第3話 急襲
「オジサン、やっぱり変な人……?敵意はないから付いてきたけど、やっぱり帰ろうかな……」
突然涙を流す俺を見た少女は、ドン引きした様子で刀を置き、ゆっくりと距離を取り始めていた。
「す、すまない!警戒しないでくれ、少し昔のことを思い出しただけだ」
「ふーん、何も考えてないような顔してたけど、悲しい事があったんだね」
「悲しい……。そうだね、思い出すだけで胸が裂けそうだよ。でもその悲しみに立ち向かうために、もうすぐ俺は旅に出るんだ。つまり、その……もうこの家は使わないから、よければ好きに使ってくれてもいいよ。もちろん君に帰る家が無ければの話だけどね」
するとそれを聞いた彼女の目の奥が、王都で出会った時のように暗く濁り始めていた。
スリをしていた時と同じ、絶望のような喪失のような、何とも子供には似合わない瞳である。
「そうだ、私追い出されたんだった。もう帰る場所、ないんだった……」
「どういうことだ?家を追い出されたって。親とケンカでもしたのか?それとも何か経済的な問題でも……」
「ううん、違う。私、もう必要ないんだって」
「必要がない?一体どういう……」
ここから俺は、いよいよ彼女の立場や状況を知ってこうと思った。
—————だがその瞬間だった
【パリィン!!パリィン!!!】
突然部屋の電球ガラスが割れ始め、一瞬にして視界が真っ黒に変貌していた。
そして瞬時に俺は気付く。
先ほど俺たちが入ってきた玄関から、何者かが凄まじい速度で侵入してきた事に!
そして……。
【シュンッ!】
侵入者は躊躇うことなく俺の喉元に向けて鋭利な刃物を近付けていた!
目が暗闇に慣れていない内に殺そうという、明らかにプロの手際だ。
だが俺も反射的に食卓テーブルに置いてあった10cmほどのナイフを手に取り、そのまま相手の刃物の先にドンピシャで接触させる!
数ミリでもずれれば俺の喉元に刃物は刺さっていただろうが、そんなリスクを考えている余裕は無かった。
とにかく一瞬の判断で何とか自分の命を守った俺は、そのまま相手の腕を掴もうとする。
だがここまでスムーズな作戦を実行する侵入者だ、簡単に腕など掴ませてはくれなかった。
【タッ……!】
直後に俺との物理的距離を取ったかと思えば、間髪入れずに魔法を唱える。
「
すると突然侵入者の右手に白く強い光が灯り始め、部屋全体を強く照らし始めた。
本来なら自分の手元を照らす程度の3級サポート魔法のはずだが、実力者という事もあってか"とてつもなく強い光"を放っている。
「くっ……!」
目を完全に開けられない俺をよそに、侵入者は再び体勢を整え直す。
どうやら再び視覚を奪い、もう一度攻撃を仕掛けるつもりのようだ。
まぁ良い。来るなら来い。
不意打ちですらない攻撃を、俺が防げない訳がない。
————と思っていたのだが……。
「くそ」
俺は反射的に呟く。
なぜなら侵入者は瞬時にターゲットを変え、俺の斜め前にいた赤髪の少女に向けて刃物を投げつけていたのだ!
しかも厄介な事に、刃物には毒物のようなモノが付いている事に今更ながら気付いた。
いや、そんな分析はどうでもいい!
俺は足の裏に魔力を集中させ、一気に爆発させるイメージで地面を蹴った。
だが残念ながら俺の家は古い。
その蹴りだけで木の床は激しく割れてしまい、そのおかげで俺のスピードも半分ほどに落ちてしまっていた。
「クソ、間に合え……!」
俺は歯を食いしばり、手元のナイフを刃物に向けて投げ飛ばす!
————だがここで俺は、戦いへのブランクを最も感じる事となってしまった。
【ヒュオンッ!】
なんと侵入者の投げたナイフは不自然に方向を変え、宙を駆ける俺の方に向かってきたのだ!
今になって気付いたのだが、どうやら刃物には毒だけではなく、細い細い糸が付いていたようだ。
恐らくそれを上手く使って、初めから俺に向けて攻撃するつもりだったのだろう。
「これは……避けれないな」
自分の発した言葉通り、刃物は俺の右肩に突き刺さっていた。
そして直後に炎のような熱さが右肩に広がる。クソ、やはり毒は付いていたようだな。
……待てよ。しかもこの毒、動物性の軽い毒なんてモノじゃないな。
もっと人工的な、色々な細菌を無理やり混ぜ合わせたような最高級に最悪な毒の感覚がする。
「オジサン!?」
再び暗くなった部屋の中に、少女の声が響いていた。
————————
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