1.でっかい角のあるイノシシとかまさに異世界
山田彼方です。
一月半が過ぎましたが未だ誰にも会っていません。
どうもここに誰かがいた痕跡はあるのだけど、錆びた剣とか鎧とか鍋、そして人骨があるばかりで生きた人には会えていません。(さすがに人骨を見つけた時はビビッた)
いいかげんイタチ(?)たちに話しかけるだけの生活というのも寂しいです。
出会いカモン。
あ、でも盗賊とか、悪い人はナシでお願いします。
……いいかげん丁寧な口調でやるのも疲れてきた。
話を整理しよう。
まずは、俺がここに来た経緯と初日の怒涛の状況を聞いてほしい。(誰に話してるんだ俺は
俺は17歳の男子高校生だ。
クラスの女子に高一の頃から密かに惚れていたが、先日その女子と他校のイケメンが一緒にいてじゃれ合っているのを見かけた。あれが彼氏でなくてなんであろう。イケメンはなれなれしく彼女の肩を抱いてどこかへ行った。
失恋決定だった。
落ち込んでいる俺に、いまだ厨二病全開(オタクである)の父親がでかいリュックをくれた。
なんでもオタクの聖地と呼ばれるアキハ町の露天で買ってきたいわくつきのリュックだという。
「100円だよ100円! で、このリュックの中に入れたものはなくならないんだってさ!」
見た目立派で頑丈そうな新品のリュックが100円とかありえないだろ。つか、リュックの中に入れたものがなくなったらおかしいだろ。
「チッチッチッ! わかってないなぁ彼方は、例えばこのリュックにポテチを入れて取り出すだろ? だけどリュックを閉めて再び開けるとポテチがもう一袋あるんだ!」
「ポケット叩いたらビスケット割れるだろ。そりゃあ数だけは増えるよな」
「夢もロマンもない!」
父親がムンクの叫びポーズをした。あー、うっせー。
まぁリュックとしては使えそうだからもらうことにした。でも底が抜けたりしたら困るよな。試しに重そうな物……と思ったけど教科書とか入れて出したらもう一冊プレゼント! とかされても困るので缶詰をくすねることにした。桃缶とかみかん缶、パイナップル缶でも入れれば大丈夫かどうかわかるだろう。
入れて持ってみたらけっこうな安定感だった。
翌日、学校へ行った。正直彼女の姿を見るのがつらかった。
すんごく唐突に、山へ行こうと思った。
「なんかあったのか? 失恋でもしたか?」
という無神経な父親の声を背に、俺は無言で山登りの準備をした。鈍行で二時間ほどいった先に1892mある山があるのだ。それほど登る人もいないと聞いているから、一人になっていろいろ考えることもできるだろう。
考えたところで失恋は変わらないが。くそう。
親は面白がっていろいろなものを準備してくれた。飯盒に生米とかどうしろというんだ。なんか高そうな十徳ナイフももらった。ビニールシートとか段ボールとかあるといいよと言われ、なんとなく言われるがままに全部入れた。
ペットボトルは二本。500mlのと2リットルのだ。それから念の為にでかい水筒。俺はキャンプにでも行くのだろうか。
防寒具、ライター、ステンレス製のカップ、ビニールシートエトセトラエトセトラ……。
だから俺はどこへ行くのか。
リュックの中身が何日野宿するんだと言いたくなるような状態になり、夏休みを迎え。
俺は予定通り山に登った。
地上は晴れていたが山の上の方では霧が出ていた。おかげでけっこう快適に登れた。登山道の途中でわたがしみたいな雲が浮いていた。触りたいと思ったがそのまま道を反れて流れて行ってしまった。ちょっと残念だった。
山頂に着き、二果山(にはてやま)山頂1892mと彫られた石碑に触れた途端不思議なことが起こった。
「うえっ!?」
「え? 何!?」
一瞬石碑が光ったかと思うと、俺は見知らぬ原っぱにいた。
さっきなんか女性のような声が聞こえたような気がしたが、近くには誰の気配もない。気のせいだったのかもしれなかった。うん、気のせいということにしておこう。
それよりもまずは現状把握である。
俺は先程まで山の上にいたことは間違いない。でもここは原っぱだ。山の上にはこんなに草は生えていなかった。石碑もなくなっている。
俺は極力顔を動かさず、周りを見た。
原っぱの真ん中辺りに立派な木が何本か生えているのが見えた。間隔が多少空いているから林、というほどでもない。そしてこの原っぱの周りは何故か竹がいっぱい植わっているように見える。一部は普通の木のようだが、それ以外は全部竹だ。誰かの土地にでも入ってしまったんだろうか。
どうやって?
「……とりあえず落ち着こう。まずは段ボールでも敷いて……」
あまりにも静かすぎて口に出さずにはいられなかったのだ。リュックに入るよう四つに折りたたんできた段ボールを出して敷いた。けっこうな広さがある。ちょっと落ち着いた。
「とりあえず飲み物を確認……」
ペットボトルを二本とも出し、水筒を出した。飲むなら水筒からがいいだろう。
お茶を一杯飲んでから考えよう。
だが水筒からコップに注がれた液体を見て、俺は叫んでしまった。
「なんじゃこりゃああああああ!?」
OKOK、きっとこれは夢だ。
そうでなければお茶を詰めてきたはずの水筒の中身が焼肉のタレになっているはずがない!
親のいたずらか? いたずらなのか!? そんなヒマあったか? つーか俺の水筒に焼肉のタレを詰めてどうしろというんだ。野生動物でも狩ってBBQでもしろってのか!? そんな解体スキルとかないし。
え? 味見したのかって? したよ! だって朝お茶を淹れてきたつもりだったんだぞ。そしたら焼肉が食いたくなっちゃったじゃないか、どうしてくれる!
しょうがないから500ミリのペットボトルから半分ほど飲んだ。くそう、まだ口の中がしょっぺえ。
この原っぱには水が出るようなところはないんだろうか。やっぱりここから出て川を探さなきゃだめか。そんなことを思いながらリュックを開けたら。
「あれ?」
なんでまた500ミリのペットボトルがあるんだ? 水が満杯に入っている。それを取り出してリュックを閉じ、ペットボトルを見比べた。俺、二本も入れたっけ? まぁいい。もう一本あるなら飲みかけのペットボトルは飲んでしまおう。飲んでから空のペットボトルをリュックにしまった。さすがにごみをここに捨てて行くわけにはいかない。
「あー、どーすっかなー」
呟いたら、原っぱの普通の木々が生えている向こうからすごい音が聞こえてきた。
ドドドドドドドドッ!
なにかが走っているような、そんな音である。それがどんどん近づいてくる。
「嘘だろ……」
呆然としている間に姿を現した何かには、でかい角があった。
「え? イノシシ? え? なんで?」
でかい、というほどではないが角のあるイノシシもどきが俺めがけて突進してきた。
「だからなんでだーーーーっ!?」
俺はとっさに、水筒のコップを取り、その中身をイノシシに向かって投げた。
ピギイイイイイイイイイイイイイッッッ!?
目をギュッとつむって衝撃に備えたのだが、いつまで経っても衝撃がこない。おそるおそる目をそっと開けると、何故かイノシシもどきが泡を噴いて倒れていた。その顔に焼肉のタレを浴びた状態で。
「ええええっ!?」
何がなんだかさっぱりわからなかった。
これが、俺がこの安全地帯に来た日の出来事である。
その後のああでもないこうでもないは面倒くさいの端折ることにする。(また後で説明するかもしれないが)
まぁとにかくたいへんな思いをしてイノシシを解体し、何度もリバースし、リュックの中身がなくならないということは学んだ。水を使ったら使っただけ補充されるとかなんというチートなのか。イノシシもどきの残りはいつのまにか近くに来ていた小さいイタチ(?)たちが食べ尽くした。弱肉強食を地でいくイタチたちに戦慄したが、何故か懐かれてしまった。ポテチを一かけずつあげたのがよかったのかもしれない。
え? 野生動物に人間の食べ物やるなって? うっせー、そうでもしなきゃ俺が餌になりそうだったんだ。しょーがねーだろ。
そんなわけでイタチ(?)たちと俺の奇妙な異世界ライフが始まったのだった。
ーーーーー
今日中に全部で6話上げる予定です。よろしくー
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