはシカもどきだった。角が激しく立派です。そういえばコイツらの骨とかも全部木々の向こうに放り投げてるんだけど、こういうのって使い道とかないもんかな?

 シカはでかいから解体がたいへんで困る。しかもなんか熟成? みたいなのをさせないとあまりおいしくないし。つーわけで新聞紙でくるんでリュックにしまって一日置いておくんだが、いつも悪くならないかひやひやしている。冷蔵庫や冷凍庫がある元の世界では肉の常温保存とか絶対にしないように! おなか壊すぐらいじゃ済まないからな!

 俺が食べる分の肉を取った後はイタチたちがもりもり食べる。こうして翌朝には骨だけになっているという寸法だ。

 ちょっと骨に触れてみる。なかなかに頑丈そうだった。十徳ナイフで切ろうとしたが切れそうもない。この骨……矢じりかなんかに使えないかな? とかいろいろ考えてはみた。

 その翌日、俺はようやく木々の向こうへと出かけることにした。一応水鉄砲ならぬ醤油鉄砲は手元に四本持っている。これで四頭までは倒すことができるだろう。……うまく当たればだけど。

 今回はマップオープンで範囲を広げることが目的だ。とにかくマップが表示されないとどこに何があるのかわからない。だからこの赤っぽい地帯をまっすぐ行った先までマップが見えるようにしたい。もちろんそれが表示できるようになったら今度は竹林の先だ。とにかく行動範囲を広げたいと思った。

 いいかげん誰かと話したいよおおおお! 盗賊とか人殺しとかはやだけどおおおお!

 白イタチは当たり前のように俺の上着の深さがある内ポケットにするりと入った。小さいからできることだな。それに柔らかいから入れるみたいだ。顔だけ出して俺の顔を見ているのがとてもかわいい。うん、小さいイタチ、いいな。

 さて、そんなことをやっているヒマはない。木々の向こうへ足を踏み出せばそこは一気にサバイバル空間だ!

 この上着、いろんなところにポケットがあるから水鉄砲がいっぱい入っていいよな。一歩間違えたら醤油まみれになっちゃうけど


「ミコ、行くぞ」


 そして、ここにきて俺は白イタチに名を付けた。白イタチーミコはクククククとかわいく鳴いた。

 そう、かわいいのだ! 半端なくかわいいんだミコは!

 ……俺の語彙力がないのが露呈しただけだった。

 さて、気を取り直して探検である。今日は赤っぽいマップ上で魔獣を倒しても持っては帰らない。今日は安全地帯に戻ったらマップの確認をする予定だ。

 いざ、行かん!

 どきどきしながら原っぱから木々が多く茂っている場所へ足を踏み出した。そのまま目の端でマップを確認しながら細長い通路っぽくなっている森の中を歩いていく。どうしても足元の枝などは踏んでしまいパキッとか音を立ててしまう。でも大丈夫、俺のいるマップ上に赤い点はまだない。そのまま200mほど歩いただろうか……今までなかったマップの向こうが現れた。そこからは片側の竹林は途切れていて普通に森になっている。マップを動かして確認したいがそんなことをしたら魔獣に突進されそうなのでとりあえず竹林に沿って右の方向へ歩いていくことにした。

 竹林の中に入ってしまうと外のマップが消えてしまうので竹林からは2mぐらい離れて歩いていくことにした。魔獣の姿を確認したら水鉄砲を打つか、竹林の中へぎりぎり逃げ込めるぐらいの位置である。そうやってどんどんマップを表示させていくことにした。竹林に添って歩くこと2時間。ここで俺はおかしなことに気づいた。


「あれ? 竹林って安全地帯からまっすぐ進んで1時間ってところだったよな? ってことは、あそこはあそこで途切れているけど、こっち側に来ていればまだ竹林の中を進めたってことか?」


 どうも竹林は俺が思っているより広範囲に広がっているらしい。


「ってことは、竹林の範囲がわかっていれば安全な場所を進める範囲も広がるってことか……」


 ちなみにこの竹林に沿って歩いている間に魔獣の襲撃は二度受けた。一度目は水鉄砲ならぬ醤油鉄砲が当たり、スライディングして即死、次はスライディングしてきた魔獣に潰されてはかなわないので竹林にまんま逃げた。ヘタレと言うなかれ。俺は戦士ではない。決してない!

 そんなかんじで歩くこと三時間。(もちろん一時間ごとに五分ぐらい休憩はした)

 ……うん、相当長い範囲で竹林が続いているということはよくわかった。今日のところは戻るとしよう。

 明日は野営も含めて準備をするようだな。たまに魔獣の襲撃がある以外はそれほど景色も変わらないので飽きてきたともいう。気を抜いてはだめだ。

 竹林の中に入る。ほっとした。

 と、その途端竹林の中に黄色い点が現れた。


「!?」


 黄色い点ということは敵、ではないのか?

 白いマップ上に二つ黄色い点がある。点と点は離れているように見えた。

 俺の星には相変わらず青色の小さな点がある。これは、ミコだな。

 何がいるのかわからないので、俺はそのまま周囲を見回した。森の中も静かだったと思うけど、竹林の中は更に静かだった。




ーーーーー

やっと話が動きそうですよ、奥さん!(誰

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